9:壊れた世界と君との約束
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俺が高校3年生の時のクリスマス・イブに、…アイツは死んだ。
街を襲った地震は火災を起こし、『赤い雪』が降り続いていた…。
少し前の幸せな時間は消えていた。
俺の瞳に映っていたのは…死んだ人と、死んだ希望と、死んだ大切なモノだった。
高校の屋上は安全で被害は少なかった。
…そう、俺たちが生き残り、アイツは死んだ。
俺たちにアイツはある約束をして、存在を捨てた…。
一緒だった時間も、幸せも、想いも…
アイツの誕生日を祝うために集まっていたのに…。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか…
…そうだ、夢を見ているんだ
こんなの現実なわけがない…
翌日、眠りから覚めた俺たちは再び高校の屋上に立っていた。
壊れすぎた街を癒やす方法は見当たらない。
俺たちは紙飛行機を飛ばしていた…
…叶いもしないアイツの笑顔を求めて。
数日後、俺はボランティアで傷ついた人たちを看病していた。
避難所、倒壊した家、施設所…
みんな泣いていた…。
…笑顔なんてどこにもなかった。
これからどうなるんだろう…。
また世界は俺に…、俺たちに何かを与えるのか…
アイツを奪った世界は、今度は何を………
………。
手当てをする患者の顔からは涙が流れ続いていた。
それは全身の火傷を負った皮膚に浸透し、新たな痛みを創っていた。
俺は自分の涙を必死に堪えながら患者の身体を消毒した。
…でも数日後、その患者も死んだ…。
涙を流すことが悲しみなのか…?
人の死を受け入れることが俺を強くするのか…?
俺が弱かったからアイツを守れなかったのか…?
………、…教えてくれ。
施設所に戻った俺の目の前には新たな患者が椅子に座っていた。
……………。
その男の子は、俺が過ごしてきた記憶に刻まれている…。
…俺とアイツと、この子と、…もう1人の女の子…
俺は男の子に質問する。
しかし、男の子は首を横に振るだけだった。
俺とアイツと、この子と、もう1人の女の子で遊んだ記憶は完全に消えていた…。
この子の中のアイツも…、消えてしまっていた。
黒髪の長い人だよ…。
歌が上手な人だよ…。
首飾りをしてる人だよ…。
…俺が好きだった人…だよ………。
俺は君の事を知っているよ…。
…君は、あの女の子が好きなんだよね…。
俺も君と同じくらいアイツのことが…
…………………。
アイツは消えてしまった…。
…でも君と俺のこの想いは、壊れた世界にある。
だから、一緒にこれから頑張ろうね。
…約束しようね。
君も自分の心の中でいいから、…何か一つ、俺に約束してくれるかな…。
……………。
…うん。
いい約束だね…。
…なんで約束をするのかって………?
…それはね、俺の好きだった人が最後に笑って約束してくれたからなんだ…。
なんて約束したの…って………?
…それは秘密…だよ。
…さあ、そろそろ俺は行かないとなんだ。
君は………、そっか…。
…でも、また会えるよね…。
…最後に………、一緒に海に行こうか………。
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「………………先生、俺忘れていました…。
…先生が俺を助けてくれたということしか…覚えていませんでした………。」
「俺がアイツの死について話したのは、今が初めてなんだ…」
「……………………………」
「時見くん…、園歌ちゃんは今も…、君の目の前にいる…。」
「…………………………………………………………………………………」
「だから、まだ頑張るんだ………。
あの時俺が聞いた…、君の中の約束を守るために…」
「……………………………、………。」