失われた手、残された誓い
第25話です。
宜しくお願い致します。
――夜は泣いていた。
塔を破壊してから続いた晴れやかな空が嘘だったかのように、ネザリアの空には黒い雲が垂れ込み、沈痛な風が吹き荒れている。
マランは、静かにフェローの亡骸の前に立った。
強靭な身体はところどころ潰れ、黒い血が乾いている。
何度も仲間を守るために拳を振るい、何度斬られようと倒れず立ち続けたその肉体――今はただ静かに横たわるだけだ。
「……フェロー」
言葉は落ちて、地面に沈んだ。
マランは震える手で、胸から《悪魔生成》の魔力を引き出した。
黒い光がフェローの亡骸を包み――しかし、魔法陣が描かれた瞬間、光は生まれずに砕け散った。
バチッ!
「ッ……!」
マランの呼吸が止まる。
失敗。
その事実が脳を締めつける。
ザナドが駆け寄る。
「マラン様……!」
マランは唇を噛む。
「……遅すぎた。死後の時間が……経ちすぎた」
「そんな……」
「そして俺のスキルレベルも足りない。現状では……フェローを、悪魔として蘇らせる事ができない……!」
言葉の途中で声が震えた。
強い魔王の声ではなく、ただの一人の男として、仲間を救えなかった悔しさが溢れ出した。
「嫌だ……嫌だよ……!」
その悲痛な叫びは、マランの背後から上がった。
マニアだ。
小さな身体を震わせ、フェローの遺体にしがみつきながら、子どものように泣き続けた。
「お父さん……っ! 起きてよ……! マラン様が……助けに来てくれたのに……! どうして……!」
シェリーも泣いていた。
ザナドは静かに目を伏せ、拳を握りしめている。
アークレイドは人目を避けて背を向けていたが、その肩は震えていた。
「……ごめん……フェロー……」
マランは膝から崩れ落ちた。
悪魔生成の光を何度も何度も呼び起こそうとするが、魔法陣は形を取らず、砕け散るばかり。
その度にマランの指先は血が滲むほど握りしめられ、胸から黒いオーラが漏れ出した。
悲しみではなく、怒りでもなく、
――絶望。
「……俺は……また……救えなかった……!」
地面を殴るたびに、影が揺れた。
大地が震え、ネザリアの空気が揺らぐ。
泣き叫ぶマニアをザナドが抱きしめ、シェリーが背中をさすり、必死に支えた。
「……マラン様……あなたのせいではありません……」
「違う……俺が……弱いから……!」
「違います!」
ザナドが叫んだ。
「あなたがいなければ、今ここに命がある者さえ居なかった……!
フェロー殿は――あなたを恨んで死ぬような男ではない!」
その言葉に、マランの肩が震えた。
しかし涙は止まらない。
国も、家族も、仲間も――守れなかった前世の記憶が、今の光景と重なっていく。
ぐちゃぐちゃに混ざり、胸の奥で叫び続けている。
夜が更ける頃になってようやく泣き声は弱まり、
ネザリアは一日中、闇の中で震えていた。
生き残った魔族たちも皆泣いていた。
怒りと悲しみと、未来への不安。
そのどれもが国を包み込み、誰も眠れなかった。
――それでも、夜は明けた。
◆
翌朝。
マランが地面に座り込んでいると、ザナドが静かに近づいた。
「……マラン様。そろそろ……皆がお待ちです」
「……あぁ」
隣では、マニアをシェリーが抱き寄せ、泣き疲れた彼女の髪を撫でていた。
アークレイドは黒い鎧のように背筋を伸ばし、遠くを見据えていた。
全員がボロボロだった。
それでも、立たなければいけなかった。
マランは立ち上がり、涙を拭った。
「……皆。聞いてくれ」
ネザリアの魔族たちが集まる。
涙の跡が消えていない者ばかりだったが、全員がマランの言葉に耳を傾けた。
「俺たちは……まだ弱い」
静かな声だったが、ひとつひとつの言葉が心に刺さる。
「国としても……守りきれなかった」
マニアが震える肩を抱きしめた。
ザナドは拳を握った。
シェリーは奥歯を噛んだ。
マランは続けた。
「だから、方針を変える」
重い空気の中で、その言葉だけは力を持って響いた。
「この世界を平等にするために塔を壊す――それは変わらない。
だが順番を変える」
国中の視線がマランに集まる。
「精霊族の塔の破壊は……少し先に回す」
「……!」
理由を問う者のために、マランは拳を握った。
「俺たちはまず――強くならなければならない」
ザナドが頷いた。
マニアの瞳に、涙の奥から小さな光が戻り始める。
「俺は悪魔召喚のレベルを高める。
そして必ずフェローを……仲間たち全員を……蘇らせる」
それが今のマランの唯一の希望であり、約束だった。
「そのために……新たな強さが必要だ」
マランはゆっくりと仲間たちを見渡しながら言った。
「この間の塔戦で《ファミリア》が成長した。
登録枠が“二枠”増えた」
そして、フェローが死んだことで空いた枠は三つ。
「……志願したい者はいるか?」
静寂が落ちた。
次の瞬間――
「「「は……はい!!!」」」
三人の魔族が勢いよく手を挙げた。
それぞれの顔には、涙の跡と――新たな覚悟が宿っていた。
マランは彼らをまっすぐに見て、静かに頷いた。
「……頼む」
――ネザリアの再起が、ここから始まる。
とうとう25話ですね。
この後書きを見てくれているという事はここまで読んでくださったという事ですよね。
ホントにありがとうございます!
まだまだ物語は続きます。
塔はまだ1本しか破壊してないですしね…笑




