二つの白衣
休憩室には俺と同じ白衣を着た男
脚を組み、飲みかけのコーヒーをゆっくりと飲み干していく
混ざりのない、黒い水面
そこに映る俺を確認すると、微笑し、男は一気にコーヒーを飲み干した
「…君主、帰ってくるのが遅かったな…。」
「…あぁ、寄り道をしてて、ちょっとな…。」
「煙草を吸うんなら屋上でしてこいよ…。
俺たちしかいないといってもここは…病院、だからな…。」
「…いいや、煙草はもう大丈夫だ。
俺もコーヒー、淹れてくれるか…?」
「……………、…ふふっ。
あいにくミルクとシロップは切れているが、…それでもいいか?」
「…ああ。
試してみるよ…。」
「だからバレンタインは地獄だったな~。なんでチョコとかクッキーなんだろうな?」
「…それは自慢か、って…、まさか最初から休憩室にミルクとシロップは置いてなかったのか!?」
「…だって、休憩室でブラック飲むの俺ぐらいしかいないんだよ!!!
だから俺は高校からコーヒーミルを持ってきて、お店さながらの味をだね………」
「はぁ…。病院を手伝ってくれるのはありがたいんだけど、さすがになぁ………。
せめて、ミルクとシロップを置いておけば、需要が増えるんじゃないか?
コーヒーミルに中身を入れておいても、湿気る一方だもんなぁ………」
「……………、君主、ありがとな…。」
「………、どうした急にあらたまって?
俺は飲ませてもらってる側なんだからべつに………」
「俺は好きだぜ。…お前のそういうところ」
「………、…?」
「昔から俺が抑揚する時は、悲しいときだ…。
さっき俺がコーヒーを飲んでいる時に、俺はそこに映る自分と君主を見て気づいた…」
「………。」
「…笑わないと。自分も…、君主も、もっと悲しくなってしまう…。
…だから………、俺は…」
「…、………。」
「…白鳥と、…もう1人、時見がいる…。
他の子たちには、まだこの結果は伝えていない………」
「………、…ああ。」
「俺が2人に声を掛けても、…ダメなんだ。
…でも、君主なら…、必ず………」
「なぁ、島田…。」
「…、…?」
「…落ち着いたら、…みんなが笑えるようになったら………、
…一緒にミルクコーヒー、飲もうな…。
俺は立ち上がり、病室に向かう
空っぽの紙コップを強く握り締め、男は俺に言ってくれた
そして、俺は胸元の黒い染みを、力強く、舐めた