—試練の最終層・深淵の魔物—
第30話です。宜しくお願いします。
――10階層。
転移の光が消えた瞬間、6人の視界に飛び込んできたのは、
まるで“底なしの奈落”のような黒い空間だった。
天井は見えず、地面には黒紫の瘴気が渦巻き、
壁は脈動するように波打っている。
ただの階層ではない。
“生きている”――ダンジョンの心臓部だ。
「ここ……空気が、重い……」
マニアが喉を押さえた。
吐き出す息でさえ苦しくなるほどの圧力。
「なるほどな……これが最終層の空気か」
メリーナが拳を握り、血管を浮かび上がらせる。
その時だった。
“ドンッ……!”
脚元の地面が震え、黒い霧が渦巻いた。
「来るッ!」
ザナドの叫びと同時に――
霧が避け、巨大な魔物が姿を現した。
◆ ◆ ◆
《深淵竜デスリヴァイア》
全長25メートル以上。
黒紫のウロコは刃のように鋭く、
六つの真紅の眼が妖しく光る。
背中からは無数の触手のような闇が蠢き、
一声吠えた瞬間――瘴気が爆発した。
「グルアアアアアアアアアッ!!」
耳を破る咆哮。
空気そのものが震え、地面にヒビが走る。
明らかに、今までの魔物とは格が違う。
「……これ、間違いなく“ボス”だわ」
シェリーが毒針を構え、笑みを深くする。
「いいね……ワクワクしてきた」
「ミリアド・ナイフ!」
キラの周囲に大量の刃が現れ、黒光りした。
「みんな――油断するな!」
ザナドの号令で6人は散開する。
◆ ◆ ◆
――戦闘開始。
デスリヴァイアの尾が振り抜かれた。
風圧だけで岩が砕ける。
「ッ!!」
ザナドが回避し、ムチを振るう。
「《影涙鞭・断裂》!!」
しかし――鞭が弾かれた。
「堅……ッ!? 鞭が……!?」
「ウロコの硬度、異常です!」
エラルドが魔石分析をしながら叫ぶ。
「外殻は高密度魔鉱質! 物理も魔法も通りにくい!」
「つまり……殴れば殴るほど燃えるってことだなァ!」
メリーナが跳び蹴りで距離を詰める。
「オラァアアアアア!!」
拳がドラゴンの顎に叩き込まれ――
だが次の瞬間、デスリヴァイアの頭が微動だにしなかった。
逆にメリーナが弾き飛ばされる。
「メリーナ!」
マニアが跳んで受け止めるが、その衝撃で2人は転げた。
「まだまだッ! もっと強くなりてぇ……!!」
メリーナが立ち上がり、血を拭う。
その刹那――
闇の触手が無数に飛び出し、仲間たちに襲いかかった。
「避けて!」
「くっ……速い!」
触手はウネウネと軌道を変え、常に急所を狙ってくる。
シェリーが瓶を投げつけた。
「《極腐毒ネクロ・ヴェノム》!」
触手に毒が広がるが、すぐに闇で浄化される。
「……効きが薄いわね。分厚い外殻に毒が浸透しない」
◆ ◆ ◆
――その時。
「僕が穴、開けるよ」
キラの顔に“笑顔のまま狂気”が走る。
「仲間達を傷つけたら……許さない……許さないよォ……!」
大量のナイフが生成され、全てが漆黒へと硬度を高める。
「いっけぇえええええ!!」
影のように黒い刃が雨のように降り注ぎ――
デスリヴァイアの右側面を削り、わずかな亀裂を生んだ。
「おお……ッ!?」
エラルドが叫ぶ。
「キラさん! 今の一撃で構造が“揺れました”! 肉質が変わる! あそこが弱点になります!」
「任せて!」
マニアが加速し、双影脚が輝く。
「《魔式・双影脚!!》」
高速回転の蹴りが亀裂に叩き込まれ――
デスリヴァイアの身体がわずかにのけぞる。
「効いた!!」
だが、次の瞬間。
「グォオオオッ!」
深淵竜の口が紫の光を帯びた。
「《瘴気砲ブレス》だ!」
ザナドの叫びと同時。
「全員――伏せろォッ!!」
黒紫の悪夢の奔流が空間を焼き尽くすように吐き出された。
地面が抉れ、岩が溶ける。
「ぐっ……!?」
キラが壁に叩きつけられる。
「っ……シェリー!!」
マニアが抱きかかえるように守る。
「平気……ちょっとヒリヒリするだけ……!」
◆ ◆ ◆
「エラルド!! 分析は!?」
ザナドが叫ぶ。
「あと少し……あと少しで核の位置が特定できます!」
エラルドは必死に魔石を操作する。
「この魔物……力の根源は胸部より少し左! ただ、膨大な瘴気で覆われていて直接攻撃は難しい!」
「なら道を開く!!」
メリーナが地面を蹴り――
「アァァァアアアア!!」
メリーナの身体が爆発的に膨張した。
筋肉が隆起し、魔力が渦巻く。
「昨日倒した分の強化が……全部効いてきてるぜ!!」
巨大化した拳がデスリヴァイアの顔面に叩き込まれた。
ズガァアアアアアアッ!!!
怪物の巨体が一瞬揺れる。
「今だ!!」
◆ ◆ ◆
――ザナドが影に溶ける。
「《影潜行》……《影穿裂!!》」
地面から飛び出した鞭が、亀裂の隙間に深く潜り込む。
そこへ――シェリーの声。
「弱点部位に入り込んだ毒は……最大効率で効くのよ」
細い毒針を、迷いなく亀裂へ投げ入れた。
「《神経毒フロスト・パニック》」
毒が魔物の内部を凍らせるように広がる。
デスリヴァイアの動きが、一瞬止まった。
◆ ◆ ◆
「エラルド!! 核は!?」
「はい!! 今!! 防御が下がっています!!」
「よし!!!」
マニア、キラ、メリーナ、シェリー、ザナド――全員が跳び出し、
そして――
「トドメは……俺達で決める!!」
◆ ◆ ◆
6人の総攻撃。
キラの黒刃が核を射抜き――
メリーナの拳が核を粉砕し――
シェリーの毒が弱点へ流れ込み――
ザナドの鞭が内部から引き裂き――
マニアの双影脚が回転し、最後の壁を砕いた。
そして――
「《魔晶極解・クリスタル・フレア!!》」
エラルドが魔石を核の裂け目に押し込み、爆発的な魔力を解放する。
白い光が階層全体を包み――
深淵竜デスリヴァイアは、咆哮を残して弾け飛んだ。
「グアアアアアアアアアアアアッ!!」
光が収束した時――
そこに魔物の姿はもうなかった。
◆ ◆ ◆
静寂。
黒い霧が晴れ、空気が一気に軽くなる。
「……勝った……のか?」
メリーナが息を切らしながら呟く。
「うん……勝ったよ……!」
マニアが笑顔で涙を浮かべる。
「みんな、お疲れ様……!」
シェリーも肩を落として息を整える。
「……ふぅ……すごかったな……」
キラは興奮と安堵で震えていた。
ザナドが静かに言う。
「マラン様……俺達は……力を示せました」
最後に――エラルドが胸に手を当てた。
「これも……全てマラン様のおかげです。
どうか……この勝利を胸に、皆の元へ」
6人は互いに笑い、互いの傷を支え合いながら立ち上がった。
「さぁ――帰ろう。
マラン様のところへ」
転移の魔石が光を帯び、仲間達は光の中へ消えていった。
――こうして、10階層・最終層は攻略された。
6人の力は、確かに進化を遂げたのだ。
とうとう30話ですね!
何度も言いますがここまで見ていただいてありがとうございます。




