第二節 霧の洞窟・入口
街道を外れて一時間ほど歩くと、岩壁の割れ目が見えてきた。
近づくにつれて、ただの岩山の割れ目ではないと分かってきた。
岩の表面が自然の風化とは違う形で削られている。
年月が経過した跡があるが、完全に自然のものとは言い切れない形だ。
割れ目の縁に苔が生えており、奥から白い霧が流れ出している。霧
は途切れることなく出続けていて、地面に沿って広がっていく。
その様子が、呼吸しているように見えた。
入口の手前に石板が立っていた。
冒険者が刻んだらしい文字で「霧の洞窟・Dランク以下推奨」と書かれている。
その下に、過去に訪れた冒険者たちが書き足した注釈が幾つかあった。
「二層の絡み草に注意」「三層は視界ゼロ注意」「松明を多めに持て」という内容だ。
先人の知恵が蓄積されている石板だ、と真は思いながら読んだ。
ガルドが入る前に事前説明を始めた。
「三層構造だ」とガルドは言い、棒で地面に大まかな図を描いた。
「一層は弱い魔物が中心。コウモリ系の飛行型と、小型の地這い型が主に出る。二層になると少し強くなる。植物系と甲殻系が混在する。三層にボスがいる。ボスは毎回違う種類が出ることもあるが、この時期の霧の洞窟は石系が多いという話だ」
「今日は三層まで行く必要はない」とガルドは続けた。
「感覚を掴むことが目的だ。バラバラに動くな。動く前に声をかけろ。ユナ、ヒールを惜しまずに使え」
「分かってる」とユナが言った。
「真、攻撃するときは俺かユナに声をかけてから動け。単独で突っ込むな。相手を確認してから動け。霧の中では視界が狭いから、声での連携が重要になる」
「了解した」
「松明を持て。俺のに火をもらえ」
ガルドが火打ち石で松明に火を点けた。真とユナに一本ずつ渡した。松明の炎が揺れる。
光の輪が足元に落ちている。
三人で霧の中に入った。
入った瞬間に視界が狭まった。
霧は白く、細かい水滴が空気中に漂っているような感触がある。
松明の光が霧に吸われる感じがあった。外で同じ松明を点けたら十メートル先まで照らせるかもしれないが、ここでは三メートル先が薄ぼんやりとしか見えない。
足元は石畳だった。
ダンジョンの床は自然の洞窟ではなく、人の手、あるいは何かの意図によって整えられた石畳が敷かれていた。壁は自然の岩肌だが、通路の形が整いすぎている。
自然にできた洞窟がこういう形になることはない。
「ダンジョンって、誰かが作ったのか」と真は歩きながら聞いた。
「諸説ある」とガルドが答えた。「自然発生するという説と、古代の誰かが意図的に作ったという説がある。どちらが正しいかは分かっていない。ただ、ダンジョンは世界中に存在していて、その規模も難易度もまちまちだ。深いダンジョンには伝説級の宝が眠っているという話もある。あるいは古代の記録が残されているという話も」
「古代の記録」
「お前さんの言語で書かれた記録が、深い場所のダンジョンに残っている可能性があるという話を、リリアがしていたことがあった。信憑性は分からないが」
「それは会ってから聞く話だな」
「そうだ。今は目の前の話に集中しろ」
一層の最初に出てきたのは、コウモリに似た小型の魔物だった。
翼を広げると両手を伸ばした幅ほどの大きさで、暗闇の中から急に飛来する。
鳴き声がない。
音を立てずに飛んでくる。それが一番の厄介さだ、とガルドが言っていた通りだった。
気配を感じる前に飛んでくる。
気づいたときには頭の高さまで来ている。
ガルドが一撃。真が追いかけて短剣で刺す。
ユナは後衛で補助に回った。
何体か倒すうちに、真は少しずつ動きの感覚を掴んできた。
音に頼れないなら、視界の端で捉えることが先だ。
霧の中で動く影は、速度と角度を持っている。
その速度と角度から、次の位置を予測する。予測した場所に体を向けて、短剣を構える。
「筋がいい」とガルドが言った。
「動きを見て真似るのが速い」
「コンビニで深夜に一人で動いていた。一人で複数のことを同時にやる癖がついていた」
「それが役立っているのかもしれない」
十数体を倒したところで一層の奥に出た。
奥には二層へ続く石段があり、その脇に小さなくぼみがあって、水が溜まっていた。
ガルドが「休憩できる」と言い、三人でそこに入って水を飲んだ。
真は松明の光で壁を見た。
岩肌に古い文字が刻まれていた。
この世界の文字だ、と形から分かった。読めた。
「ここより下は霧が濃くなる。引き返す勇気も持て」と書かれていた。
「先人の教えだ」とガルドが言い、笑った。
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おっさん、戦国時代で絵を描いたら無双した件〜のんびり平和を目指していたはずなのに〜
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