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第三節 スキルと世界のルール

カーラが鑑定書を書き上げるあいだ、ガルドが真をテーブルに誘って座らせ、世界の基本を説明した。

机の表面には傷がたくさんあった。

剣や武器が当たった傷もあれば、使い込まれた傷もある。

長い年月をかけて、多くの人間がここに座ってきた証拠だ。

真はその傷を見ながら、自分もそのうちの一人になったのだと思った。

「スキルにはランクがある」とガルドは言い、机の上に指で縦に線を引いた。

「白、緑、青、銀、金と上がっていく。そ

の上に超レアがあり、さらに上がユニークだ」

「ユニークというのが」

「世界にそのスキルを持つ者が一人しかいない、という意味になる。お前さんの言霊付与はユニークに分類されている。つまり今この瞬間、世界でお前さんだけが持っているスキルだ」

「一人しかいないということが、なぜ分かるんだ」

「スキルの登録制度がある。ギルドを通じて全てのスキルが記録されていて、同じスキルが出れば照合される。ユニークは登録が一件しかない。お前さんが二件目になれば、ユニークではなくなるはずだが、まだ一件のままだ」

「三万年前の記録が一件目で、俺が二件目か」

「三万年前の記録には、本人のスキル登録ではなく、スキルが確認されたという目撃記録しかない。だからお前さんが実質的な初登録になる」

ユナが横から言った。

「スキルの登録は任意じゃないの。義務ではないが、冒険者として活動する場合は必須になる」

「そういうことだ」とガルドが頷いた。

「超レア・ユニーク、というのは両方の条件を同時に満たしているということだ。前代未聞といっていい」

「レベル1というのは、まだ始まったばかりということか」

「そうだ。伸びるということでもある。スキルは使うことで育つ。お前さんの場合は言葉に力を込めること、それを意識的に繰り返すことが成長につながる。昨日、男たちに向かって叫んだとき、感覚はあったか」

真は昨日のことを思い出した。

腹の底から声が出て、電流が走って、空気に何かが弾けた、あの感触。

「あった」と答えた。

「指先が痺れた。体に電流が走ったような感覚だった」

「それが言霊付与が発動したときの感触だ。意識的に再現できるようになれば、レベルが上がる」

「どうすれば意識的に再現できる」

「練習するしかない」とガルドは言い、少し間を置いた。

「ただ、お前さんの場合はポイントが一つある。昨日、なぜあの声が出た。考えてから叫んだか」

「考えていない」と真は即答した。

「考える前に出ていた」

「何が出る前に来た」

「ユナが危ないという感覚が先に来た。それが出て、声になった気がする」

ガルドが頷いた。

「それだ。感情が先にある。昨日の盗賊に向かって叫んだときは、ユナちゃんを守ろうとしていた。その力が出た。お前さんの言霊は、感情が言葉を動かすことで発動する」

「理屈で使うより、感情で使う方が効くということか」

「少なくとも今の段階ではそうだ。上位になれば変わるかもしれないが、今は感情に乗せる方が確実だろう」

「分かった」と真は言った。

「つまり、怒りや、守りたいという気持ちが力の源になる」

「そういうことだ。ただし怒りだけが源になるわけじゃない。昨日のお前さんが感じたのは怒りではないだろう」

「そうじゃなかった。止めなければという、とっさの感覚だった」

「それでも出た。強い感情であれば、種類は問わないのかもしれない。ただし今の段階では分からない部分が多い。使い込んでいく中で、自分で発見していくしかない部分だ」

ユナが椅子の背にもたれながら言った。

「まことが日本語で何かを書いたら、神話級になる可能性があるということ」

「そういうことだ」とガルドが頷いた。

「試してみるか」

真はポケットからメモ帳を出した。

ガルドが「何だそれは」と聞いた。

「ちょっとしたことを書き留める帳面みたいなもの」と説明しながら、ペンで「斬」と書いた。

「どのくらいまで上がるんだ」と真は書きながら聞いた。

「スキルのレベルは基本的に一から十まであって、十が最高だ。お前さんのスキルが上位になったとき何ができるのかは、三万年前の記録が残っているかどうかによる。リリアという古代語の研究者がダーレムという街にいる。会いに行った方がいいかもしれない」

「リリア」

「ハーフエルフで、古代文献を専門に研究している。日本語という言語に特別な興味を持っているはずだ。お前さんの話を聞けば、彼女の研究が大きく動くだろう」

「日本語が古代語なのか」

「この世界では三万年前に消えた幻の言語として扱われている。研究する者はいるが、誰も話せない。書かれた文字の形は残っているが、発音も意味も正確には分かっていない」とガルドは続けた。「日本語で刻まれたアイテムは神話級と呼ばれている。その力を発揮させるには、書かれた言葉の意味と正しい発音が必要なんだが、解読できているのは世界で五例しかない」

「神話級というのが」

「アイテムのランクの最高位だ。そのくらい、日本語というのはこの世界では特別な扱いを受けている」

ユナが言ったとおり、真はメモ帳に書いた「斬」の紙を切り取り、カーラに渡した。

鑑定石に近づけてもらう。

石が光った。

白ではなく、金色だった。

その金色を超えた、光そのもののような輝きだ。石の表面が輝くのではなく、石自体が光の塊になったような発光だった。

カーラが手を離しそうになるほど、急激に明るくなった。

「神話級、です」

カーラが言った。

声が震えていた。

ガルドが低く口笛を吹いた。

「こりゃ本物だ」

ユナが静かに「やっぱり」と言った。

真は自分の右手を見た。「斬」と書いたペンを持っていた手だ。

特別なことを何もしていない。

ただ書いただけだ。コンビニの発注書にも、シフト表にも、同じペンで文字を書いてきた。五年間、そのペンが何かに力を持ったことは一度もなかった。

しかし今、同じペンで書いた一文字が、神話級になった。

「俺が書けばなんでも神話級になるのか」と真は聞いた。

「日本語で書けば、少なくとも今の実績上はそうなる」とガルドは答えた。

「ただし、お前さんの付与レベルが上がれば、さらに効果が高くなる可能性がある。

今はLv.1だ。これが上がれば、紙に書くだけでなく、声で言うことにも今より強い力が宿るようになるはずだ」

「逆に言えば、今の声の言霊はLv.1の強さということか」

「そうだ。昨日男たちを追い払えたのはLv.1の強さだ。Lv.が上がれば、もっとできることが変わる」

「そのためには使い続けることだ」とユナが言った。

「感情を言葉に乗せることを、繰り返す」

「分かった」と真は言い、メモ帳に「光」と書いた。

渡さずに自分で持ったまま、その文字を見た。「光」という文字が、この世界では三万年分の重さを持っている。

真にとっては普通の漢字だ。小学校で習った。

しかしここでは、誰も読めない古代の言葉だ。

自分が当たり前に持っているものが、ここでは何十年も求められ続けたものになる。

その逆転が、まだ実感として消化しきれていなかった。


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