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第二節 ガルドとの出会い

ギルド支部は村の中央にある広場の一角にあった。

広場の中心には石の井戸があり、その周りに朝の水汲みに来た人間が数人いた。

話しながら水を汲んでいる。

子供を連れた女性が一人、老人が一人、若い男が二人。

全員が井戸の周りに集まって、朝の挨拶と世間話を交わしている。

村の中心がここだ、と分かった。

情報が集まり、人が集まる場所がある。

コンビニの役割に少し似ている、と真は思った。

ただし、コンビニには会話がない。レジで金を払って商品を受け取る。

それだけだ。

ギルド支部は広場の東側にあった。

木と石で造られた二階建ての建物だ。

扉の上に看板が出ていて、何かが書かれている。

文字は日本語ではない。

しかし目で見れば形として認識できて、頭の中で「冒険者組合・エルムの里支部」と翻訳される。

言語が自然と分かるというのは、昨夜ユナが言っていた通りだ。

翻訳されているというより、最初から意味が分かる感じだ。

文字の形が目に入ると、それが何を意味するか頭に直接届く。

読んでいるというより、意味が浮かんでいる感覚だ。

こういう補正がかかっているとすれば、転移の際に何らかの処理が施されているのだろう。

仕組みは分からないが、不便でないのはありがたかった。

扉を押して中に入ると、広い土間のような空間があった。

右手に受付のカウンター、左手に机と椅子が並んでいる。

奥には大きな掲示板があり、紙が何枚も貼られていた。

依頼書だろう、と真は見当をつけた。

客は少ない。

朝早い時間帯だからだろう。

カウンターには二十代と思われる若い女性が一人、書き物をしていた。

茶色い髪をひとつに束ね、制服らしい青い上着を着ている。

真たちが入ってきた音で顔を上げ、軽く会釈した。

もう一人、奥の椅子に大柄な男が座っていた。

四十代から五十代か。

顔の彫りが深く、顎から頬にかけて無精髭が伸びている。

肩幅が広く、腕が太い。

っていても体格の大きさが分かる。

コンビニで見るどの客よりも大きい体だ。

全体から、鍛えられた人間の密度が出ている。

武器は今は手に持っていないが、右手の壁に大型の斧が立てかけてあった。

刃に傷がついていて、使い込まれた道具の色をしている。

男が顔を上げ、真を見た。

一瞬、目が止まった。

視線が真の顔を走り、特に目の色で止まった。

それから全体を一度見て、また顔に戻る。

値踏みではなく、確認する目だ。

何かを探して、見つけた、という目の動き方だった。

椅子から立ち上がった。

ゆっくりとした動作だが、無駄がない。大

きな体なのに、動きに余計な力みがなかった。

長年体を動かしてきた人間の自然な動き方だ。

「お前さん」と男は言った。声が低く、よく通る。

広場の外まで届きそうな声量を、意識的に絞っている感じがあった。

「その黒い髪と目、生まれつきか」

「そうだけど、何かあるか」

「問題どころか、話が違う」と男は言い、にやりと笑った。皺の深い、表情の豊かな笑い方だ

「珍しいものを見た。

俺はガルド。

元傭兵で、今は流れ者の冒険者だ。お前さん、転移者か」

「たぶんそう」と真は答えた。

「昨日の夜、白い光に飲み込まれてここに来た」

「昨日か。来たばかりだな」

「そうなります」

「ユナちゃんも久しぶりだ」とガルドはユナに言った。

視線が真からユナに移り、口調が少し柔らかくなった。

「ガルドさん」とユナが頷いた。知り合いらしい。

どこで知り合ったのかは分からなかったが、距離感が親しみのあるものだった。

ただし、ユナが感情を見せる相手は限られているのか、笑顔というほどのものではなく、ただ認識を示すだけの頷きだった。

それでもガルドには伝わっているらしく、特に不満を示す様子はなかった。

「ちょうどよかった」とガルドは真の方に顎を向けた。

「冒険者登録はまだか。するならカーラに頼め。俺がいる間に手続きしておいた方がいい。初めてだと色々と手間がかかる場合があるが、顔が効くから話が早い」

「カーラというのが受付の人か」

「そうだ」

カウンターの女性が顔を上げ、ガルドに向かって小さく頷いた。

名前を呼ばれたことで自分の話だと分かったらしい。

それから真を見て、ユナを見て、また書き物に視線を落とした。

業務的だが、拒絶ではない。

仕事として受け入れる準備はできているという態度だった。

真はカウンターに近づいた。

「冒険者登録をしたいんですが」

「はい、初めての方ですね」とカーラは言い、棚から書類を取り出した。

「名前と、生まれた場所をお願いします」

「木下真。まことと読みます。生まれた場所は、遠い場所です。この大陸にはありません」

カーラは一瞬手を止め、それから何も言わずに書き続けた。

転移者への対応に慣れているのか、特別な反応をしなかった。

「ご職業は」という問いに「今まではありませんでした」と答えると、職業の欄は「冒険者見習い」になった。

「武器の経験は」「ほぼありません」「魔法の使用経験は」「ありません」。問いが続いて、答えが続いた。

最後に、鑑定石に手を置くよう言われた。

カウンターの上に置かれた石は、手のひらほどの白い石だ。

表面が滑らかで、内側に何かが透けて見えるような半透明さがある。

触れると、石が光った。

白い光が石の内側から広がり、表面に文字が浮かんだ。文字の形は認識できたが、意味が分からなかった。自分のスキルの記録なのだと気づくまで少し時間がかかった。

カーラの表情が変わった。

ペンを持つ手が止まった。

文字を読み、もう一度読み直した。

それから真の顔を見た。

先ほどまでの業務的な距離感が消えていた。

信じられない、という顔をしていた。

ガルドが後ろから覗き込んで「おいおい」と言った。

低い声だったが、その二文字に驚きが凝縮されていた。

「何が出たんだ」と真は聞いた。

「言霊付与、レベル1。超レア、ユニークスキルです」とカーラは言った。

声が少し上ずっていた。普

段の落ち着いた受付の声ではなくなっていた。

「このスキルの記録は、三万年以上前の古い文献に一度だけ出てくるものです。それ以来、確認された例が……」

「ない、か」

「はい。ありません」

真は鑑定石を見た。白い石が、まだわずかに光っていた。

自分の手が今も石の上にある。何も特別なことはしていない。

ただ置いているだけだ。しかしこの石は、真が三万年ぶりのスキルを持っていると言っている。

右手を石から離した。石の光が消えた。

ユナが横で静かに言った。

「やっぱり」

「やっぱり、ってどういうことだ」と真は聞いた。

「昨日のあれを見て、そうかもしれないと思っていた。確認が取れた」

「昨夜の時点でそう思っていたか」

「思っていた。でも鑑定なしに断言するのはよくないから言わなかった」

確認してから言う、という習慣が体に染みついているらしかった。

感情より先に確認を取る。

そういう人間だ、と真は改めて思った。


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