第四節 二層のボス
二層の奥に大型の魔物がいた。
通路の突き当たりに出た空間は、天井が高く、霧が濃かった。
松明の光が届く範囲が更に狭まって、周囲がほぼ見えなかった。
足を踏み入れた瞬間に、空気の質が変わった。
何かがいる、という感覚が皮膚から入ってきた。
霧に溶け込んでいたために発見が遅れた。
「来る」とガルドが言った瞬間に飛び出してきた。
犬と熊の中間のような体格で、体重がある。
牙が長く、爪が鋭い。前肢が特に発達していて、立ち上がると真より頭一つ分高くなる。
全身が厚い毛で覆われていて、灰色がかった色が霧と同化していた。
名前は「霧熊」とガルドが後から教えてくれた。
二層のボスとして定期的に湧く種類らしい。
「俺が引き付ける」とガルドは言い、前に出た。
斧を構えて魔物の正面に立つ。
魔物がガルドに向かった
。速い。
見た目の体格から想像する以上に速い。
地面を踏む力がそのまま前への速度になっている。
ガルドが真正面から受けた。
重い衝突の音がした。
金属と何かが当たる音ではなく、重さと重さがぶつかる音だ。
ガルドの体が少し後退したが、踏みとどまった。
斧で前肢を弾き、押し返す。
真は右側面に回り込んだ。
ガルドが引き付けている間に、側面から入る。
動きながら魔物の体の構造を見た。
前肢の付け根から後肢の付け根まで、体側面に毛の薄い部分がある。
そこを狙う。
脇腹に向けて短剣を突き込んだ。
手応えがあった。
固い毛の下に肉がある。
刻印の力か、深く入った。
魔物が唸り声を上げて横を向いた。
そちらへの注意が向いた瞬間、ガルドの斧が上から落ちてきた。
ガルドが機を逃さなかった。
タイミングが合った。
魔物が倒れた。
大きな音を立てて、地面に横たわった。
霧がその衝撃で少し散った。
「連携が取れてきた」とガルドが言い、腕の擦り傷を確認した。
受け止めた際に自分でも削れたらしい。
ユナがガルドに近づき、下級ヒールをかけた。
魔法が発動する様子を、真はこの世界に来て初めてじっくり観察した。
ユナの手から光のようなものが出て、ガルドの腕に触れた。
光の質は電球の光ではなく、もっと自然な光に近い。
陽光を凝縮した感じ。そ
の光が傷に触れた場所から、皮膚が戻っていく。
表皮が内側から押し出されるように閉じていく。
赤みが引く。
三十秒もしないうちに傷跡も消えた。
「ありがとう」とガルドはユナに言った。
「使いたかっただけ」とユナは言った。
その言い方が、恩着せがましさゼロで、ただ事実を言っているようで、真には少し可笑しかった。
真は自分の短剣を見た。刃に汚れが付いている。布で丁寧に拭いた。
拭きながら、この感触を思い出そうとした。
戦闘が終わった後の、体が少しだけ確かに存在することへの感覚。
何かを達成した、という感覚と、消耗した、という感覚が同時に来ている。
ンビニで深夜のシフトを終えたときの疲れとは種類が違う。何かを成した疲れだ。
「次の層まで行くか」と真は言った。
「今日は二層で十分だ」とガルドが答えた。
「感覚を掴む目的は達した。三層のボスは別の機会にしろ。急いで全部やる必要はない」
「了解した」
三人で洞窟を出ると、陽が傾いていた。
入る前より空の色が赤みを帯びている。
ダンジョンの中にいると時間の感覚が変わる、と真は思った。
集中しているからか、外の光が遮断されているからか、いずれにしても思ったより時間が経っていた。
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おっさん、戦国時代で絵を描いたら無双した件〜のんびり平和を目指していたはずなのに〜
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