地下からの来訪者
第45話です。
宜しくお願いします。
その日もネザリアは、穏やかな活気に包まれていた。
新たな住民が増え、街には笑顔と声が溢れ、子ども達は走り回り、農地ではマニアがエミリア達と土の状態を確かめている。
――だが。
その穏やかな空気を破るように、ネザリアの門付近の地面が、コト……と震えた。
「……ん? 今、揺れたよな?」
「おい、また地震か?」
門番の魔族二名が訝しげに振り返る。
次の瞬間。
地面が“もこっ”と盛り上がり、モグラのように
一つの顔がぬっと地表へ姿を現した。
「ひぃっ!? なんだお前!!」
「あ、あ……待ってください! 攻撃しないで……!」
顔だけ出したその男は、泥にまみれながらも丁寧に手を挙げた。
地中族――地下で暮らす種族特有の、硬質でざらついた肌。
細身だが引き締まった腕。
マッシュヘアーの青年は、息を切らせながら地面から這い出る。
「お、おい……地中族じゃねぇか」
「本物……?」
門番は顔を見合わせ、緊張を帯びた声で言った。
「あんた、何の用だ。ここはネザリアだぞ」
その男――ジバンは、必死の表情で言葉を絞り出す。
「すみません……! 私は地中族のサブマリアで衛兵をしている、ジバンと申します……!」
ジバンは地面に膝をつき、深々と頭を下げた。
「――どうか、どうか!!
地中族を、助けてください!!」
必死の声に、門番達は息を呑む。
「……嘘をついているようには見えねぇな」
「シェリーさん呼んで来る!」
門番の一人が駆け出した。
すぐにシェリーがやってきた。
長い黒髪を揺らしつつ、鋭い目つきでジバンを見下ろす。
「……あんた、地中族ね? 嘘だったらただじゃ済まさないわよ」
「は、はい……! ですが、私は本当に――」
息を整える暇もなく、ジバンは状況を説明し始めた。
「地中族の国、サブマリアが……人族に襲われているんです……!」
「!」
シェリーの表情が険しくなった。
「理由は……特産資源の《魔鉱石》です。
本来、世界会議の条約で、一定量を無償で人族に納める決まりですが……」
魔鉱石は魔道具や魔導武器、第2の塔破壊で衛兵が使っていた魔導砲などを作る為の鉱石である。
震える声で続ける。
「今回は、それを大幅に超える量を要求してきたのです……!」
「無茶苦茶ね」
今後のネザリア対策で塔の防御を高めるために
人族が要求を増やしてきたのである。
「王であるジヌシ様は、当然強く拒みました。しかし……」
ジバンの拳が震えている。
「それを理由に、人族は純血騎士団を送り込みました。
率いているのは――純血騎士団第8席、バルド=カイゼルです」
「第8席……!」
シェリーの眉が跳ね上がる。
「すでにサブマリアは滅茶苦茶にされ、今も攻撃が続いています……!
でも、我が王ジヌシ様は……頑固で……『助けはいらぬ』と拒んで……」
「だが、側近のジンバル様が説得し、
“最後の望みとしてネザリアに助けを頼め”と……!」
ジバンが涙をこらえるように顔を上げた。
「あなた方が弱体化の塔を二つも破壊し、純血騎士団10傑を倒したと噂で聞きました……!
どうか……どうか、我々を――サブマリアを……助けてください……!」
その言葉には、虚勢も嘘も一切ない。
ただ、必死の祈りだけが詰まっていた。
シェリーは深く息を吐き、決断する。
「……マランに会わせるわ。ついてきて」
「ありがとうございます!!」
――ネザリア会議室。
マランを中心に、主要メンバーがすでに席に揃っていた。
ザナド、シェリー、フェロー、マニア、アークレイド、
エラルド、メリーナ、キラ、
そして新たな住処のリーダー達――レイノルド、スミレ、モルック、ミランダ、ジャック。
ジバンは緊張で足を震わせながら、丁寧に頭を下げた。
「……突然このような形でお邪魔し、申し訳ありません。
地中族の衛兵、ジバンと申します。どうか……お話を聞いてください」
「顔を上げていい。座って話せ」
マランの言葉に、ジバンは深く息を吸い、これまでの経緯を細かく説明する。
地中族の国・サブマリアが受けている甚大な被害。
無謀な要求を突きつける人族。
王であるジヌシの頑固さと、側近ジンバルの苦渋の決断。
そして第8席バルド率いる純血騎士団の襲撃。
「……頼れるのは、もうネザリアしかないのです」
静寂が落ちた。
全員が深刻な表情でジバンを見つめる。
最初に口を開いたのは――フェローだった。
「クソ野郎共め……また人族かよ」
フェローの目には、怒りの火が灯っていた。
マニアも拳を握りしめる。
「地中族……かわいそうだよ……!」
アークレイドは目を伏せ、かつての自分を思い出しているかのようだった。
「また……純血騎士団か。許せません……」
レイノルドは冷静に状況を分析し、
スミレは唇を噛みしめ、
メリーナは「ぶっ飛ばしてやる」と笑い、
ミランダは眉間に皺を寄せ、
ジャックは腕を組んでうなり、
モルックは心配そうに震えている。
そして――マランが立ち上がる。
「……状況はわかった」
その声は静かだが、確固たる力を伴っていた。
「ジバン。安心しろ。
お前の国――サブマリアは、必ず救う」
ジバンの瞳に、涙がにじむ。
「……っ! あ、ありがとうございます……!!」
マランは続けた。
「純血騎士団第8席バルド=カイゼル。
奴が相手なら……戦わない理由はない」
部屋の空気が、一気に熱を帯びる。
ネザリアは――再び動き出す。
今度は、地中族を救うために。
最近、冷えてきましたよね…
布団から出るのが嫌すぎて死にそうです…




