ダンジョン潜行 ― 第一陣、出発
27話です。
宜しくお願い致します。
地中から噴き上がるような冷気が、大地を這う風となってネザリアの外周を揺らした。
そこには――暗く口を開けた“穴”があった。
どこまでも続く闇の階層。
生まれた瞬間から“狩る”以外の存在理由を知らぬ魔物たちの巣窟。
それが──《ダンジョン》。
すべての魔物の原初の胎とも言われ、外に出る個体より格段に強い者が多い。
そして――下へ潜るほど危険度は跳ね上がる。
◆ ◇ ◆
ネザリアの前広場に、マランは皆を集めた。
先日の惨劇で一度は沈んだ空気が、再び燃え始めている。
マランは前に立ち、静かに口を開く。
「これから我々は……ダンジョンへ行く」
五十を超えたネザリアの仲間たちが息を呑んだ。
「理由は二つある。」
マランの声が少し低くなる。
「ひとつは――俺たちが弱すぎたからだ。
フェローを……守れなかった。それが何よりの証拠」
マランの拳が震える。
その横で、マニアは唇を噛みしめ、シェリーは静かにマランの肩を見つめていた。
ザナドは目を閉じ、ただ黙っていた。
「もう二度と……あんな思いをしたくない。
ネザリアを、これ以上“誰かの犠牲”で守るような国にはしない。
全員が強くなる必要がある」
そう言ってマランは、手に持っていた転移石を掲げる。
これはエラルドのスキルによって強化された《魔晶極解》版――魔力を使わず転移を可能にした魔石だった。
「ダンジョンは危険だが……経験値も魔力も、桁違いに得られる場所だ。
だから――段階的に潜る」
マランは名を呼ぶ。
「第一次メンバーは……俺、ザナド、シェリー、マニア、メリーナ。以上の五人だ」
メリーナは腕を鳴らしながらにやりと笑う。
「やっと暴れられるわけね!」
マニアは気合を入れるために両手をパチンと叩いた。
「頑張るよ、お父さんの分まで……!」
シェリーは冷静に微笑む。
「マラン様のお傍にいられるだけで光栄ですわ」
ザナドは軽く頷き、静かに杖を握りしめた。
「残りの者たちはネザリアに残り、エラルドの転移石の準備が整い次第、三階層ごとにメンバーを入れ替える。」
次の編成も発表する。
「第二次メンバーは……俺、アークレイド、エラルド、キラ」
その言葉に、キラは興奮気味に手を挙げる。
「任せてよマラン様! ネザリアの皆を守れる力、絶対につけてくる!」
一方アークレイドは腕を組んで静かに頷いた。
「承知した。……この力、無駄にはしない」
そしてマランはアークレイドに向き直る。
「アークレイド。俺たちがダンジョンに入っている間、転移石で精霊族の宮殿に行ってくれ。
事情を説明し、今後の動きについても共有しておく必要がある。
くれぐれも粗相のないようにな」
「もちろんだ。……借りた恩は返す。それが生き残った者の役目だ」
アークレイドの言葉には、以前の冷徹な騎士ではない“責任”が宿っていた。
「よし――第一次メンバー、出発する」
マランが言うと、シェリーが自然とマランの隣に立ち、マニアが構え、メリーナが拳を握りしめた。
ザナドは右目に魔力を流し、周囲を確認する。
「気を付けて、マラン様!」
「無事で戻ってきてください!」
仲間たちの声を背に、マランは静かに頷く。
「行くぞ」
――そして、ダンジョンの闇へと足を踏み入れた。
◆ ◇ ◆
《第一階層:薄闇の回廊》
ダンジョン内部は湿っており、少し香ばしい土の匂いが漂っていた。
黒に近い濃い緑色の苔が壁一面に広がり、ぼうっと淡い光を発している。
「わぁ……なんか綺麗……!」
マニアが目を丸くして見上げると、シェリーが小声で笑う。
「油断は禁物よ。……ほら、早速お出まし」
低い唸り声。
闇から現れたのは――
《スワンプ・グール》
沼地型ダンジョンの定番魔物で、腐敗した肉体と長い舌を持ち、毒性の唾液を撒き散らす凶悪種。
「ふー……気持ち悪いの出たわね!」
メリーナが笑いながら拳を構える。
スワンプ・グールは四足で地を這い、複数体が同時に襲いかかってきた。
「マニア、後ろに回って挟み撃ちだ!」
「任せて!」
マニアは高速移動で一瞬にして背後へ回り込み、蹴りでグールの顔面を跳ね上げる。
そこへメリーナが地面を踏み砕く勢いで突進し――
「うらァッ!!」
拳でグールの頭部を粉砕した。
肉片が飛び散る。
「ひゃっ……すご……!」
マニアが目を丸くする中、シェリーはすでに別のグールの背後に回り込んでいた。
「苦しみなさい……《毒襲の爪ヴェノム・タロン》」
シェリーの指先から透明な毒刃が伸び、グールの首筋を切り裂く。
たちまち痙攣し、絶叫をあげて倒れた。
ザナドは周囲の動きに目を配りながら杖を振る。
「《影涙鞭シャドウ・ウィップ》!」
黒いムチがグールの脚を薙ぎ払い、敵の群れを一掃する。
だが、最後に一体――異様に大きい個体が突進してきた。
「おっと、デカいわねぇ」
メリーナが構えるが――
「下がれ、メリーナ」
マランが前に出た。
黒い影が彼の足元から滲み、剣のような形状へと伸びる。
――《影刃創形シャドウ・クラフト》
影の刃が空気を裂き、巨大グールを真っ二つにした。
ドシュッ――!!
魔物は悲鳴をあげる間もなく消え去った。
「さて……こんなものか」
マランは影を払うように手を振り、静かに周囲を見渡す。
全員の無事を確認し、頷く。
「よし、一階層は突破だな。
この調子で行くぞ」
仲間たちの表情に――再び前へ進む勇気が満ち始めていた。
闇の階段は、次の階層へと続いている。
こうして、ネザリア初のダンジョン潜行が幕を開けた。
初ダンジョンですね。
この世界冒険者ギルドとかそんなの存在してないけど
ダンジョンはあるという…
まぁでもここで話したからといって後で冒険者ギルドという設定作ってしまったらごめんなさい。




