第五節 レベルアップと鍛錬
その夜は洞窟の近くで野営した。
街道沿いに小さな休憩所があり、石で作られた簡易的なかまどが設置されていた。
旅人が使うための設備だ。
これを使って料理ができる、と真は見た瞬間に思った。
火を起こしながら、今日一日で採れたものを並べた。
洞窟の入口近くで採れた茸のような食材、ガルドが持っていた干し肉、真の荷物に残っていた根菜。
村長にもらった食料の残りも使える。
茸を手に取って観察した。
日本のしいたけに似た形だが、色が少し濃い。
傘の裏を確認した。毒のある茸は傘の裏が特徴的な形をしていることが多い。
この茸は普通に見えた。
においを確認した。
土の匂いと香ばしい匂いが混ざっている。
いける、と判断した。
「これ、食べられるのか確認したい」とユナに言った。
「採ったやつでしょ」
「ユナが確認してから採ったか聞いている」
「私が採ったのは薬草だけ。茸はまことが採ったんじゃないの」
「俺が採った。見た目と匂いで大丈夫だと思うが、この世界の茸については知識がないので確認が取れていない」
ユナが茸を手に取って確認した。裏を見て、軸を折って中を見て、においを嗅いだ。
「食べられる。これは霧茸という種類で、洞窟の周辺に生える。毒はない。炒めると香ばしくなる」
「食べたことがあるか」
「ある。美味しい部類だよ」
それを聞いて本格的に取りかかった。
根菜を薄く切る。
し肉を小さく切る。
かまどの火が安定したところで、ガルドの持っていた油の小瓶を借りた。
油を引いて干し肉を炒めた。
肉汁が出てきたところで根菜を加える。
火が通ったら茸を入れる。
茸が縮んで、表面に焼き色がついてきたころに、持参の塩を少し加えた。
「何を作っているんだ」とガルドが覗き込んできた。
「炒め物だ。簡単なやつ」
「匂いが変わってきた」
「茸が香ばしくなってきた」
さらに二分ほど炒めて、火から下ろした。そ
れぞれの皿に盛る。
「これは美味い」とガルドが言った。一口食べてから、ためらわずにもう一口食べた。「この茸がこんな食べ方になるとは知らなかった」
「素材がいいからだ」
「料理スキルが確実にある」とユナが言った。
断言だった。
スキルの確認をするまでもないという口調だ。
「スキルとして出ていなかったが」
「出ていないだけで持っている可能性がある。
生活系のスキルは意識していないと鑑定に引っかからないことがある。
次に鑑定を受けたときに確認してみろ」
「そうなのか」
「意識してやっていることが、スキルとして認識されていない場合がある。
あなたの場合は料理を長くやってきたから、スキルになっていてもおかしくない」
「なっていたらどうなる」
「料理の精度が上がる。
食材の良し悪しが感覚で分かるようになる。
食べた人間への効果が上がる場合もある」
「効果が上がる」
「この世界の食材には魔素が含まれている。調理の仕方によって魔素の作用が変わる。料理スキルが高いと、その調整ができるようになる。理論的には、料理を通じて食べた人間の能力を高めることも不可能ではない」
「強化料理か」と真は言い、少し考えた。
「それは面白い」
「まことならやりそうだと思った」とユナは言い、茸の炒め物を食べ続けた。
翌朝、真はガルドに鑑定石を借りて、自分の状態を確認した。
「Lv.3になった」
昨日一日の戦闘の結果だ。
スライム退治とコウモリ系と絡み草と二層のボス。
それだけで二レベル上がった。
速いのか遅いのか判断がつかなかった。
「上がったな」とガルドが言った。
「経験値が二倍必要な体質だとしても、昨日の戦闘量なら上がっておかしくない」
「経験値が二倍必要なのか」
「鑑定書に書いてあった。
「必要経験値倍加型」という特性だ。
成長が遅い代わりに、上がったときの能力の密度が大きくなる。
一回のレベルアップで得る力が普通の人間より大きい」
「長い目で見ると有利かもしれない」
「今は遅い」
「今は遅い。それだけだ。焦ることはない」
朝の鍛錬についても話し合った。
ガルドが言うには、体を鍛える習慣をつけておくべきだという。
「体術のスキルを持っていなくても、体が動けば咄嗟のときに対応できる。スキルは判断を支援するが、体が動かなければ意味がない。基礎体力と反射は毎日積み重ねるしかない」
「分かった。朝に一時間、時間を取る」
「俺が付き合う」
「私も付き合う」とユナが言った。
「お前が?」と真は少し意外に思って聞いた。
「なんとなく」
それだけを言い、ユナはそれ以上の説明をしなかった。
なんとなく、という言葉が本心なのか、別の理由を言わないための言葉なのか、判断できなかった。
しかし聞いても答えてもらえなさそうだった。
朝の鍛錬は体幹の動き、足さばきの基礎、短剣の素振りを順番にこなした。
ガルドが動きを見せ、真が真似る。
最初はどこに力を入れればいいか分からなかった。
足さばきの基礎一つ取っても、どちらの足を先に動かすか、体重をどこに置くか、全部が意識的にやる必要がある。
一時間をかけて、何度も繰り返した。
終わる頃には体が少しだけ覚えてきた感触があった。
昨日より、反応が速くなっている気がした。
ユナは隣で同じ動きを涼しい顔でこなしていた。
鍛錬に慣れているのは明らかだった。ガルドの動きより先に次の動きに移れるほど、体が覚えている。
ユナが「ずっと一人で続けてきた」ということが、その動きに全部出ていた。
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おっさん、戦国時代で絵を描いたら無双した件〜のんびり平和を目指していたはずなのに〜
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