切願
「お星よお星よお星様、あたしの願いをお聞きくださいませ。どうか後生でございます……」
その少女は毎日毎日空に向かって、手を合わせ祈っておりました。
「ああ、お星様。一度で構いません。どうか私の願いをお聞きくださいませ……」
来る日も来る日も祈り続けておりましたが、お星様は一向に返事をしてくれませんでした。
そんなある日、不憫に思った一匹の小さな妖精が、少女のもとに現れました。
「やぁ、ボクは妖精のケルン。よろしくね。キミの名前はなんて言うんだい?」
少女は少し驚いた様子でしたが、一瞬の沈黙の後、こう答えました。
「あたしの名前はセレネよ、どうぞよろしく。妖精って本当にいるものなのね。あたしビックリしちゃったわ」
ケルンは少し照れて、セレネの周りを嬉しそうに飛び回りました。
「ところでセレネ、君は毎日毎日お星様に向かってお祈りをしているようだけど、一体何を願っているんだい?」
セレネの明るかった顔に、どんよりとした暗雲の表情が立ち込めました。ケルンは躊躇しながらも、続けました。
「どうにも辛いことがあったようだね。ボクたち妖精もほんの少しなら魔法が使えるんだ。何か力になれることがあったら……」
ケルンが言い終わらないうちに、セレネは泣き出してしまいました。
「ケルンの気持ちは、とってもありがたいわ。でもあたしの願いはお星様しか叶えられないと思うの。うぇぇぇぇん、うぇぇぇぇん」
ケルンは自分の力不足を痛感しながらも、必死にセレネを宥めました。
「セレネ、どうか泣かないでおくれよ。あ、そうだ。そういえばボクは北の偉い偉いお星様を知っているんだ。北極星様って知っているかい?」
涙をこすりながら、セレネは言いました。
「いいえ、知らないわ。だってお星様は一度も応えてくださらないもの……」
セレネの悲しそうな顔を見て、ケルンはさっそく、偉い偉い北極星様に向かって叫びました。
「北極星さま〜。北極星さま〜。いらっしゃいますか〜?」
ケルンは呼びました。すると空が煌めき出しました。
「私を呼ぶのは誰だい?」
星空が震えだすような大きな声が響きました。
「北極星様、北極星様。この子はセレネと言います。どうかこのかわいそうなセレネの願いをお聞きください。そしてできることならば、その願いを叶えてくださいませ」
「おお、ケルンではないか、随分久しいな。そういえばケルンには大昔に、星の導きの貸しがあったな。よし! セレネのために一肌脱ごうではないか。私にできないことはない。君が望むどんな願いも叶えると誓おう」
セレネは一瞬微笑んで、こう聞き返しました。
「北極星様。それはほんとうでございますか?」
「ああ、私の言葉に嘘、偽りは決してない」
「それならば北極星様……この世界を破滅させてくださいませ。人間どもを根絶やしにしてくださいませ」
北極星は《どんな願いも叶える》と誓っていました。
その願いが、どんなに悪意に満ちていようと、どんなに不条理であろうとも………。
2009/8




