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第四節 初めての依頼

掲示板に貼り出された依頼書を、ガルドが一枚外した。

「これが初めてにちょうどいい」と言って真に見せた。

手書きの文字で、枠の中に内容が書かれている。文字は読めた。

「村外れの畑に出るスライムの駆除だ。報酬は低いが危険度も低い。体を動かす練習には丁度いい」

「スライム」と真は繰り返した。

「知っているのか」

「本で読んだことがある」と真は答えた。

「本に」とガルドが首を傾けた。

真は、向こうの世界でこの世界のような話が書物や絵として存在していると説明した。

魔物がいて、冒険者がいて、ギルドがあって、スライムを倒して経験を積む。

そういう話が日本では創作として流通していると。ガルドは「そういう世界か」と言い、それ以上は聞かなかった。

深く追及しないのが、この男の流儀らしかった。

ユナは真の説明を聞いて「じゃあ、ある程度の予備知識はあるわけね」と言った。

「予備知識はあっても、実際の動き方は分からない。スライムが出るのは本で知っていても、実際に対峙したことはないので」

「まあそうね」

「でも、何が来るかの心構えはできる」

「それはあった方がいい」とユナは言い、先に歩き始めた。

三人で村外れに向かった。

畑の間を抜けて、村の東側に出た。ここまで来ると、建物がなくなり視界が開ける。広い草地が続いていて、その先に低い木立がある。

畑の端の方、水が低く溜まった場所にスライムが五体いた。

半透明で緑がかった、球形の生き物だ。

一体が人の頭ほどの大きさで、ゆっくりと移動しながら作物の根を食んでいる。

想像していた通りのスライムだった。

しかし実際に目の前にあると、「気持ち悪い」という感想が素直に出てきた。

形のない生き物が動いている不気味さは、予備知識があっても拭えなかった。

「俺が前を引き受ける」とガルドが言った。

「ユナはヒールの準備をしておけ。

真は側面から攻撃してみろ。

スライムは動きが遅い。近づいて刺せばいい」

「この短剣しかないが」とギルドで貸し出してもらった短剣を示した。

「それで十分だ。スライムは硬くない」

ガルドが一歩踏み出すと、スライムの一体が体を振るわせてこちらを向いた。

生き物が気配を感じ取る動作だ。

ルドの斧が空気を割る。弧を描いて振り下ろされた斧の刃が、スライムの中央を両断した。

一体が真っ二つになり、どろりと溶けるように消えた。

消えた場所に、小さな光の粒が残り、それもすぐに消えた。

残り四体が反応した。

二体がガルドに、一体がユナの方へ、一体が真に向かってきた。

構えた。短剣を右手に持つ。

正しい握り方も分からないが、今は動く方が先だ。

スライムはゆっくりだと聞いていたが、向かってくると少し速く見えた。

人の走るスピードより遅いが、確実にこちらに来ている。

横に体を滑らせて避け、短剣を振り下ろした。

刃がスライムの体に入る。

予想より柔らかかった。

包丁で豆腐を切る感触に近い、抵抗のなさだった。

短剣が通り抜けた瞬間、スライムが揺れ、形が崩れて消えた。

「倒した」と声が出た。

自分でも意外なほど、当たり前に言えた。

「倒せる」とガルドが言いながら別の一体を斧で弾いた。

ユナの方を振り返ると、一体が彼女の前で動きを止めていた。

ユナが何かを唱えると、スライムが内側から押し潰されるように収縮し、消えた。

外から力を加えた様子はない。言葉を唱えただけだ。

「それ、回復魔法か」と真は聞いた。

「逆用した」とユナは素っ気なく言った。

「生き物に回復魔法をかけると傷が塞がる。塞がる方向を逆にすれば傷が開く。スライムは内側が柔らかいから一発で消える」

「それは怖い使い方だな」

「実用的でしょ」

残りのスライムはガルドが片付け、依頼は完了した。畑の被害も確認した。

根を食まれた作物が数本あったが、大半は無事だった。

帰り道で、真は少し考えてから持っていた短剣の柄を見た。

刃に「斬」と刻んだら、神話級になるとカーラが言っていた。

試してみようと思った。

「少し待ってくれ」

立ち止まり、短剣を取り出した。

ユナが持っていた小刀の先を借り、柄の平たい部分に慎重に字を彫っていく。

木に字を彫るのは初めてだったが、やってみると思ったより深く入った。

「斬」の一文字を、できるだけ丁寧に刻んだ。

出来上がったものをガルドに渡すと、ガルドが腰のポーチから鑑定石を取り出し、柄に当てた。

金色の光が出た。

「神話級だ」とガルドは言った。

「刻んでも出た。声に出して使うのとは効果の性質が違うだろうが、刻印としても有効だ。これは大きな発見だ」

真は刻印した短剣を受け取った。

手に持ってみると、何かが変わった感じがした。

刻む前より、手に馴染む気がする。

重さは変わっていないはずだが、持ったときの感覚が違う。

刻印が宿ったことで、物と自分の間に何かが生まれた感触だった。

「これを使えばいいのか」

「使え。ただし大事に使え。神話級のアイテムを雑に扱って失うのは惜しい」

「分かった」

ユナが隣で「さっきより持ち方が自然だ」と言った。

「そうか」

「スキルが刻印に反応したのかもしれない。自分のスキルで刻んだものは、持ち手に馴染みやすいという話がある」

「そういう話があるのか」

「文献で読んだことがある」

「詳しいな」

「本が好きだから」とユナは言い、歩き始めた。

真はその後を追いながら、短剣を腰に差した。

鞘に収める感触が、ギルドで借りたときとは少し違った。

これは自分のものになった気がした。


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