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この世界を壊します〜魔王に転生したので配下を揃えて国作りをします〜  作者: JUJU


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第一塔《魔族抑制塔》への布陣

第9話です。宜しくお願い致します。

住処の中央、鍛錬場として使われている広場の地面に、黒と紅の光が渦を巻いていた。


 円形の魔法陣が、岩肌に刻まれた古い紋様を飲み込みながら広がっていく。

 空気は重く、魔族たちの息遣いさえ遠く感じるほど、そこだけ異様な圧があった。


 マランは魔法陣の中心に立ち、手のひらをゆっくりと掲げる。


「――《悪魔生成デモン・ジェネシス》」


 その声を合図に、魔力が弾けた。


 暗い光が、掌に乗せられた小さな球体――ガル・クローラーの心核――へと吸い込まれていく。

 黒紫色の霧が吹き上がり、魔法陣の中に影が形作られた。


 四本の脚の名残のようなシルエット。

 甲殻が積み重なる音。

 獣じみた気配。


 だが、それは次第に“人の形”へと収束していく。


 四肢が伸び、背筋がまっすぐに伸びていく。

 甲殻は女性の肢体をなぞるように再構成され、しなやかさと厳つさを併せ持った輪郭へと変わっていく。


 最後に、長くしなった尻尾が背中から伸び、毒針のような先端がわずかに揺れた。


 光が収まり―― 

 一人の女が、魔法陣の中心に跪いていた。


 全身は黒紫の甲殻に覆われているが、顔立ちは大人の女性そのもの。

 艶やかな長い髪が甲殻の隙間から流れ、赤い瞳が妖しく光る。


 その姿に、周囲の魔族たちは息を呑んだ。


「……人型の、悪魔……」


「さっきまでの魔物が、ここまで……」


 女はゆっくりと顔を上げた。

 マランの姿を認めると、その唇が色っぽく弧を描く。


「……ふふ。ようやく、お会いできましたね――我が王」


 艶のある低めの声が、静まり返った広場に響く。


 マランはその呼び方に、ほんの少しだけ眉をひそめた。


(“王”か……まぁ、魔物からすればそうなるか)


 彼女は本能で“強いもの”を理解しているのだろう。

 魔王の魔力を本能的に嗅ぎ分け、自然とそう呼んでいる。


 女が、恭しく頭を垂れる。


「我を呼び出し、形を与えたお方。

 貴方の名を、教えていただけますか?」


「マラン=タン=リースだ。……マランでいい」


「マラン様、ですね。ふふ……良い響き」


 彼女の視線には獣のような光と、奇妙な知性が同時に宿っている。


 マランは軽く息を吐き、彼女の前に歩み寄った。


「お前の名は――シェリーだ」


「……シェリー」


 女はその名を、舌の上で転がすように繰り返す。


「はい。シェリー。

 今この瞬間から、その名はこの身の核に刻まれました」


 嬉しそうに微笑む彼女に、マランは言葉を続ける。


「シェリー。お前を召喚したのは俺だが――」


 そこで一度、言葉を切る。


 前の世界の、冷たい鉄の床。

 命じられるだけの生活。

 逆らえば踏み躙られる日々。


(従わせる側にも、従う側にも、もう戻りたくない)


 マランは静かに息を吸い、はっきりと告げた。


「俺は、お前を“従わせたい”わけじゃない」


 シェリーの赤い瞳が、わずかに見開かれる。


「……?」


「これから俺は、この世界を壊す。

 人族が塔で他の種族を縛りつけている、このくだらない秩序をぶっ壊す。

 そのために国を作り――塔を折っていく」


 住処の魔族たちが、ごくりと喉を鳴らした。


 マランはシェリーの正面に立ち、まっすぐに視線を向ける。


「力を貸してほしい。

 “俺と共に歩んでくれないか?”」


 それは命令ではなかった。

 選択を委ねる問いだった。


 シェリーは一瞬、言葉を失ったようにマランを見つめ――

 次の瞬間、艶やかに笑った。


「……ふふ。

 魔王といえば、“従え”“ひれ伏せ”が当然だと思っていましたのに。

 こんな風に頼まれるなんて……」


 赤い瞳に、強い光が灯る。


「面白い方……いえ、とても素敵ですわ、マラン様」


 シェリーはゆっくりと立ち上がり、胸の前で手を組んだ。


「協力、なんて軽い言葉では足りませんわ。

 ――この命すべて、貴方のために使いましょう」


 深々と頭を垂れ、彼女は静かに告げた。


「この身は、マラン様とネザリアのために。

 それ以外に、興味はありませんの」


「……そう言ってもらえるなら心強いな」


 マランがわずかに笑うと、その横から、ため息混じりの声がした。


「……ですが、シェリー。

 いきなり距離が近すぎますよ」


 ザナドだった。


 シェリーが自然な動きでマランに寄ろうとした瞬間、ザナドが半歩前に出て、その間に入る。


「マラン様は、まだこの世界に来たばかりで疲労もあります。

 無闇に身体へ触れたりするのは、控えていただけますか」


「あら?」


 シェリーは、艶やかな笑みを浮かべたまま、ザナドを見る。


「真面目で、堅そうなお方。

 ふふ……嫉妬、かしら?」


「違います。警護の観点から申し上げているだけです」


「まぁ、そういうことにしておきますわ」


 シェリーはくすくすと笑い、わざとらしく少しだけマランから距離を取った。


 マランは肩をすくめる。


「お前ら、喧嘩は後にしろ。今は話すことがある」


「はい、マラン様」「了解しました、マラン様」


 二人の声が重なったのを聞き、周囲の魔族たちから小さな笑いが零れた。

 重苦しい空気が、少しだけ軽くなる。


 


 


 


 やがて、場の中央に大きな岩が運ばれ、その上に一枚の粗い皮が敷かれた。

 そこにフェローが腰を下ろし、地面に指で線を描いていく。


「……さて、魔王よ」


 族長としての顔に戻ったフェローの声は、低く重い。


「お前が折りたいと言っている“塔”についてだ。

 まずは第一の塔――俺たち魔族を弱らせている塔の話からだな」


 皮の上には、簡易的な地図が描かれている。


 ザナド、マニア、シェリー、そして周囲の魔族たちが、それを覗き込んだ。


「ここが、この住処だ」


 フェローが一点を指で叩く。


「そして――ここだ」


 少し離れた場所に、塔の印が記される。


「第一塔《魔族抑制塔》。

 人族どもは“デモニック・サプレッション”などと呼んでいるらしいがな」


 フェローの口調には、露骨な嫌悪が滲んでいた。


「魔族の領域の西端、断崖の上。

 常に黒い瘴気のようなものを纏っており、近づくほど身体が重くなる。

 塔の影響範囲――“魔族抑制領域”の中心だ」


 マランは腕を組み、静かに聞いている。


「塔の周囲には、人族の狩猟隊が常時三十から四十名は駐屯している。

 強さはまちまちだが、数は多い。

 さらに塔へ続く道には見張り台があり、魔力感知の仕掛けがそこら中にある」


「なら、こっそり近づく、というのは難しそうですね」


 ザナドが呟く。


「ああ。

 加えて塔の上階には、“純血聖騎士団ピュアブラッド”の下位隊が数名、常駐していると聞く」


 その名に、住処の魔族たちがざわめいた。


「人族至上主義の連中か……」

「奴らに斬られた仲間もいる……」


 フェローはいっそう険しい表情になる。


「そして何より問題なのは、塔そのものだ。

 塔が放つ波動は、魔族の魔力と肉体を削る。

 近づけば近づくほど、膝が砕け、心核が冷えていくような感覚に襲われる」


 マニアが拳を握る。


「……それで、誰も近づけなかったんだね」


「そうだ」


 フェローが唸るように続ける。


「塔の心核を砕けば、あの忌々しい波動は止まる。

 だが、その心核は塔の最上階にあり、そこまで辿り着いた者はいない。

 何百年と、魔族はその塔に力を奪われ続けてきた」


 その言葉には、誇り高い魔族としての悔しさが滲んでいた。


 


 


 


 しばしの沈黙ののち、マランが口を開く。


「……だが、状況は変わった」


 全員の視線が、マランへ向く。


「俺とザナドは、塔の弱体化をほとんど受けていない。

 この世界に来てから、力を抑えられる感覚を一度も味わっていない」


 ザナドも頷く。


「私もです。

 魔族だった頃は近くに行くだけで身体が重くなった塔の波動を、今は感じません」


 マランはさらに続けた。


「そしてフェローとマニアは、《家臣共鳴ファミリア》で塔の弱体化を受けない状態になった。

 今、この場には――少なくとも四人、“翼を折られていない魔族”がいる」


 フェローは拳を握りしめ、自身の内側を確かめるように目を閉じた。


「……確かに。

 今の俺の身体からは、あの嫌な鈍さが消えている。

 魔力が、昔のように全身を駆け巡っている感覚だ」


「私も!」


 マニアが両手をぎゅっと握る。


「塔のせいでずっと重かったのに……今は、走り出したくてたまらないくらい!」


 シェリーが艶やかに笑う。


「ふふ。

 塔だの抑制だの……そんなもの、いっそ壊してしまえばいいんじゃなくて?」


 ザナドがじろりとシェリーを見る。


「話を軽くしないでください。

 ですが――確かに、以前とは状況が違いますね」


「だからこそだ」


 マランは、地図の上の塔の印を指先で叩いた。


「この第一塔を折ることで――

 “本当に、俺たちは塔の影響を受けていないのか”を証明する。

 それが、ネザリアの最初の一歩になる」


 


 


 


「とはいえ、突っ込めばどうにかなる相手ではない」


 フェローが言う。


「塔周辺の狩猟隊。

 純血聖騎士団の下位隊。

魔力センサーと見張り台。

 そして塔そのもの――」


「正面突破は、悪手ですね」


 ザナドが続けた。


「狩猟隊は数が多く、長期戦になればこちらも消耗します。

 聖騎士団が出てくればなおさらです」


「だったら、どうする?」


 マランが周囲を見渡す。


 フェローは地図の上で指を滑らせた。


「塔の周辺には、森と岩山がある。

 霧が出る時間帯――夜明け前なら、視界が悪くなり、距離を詰めやすい」


「夜明け前、ですか」


「狩猟隊の見張りが最も気の緩む時間帯だ。

 交代の瞬間、注意力は落ちる。

 そこを突くのが一つ」


 マニアが手を挙げる。


「だったら、私が先に走って様子見してこようか?

 脚なら誰にも負けないよ!」


「索敵要員としては適任だな」


 ザナドがすぐに賛同する。


「ですが、一人で塔の近くまで行くのは危険です。

 最低でも護衛は必要でしょう」


「ふふ、護衛なら――」


 シェリーが楽しそうに笑う。


「私がついていれば、そう簡単には死なせませんわ。

 ……ねえ、マラン様?」


 マランは顎に手を当て、少し考えた。


「索敵班と突入班を分けるのは悪くないが……

 本番では、全員で動く」


 そこで一度、区切るように言葉を切る。


 そして――静かに告げた。


「今回、第一塔《魔族抑制塔》に向かうメンバーは――五人だ」


 広場の空気が張り詰める。


「俺。

 ザナド。

 フェロー。

 マニア。

 ……そして、シェリー」


 名前を呼ばれた五人の表情が、それぞれに変わる。


 フェローは腹の底から笑い声を漏らした。


「はは……! よかろう、魔王。

 この老いぼれ、久々に暴れさせてもらうとするか!」


「老いぼれって年でもないでしょうに」


 ザナドが苦笑し、すぐに真剣な顔に戻る。


「承知しました。

 コア破壊のために、塔の内部構造を想定した動きを考えておきます」


「私、絶対に役に立ってみせるから!」


 マニアは拳を握り、瞳を輝かせた。


「脚と感知の勘なら、誰にも負けないよ!」


 そしてシェリーは、満足そうに微笑む。


「マラン様が選んでくださった。それだけで十分ですわ。

 ふふ……どんな敵が出てくるのか、楽しみですこと」


 マランは小さく笑い、ふっと視線を上げた。


 


 


 


 夜。


 住処の入り口からは、遠くの地平線に、ぼんやりと塔の影が見える。

 ひどく遠いのに、その存在はいやに目についた。


 マランは一人、岩場に立ち、薄い夜霧の向こうに伸びるその影を眺めていた。


(前の世界でも、この世界でも。

 結局、強い側が弱い側を踏み躙る構図は変わらない)


 鉄の檻。

 命令しか許されない生活。

 弱者に選択肢など与えられなかった、あの世界。


(だから――壊す)


 握った拳に、あの時の冷たさはもうない。


 足音が近づき、背後に気配が集まってくる。


「――準備、整いました」


 ザナドの静かな声。


「行くぞ、マラン様!」


 マニアの弾むような声。


「この拳、久々に唸らせてやろう」


 フェローの低い笑い。


「ふふ、私の初陣ですもの。存分に楽しませてくださいな、王」


 シェリーの艶やかな囁き。


 マランは振り返り、四人の姿を一人ずつ見つめた。


 ザナド。

 フェロー。

 マニア。

 シェリー。


 ――世界にとっては、些細な一行に過ぎないかもしれない。


 だが、ここから始まるのは、“世界を壊す”第一歩だ。


「行くぞ」


 マランは短く告げた。


「第一塔《魔族抑制塔》を折る。

 ネザリアの、最初の仕事だ」


 夜明け前の空に、かすかな光が差し始める。


 その薄明かりを背に、五つの影が静かに歩き出した。


 世界を嫌った魔王による、最初の破壊行為が――いま、幕を開けようとしていた。

ちょっと今忙しくて何とか更新頻度落とさないように

がんばりますね!

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