狂笑の第9席ルークス、降臨
第33話です。
宜しくお願いします。
精霊族弱体化の塔――。
森の奥深く、薄く青白い瘴気が立ちこめるその区域に、マランたち一行は足を踏み入れた。
空気が変わる。
大地が軋み、植物の囁きが止まった。
精霊族にとって“命の流れ”そのものが乱される不吉な場所だった。
「このあたりから罠が増える。全員、私の後ろへ」
ガラルが低い声で告げる。
精霊族随一の“地形把握能力”を持つ彼は、森の変化を正確に読み取ることができた。
ガラルの足取りは揺らぎひとつなく、罠の発動範囲を軽々と回避していく。
そのたびに、精霊女王直属の騎士団が前に立ち、残った罠を解除して道を作る。
さすがは精霊族のエリートたちだった。
――しかし。
「きゃあああっ!? ちょ、なんでここだけ根っこ出てくるの!?」
エミリアが真上に吹き飛ばされた。
「エミリア!? そこ、昨日言っただろう!“絶対に触るな”って!」
「だ、だって見えにくかったんだもん!」
ガラルがこめかみを押さえる。
マランたちは苦笑しつつも、すぐにエミリアを受け止めて降ろした。
「無事で良かったよ、エミリア。……でも毎回同じ罠に引っかかるのは才能だな」
「うるさいっ! 気をつけるもん!」
エミリアの頬がふくれる。
緊張感の中に、小さな笑いが生まれた。
そして――視界が開けた。
聳え立つ塔が、瘴気の空気をまといながら黒々と存在感を放っていた。
同時に、塔の前で待ち構える影が複数。
「……魔導砲を構えているな」
ザナドが鋭い視線を送る。
塔の衛兵たちは、人族精鋭の兵士。
両腕に魔力基盤の刻印があり、魔力石を構えた砲台――《魔導砲》を肩に担いでいる。
兵士長が叫ぶ。
「接近するな! 撃てぇッ!!」
轟音が森全体を震わせた。
光線が何本も降り注ぐ――が、すぐにガラルの風壁が展開され、逆流した風が光線を逸らす。
そこへ。
「やっぱり来たかぁ……!!」
不気味にねじれた声が塔の入口から響いた。
ズル……ズル……と足を引きずるように歩きながら、ひとりの青年が姿を現す。
痩せた身体、闇色の研究服。
眼の奥に狂気を宿し、舌で唇を舐めながら、口角が歪む。
「はぁ〜い……ようこそ、僕の塔へ」
その男の登場に、アークレイドの表情がわずかに陰り――静かに告げた。
「……第9席《ルークス=ハーデン》。間違いありません」
ネザリアの空気が張り詰める。
ルークスの狂気が、周囲の空気まで濁らせるほど濃い。
「うわぁ〜懐かしい顔がいるじゃ〜ん……えーっと、生きてるはずないアレ、誰だっけぇ?」
ルークスはアークレイドを指差して、わざとらしく首を傾げる。
「……アークレイドかぁ!! えっ、生きてんの!? ちょ、半分悪魔みたいになってるし、ウケるんだけど!」
腹を抱えて笑い転げる。
アークレイドはただ静かに、それを見つめていた。
「私は……かつて数え切れぬほどの過ちを犯した。それを償うために、今ここにいる。それだけだ」
ルークスはケタケタ笑いながら、アークレイドの変わった容姿を何度も指差した。
「バカじゃないの? 劣等種族の味方なんてしてさぁ。ほんっとうに、バカだよねぇ? ねぇ? ねぇってばぁ?」
声のトーンが狂気の色を増す。
背後の衛兵でさえ恐怖で後ずさるほどの“悪意”が、ルークスから溢れ出していた。
そして――ルークスの目が、ゆっくりとマランに向けられる。
「んで……魔王(笑)ってのは、お前〜?」
その顔には侮蔑と嘲笑しかない。
「なんかさぁ……“自分は強いです!”って顔してるよねぇ。ホント痛いわぁ〜」
言い終える前に、マランの影がゆらりと揺れた。
静かに、だが凍てつくような声で返す。
「……お前たちこそ。そんな塔に縋ってしか、他種族に勝てないと言ってるようなものだぞ」
ピタリ、とルークスの動きが止まる。
そして――
「……は?」
狂気の笑顔が、怒気を帯びた歪みへと変わった。
「お前……今……なんて言った?」
声が震える。
怒りで空気が圧縮されていく。
だが、マランは怯まない。
「塔がなければ、俺たちに勝てない。それが事実だ」
ルークスの顔が歪みきる。
「…………っっざけんなよォォオッ!!」
塔全体が揺れるほどの咆哮。
「もういい! 減らず口はそこで閉じろ!!」
殺気が爆発し、周囲の衛兵までも膝をついた。
「お前ら全員、地獄見せてやる……!! 一人残らず、なぁ……!!」
牙を剥いた狂気の視線が、ネザリアと精霊族の仲間たち全員に向けられる。
塔の入口で、戦いの火蓋が切って落とされる――。
分かりやすくクズなルークスさんが正式に登場しましたね!前回純血騎士団の10傑のメンバーが登場したとき少し喋ってた以来の登場です。




