1:部屋に在るモノ
男は1人部屋にいた
その空間は他の存在を拒み遮る箱庭
そして、刻一刻迫りくる負の誘いが
彼の全てを狂わせていく
今一度目覚めたとき、思いを埋葬できないまま
ーーー目を覚ますとそこは、暗闇だった。
腐臭がする。
臭いのする方向へ腕を模索する。
自身の指先が感じ取る要素。
丸い容器、軽い、中に何かが…在る。
自身の脳内で昨晩の食事の記憶を振り返る。
………。
音がする。
おそらく、門前を通る学生の声だ。
男の子の声と女の子の声。
元気がいい。
これぐらい明るければ、自分のいる場所にも聴こえるのか。
楽しそうだ…。
変化の無い眼前の景色。
絶えず瞬きを繰り返す。
今感じているモノは本当なのか?
…。
肯定するしか選択肢はない。
日々、重みを増していく身体を休ませる場所は、ここしかない。
…光の差し込まない場所。
窓という外の世界を観れるモノの存在は部屋の至るところに点在するが、無いに等しい。
自分は全く、窓を開けなくなった。
過去は毎日、空けていた記憶が…在る。
思考には限界が在る。
光が無ければ全てを疑うざるをえない。
嗅覚、触覚、聴覚。
そして視覚…。
これらの感じるモノは絶対的なはず…。
だが自分がいる場所は、どうだろうか。
明かりを点せば問題は解決する。
自分の感覚を全て鵜呑みにし、満足できる。
そして、更なる欲求を求めるが如く邁進する。
…正しい。
恐らく、これが普通の人間だ。
しかし、どうやら自分は違うらしい。
他の人間とは違うらしい…。
自分の感じるモノが違うのか?
感じている自分が違うのか…?
…、…。
疲れている。
連日、不眠の生活。
思い浮かぶのは卑屈な戯言。
こうしている間にも…。
…救えない命が確実に、消えていく………。
自分がこのまま生き続けると、消える…。
自分がこのまま消えても、消える…。
どちらを選んでも変わらない。
光が差し込もうが
暗闇のままだろうが
全く、関係ない…。
何か理由が欲しい。
慰め、慈しみ、優しさ…。
こういう温かさでもいい。
とにかく自分が少しでも楽になれればいい。
どちらにせよ結局、起こりえることは一つしかないのだから…。
あとどれくらいだろうか。
この葛藤が続くのは…。
意味のない時間を潰すだけの悪あがき。
時間が止まろうが、戻ろうが、進もうが…。
自分は、受け止めるしか出来ない………。
代わりになれればいい…。
自分の身体が、記憶が、心が。
消えうせてしまえばいいのに…。
そうすれば…。
救えない命なんか…。
……………。
自分は見つけられない…。
答えを教えて欲しい。
…いいや。
答えはあるのだろうか…。
教えて欲しい。
自分は他の人間とは違う。
だから、わからないのだろう。
どうすればまともな人間として在ることができるのだろうか…。
なんでもする。
だから、お願いだ…。
…そうか。
誰も話を聞いてくれないのか。
いいよ、自分も実はそれを望んでいたんだ。
他の人間がそうでいてくれたほうが自分は…。
………。
でも、一つだけ言わせてくれ。
自分はこれだけは伝えておきたい。
俺と。
他の人間も同じこの…。
…部屋にいるということを。
………………………………………………………。
ーーー瞳を閉じてもそこは、暗闇だった。
男は再び眠れない眠りにつこうとした
しかし…
自分の身体の影を久々に確認する
頭上から部屋を照らす照明
そして自分以外の人間の姿が、眼前にあった