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【第二節 光の中へ】

朝の六時十分、引き継ぎを終えた真はコンビニの裏口から外に出た。


 五月の朝で、空気が冷たい。

東の空が薄く色づき始めていて、白と青の間のような色が広がっている。

都市の夜明けは、光が量として押し寄せてくる感じがする。

ビルの隙間から差し込む朝日が、アスファルトを斜めに照らしていた。


 真は自転車を押しながら、いつもの帰り道を歩いた。

コンビニからアパートまでは十五分ほどの距離で、途中に商店街の入り口と、細い路地と、小さな公園がある。

商店街はまだシャッターが下りていて、公園には鳩が数羽いるだけだ。

朝のこの時間帯が、一日の中で最も人の少ない時間で、真はそれをひそかに気に入っていた。

誰にも見られず、誰にも話しかけられず、ただ歩ける。


 路地に入ったのは、いつもの習慣だった。

商店街の裏手を抜ける細い道で、街灯が一本切れかけているせいで他の場所より少し暗い。

しかしその分、人が通らないから早い。


 ところが、その夜は様子が違った。


 路地の中ほど、空中に光があった。


 最初は見間違いかと思った。

しかし止まって見ると、確かにある。

白い光が、ゆっくりと渦を巻いていた。

大きさは人が一人通れるくらいか。

街灯の光とも、建物の窓から漏れる光とも違う、自ら発光しているような、純粋な白さだ。


 逃げた方がいい。


 そう思ったのに、足が動かなかった。

動かないどころか、一歩、二歩と、光の方へ引き寄せられていく

。磁石のような感覚だった。

意志ではなく、体が勝手に向かっていく。

自転車のハンドルから手が離れた。

倒れる音が聞こえた気がしたが、振り返れなかった。


 光が広がった。


 眩しさで目が細くなる。

それでも視界の全部が白になるまで、真は光から目を離せなかった。


 その瞬間、声が聞こえた。


 耳の外からではなく、頭の中に直接届く声だった。

男とも女とも判断できない、年齢も分からない、ただひどく静かな声だ。


 ――言葉よ、世界に還れ。


 それだけだった。


 意味を考える時間もなく、真の意識は光の中に溶けていった。

最後に感じたのは、重力が消えるような浮遊感と、ホットコーヒーの温もりがまだ手のひらに残っていること、その二つだけ。


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