丸く大きな輝き
…どうしたらなれるんだ?
そう一心に空の彼方に問いかけても
丸く大きな輝きはただ黙々と世界を包み続ける
部屋の中でも、玄関の前でも、俺の瞳の中でも
…等しく、強く、温かい
光に満ち溢れ何もかもを照らし出す
俺はこの輝きが大好きだった
でも今は憎い
いつも俺は傍にいるのに、お前は俺のことを知らない
俺はお前の悪いクセを知っている
それは俺が悲しみに堕ちている時でも
俺の本当の気持ちを知らないで、ただ、優しく傍で微笑み続けていることだ
俺は嘘つきで、臆病で、最低だ。
でも、そんな俺もお前みたいになれたらなって
…思うんだ。
家を出た俺は無意識のうちにズボンのポケットから煙草を出していた。
なぜか勝手に脚が動き続けている。
どこに向かっているのかを自問自答しているうちに一本を軽々吸い終わる。
その繰り返し。
脳裏に浮かぶ病室の映像。
そこにはベッドで眠り続けたままの人形のような女の子と、必死にその女の子を起こす術を探す白衣の男がいる。
その女の子は全身打撲、脳挫傷、意識不明の重体。
雨の日に操作を誤った車に追突され起こった惨事。
誰が悪い、誰を裁け、誰を…
…ふざけている。
一番大切なことは、何なんだよ…
結局、関係のない人間は現実逃避して都合のいいことを言い、やがて忘れていく
意識不明の女の子のことを、家族の想いを、友達の気持ちを…
同じ世界にいるはずなのに、何も知らないままに。
ふと足下を見ると、地面には誰かが捨てた空き缶と自らが落とした煙草の灰が散らかっていた。
…皮肉。
わざと土踏まずを空き缶の上に乗せ、体重を掛け、無残に踏み潰す。
気づくと片づけるどころか自分は道端に蹴り飛ばしていた。
甲高い音が立ち並ぶ家々の壁に反射し、増幅し、消える。
…八つ当たり。
再び足下をみると、煙草の灰だけが図々しく残されていた。
自分の苛立ちが消え、目障りな空き缶も消えたが、病室の映像は消えない。
…俺がこんなことをしている間も
女の子を助けるために努力している男がいる。
…俺に出来ること。
それは医師として命を救うこと
そして、自分の全てを賭けること
右手には何本目か把握していない煙草が、左手には大量の煙草で溢れかえった携帯用灰皿が。
いつの間にか商店街まで来てしまっていた自分は、その滑稽な姿を立ち並ぶ店のガラスで確認した。
周りの人間の視線を気にせずに踵を返す。
すれ違う度に向けられる鋭く陰鬱な視線の多さから今日は休日だったことを思い出す。
確かに、この灰皿から飛び出した煙草の多さを見れば変な風に見られてもおかしくない。
…でも、そんな見られ方を許せない自分がいる。
何を考え、何を想い、何をしようとしているのか?
…決まっている。
俺は女の子1人を助けたいだけだ。
歩いてきた道を戻れば戻るほど俺は期待していく。
いったいどれだけの人間が俺の中の本当の姿を見てくれているのかを。
無表情で煙草を吸う通りすがりの人間が世界にどう映るのかを…。
女の子の容態は植物状態。
彼女自身で呼吸すること自体、危うい状態。
大脳、小脳、脳幹に損傷がありすぎる…。
残された選択肢は電気刺激による脳幹の活性化…。
…だめだ、電気刺激治療は金額が掛かり過ぎる。
……………………。
…どうすればいい
確実に助ける方法なんてどこにも…
………
………………………………………………………………
…、………………………………………………………………。
………ないんだよ…
海岸沿いにある公園内のベンチで泣く男に人間は声を掛ける。
「…隣りに座るよ、
君主くん………。」
「……………………………」
「わたしね、いつも走る時はここで休憩するんだ…。
ずっと走り続けると見えなくなっちゃうものもあるからね…」
「……………………………」
「…、顔を上げて…君主くん
こうすれば、あの輝きが涙を消してくれるから…」
「……………………………、…」
彼女もまた自らの涙を抑えるために男と一緒に
空の彼方で輝く太陽を見つめる
ジャージ姿のその人間は涙を流す男に優しく微笑んでいた