精霊の森の休日、そして――届いた叫び
第22話です。宜しくお願い致します。
セイレーン宮殿での会談が終わると、エルフィリア女王は静かに立ち上がり、柔らかく笑んだ。
「今日は長旅で疲れたでしょう。宮殿と森を、わが精霊族の“案内役”に任せます。
――エミリア、皆様をご案内して差し上げて」
「はっ、はいっ!! お任せくださいっ!」
元気よく飛び上がったエミリアに押される形で、マランたちは宮殿の外へと出た。
◆ ◇ ◆
「わぁぁ……すっごい……!」
マニアが目を丸くする。
そこに広がっていたのは、小さな精霊たちがふわふわと飛び交う幻想的な世界だった。
青い光の粒、葉っぱを模したような羽根の精霊、空気の流れそのものが生き物のように動いている。
「すごい……自然の魔力が生きてるみたいだ……」
ザナドも思わず感嘆する。
「精霊の森は、世界樹の根から魔力が流れているの。
だから草も木も、普通のより元気なのよ!」
エミリアは得意げに胸を張った――が、次の瞬間、
「ほあぁっ!」
飛び上がった拍子に頭上の枝にぶつかり、葉っぱをぶわっと落とした。
「……やっぱりおっちょこちょいだな」
アークレイドがため息をつく。
「う、うるさいな! あんたの翼だって前はボロボロだったじゃない!」
「悪魔になった今は完璧だが?」
「むぅぅ……!」
シェリーはクスッと笑いながら、甲殻の羽をカチカチ鳴らす。
「まぁまぁ、仲良くなさいな、坊やたち」
◆ ◇ ◆
次に案内されたのは、広大な畑だった。
普通の畑ではない。
土は魔力を帯び、ふわふわとわずかに浮いている。
作物から漂う香りは、生命力そのものだった。
「こ、これ全部……精霊族が?」
「そうだよ! 作物ってね、風と水の流れ、魔力のバランスを読んで育てるんだよ!」
エミリアは両手を広げると、畑全体にそよ風を走らせた。
すると作物たちが一斉に揺れ、まるで答えるように葉が震えた。
「……すごい」
シェリーが目を丸くする。
「自然と会話してるみたいですね……」
ザナドも思わず感心した。
「私、ここの作物……全部食べてみたい!!」
マニアが両手を胸に当てキラキラしている。
「マニア、仕事を忘れるなよ」
マランが苦笑する。
「むぅ……でも料理長として研究しないといけないし……!」
その言葉にエミリアはぱぁっと笑顔になった。
「じゃあこれ! サービスで一つあげる!」
エミリアが風を操り、珍しい果実をマニアの手のひらにふわりと落とした。
「きゃあっ! ありがとエミリア!!」
「えへへ~!」
◆ ◇ ◆
夜、精霊たちが魔力の光で飾りつけた広間には、温かく優しい食事が並んでいた。
マニアは興味津々で料理を研究し、
シェリーは意外にも甘い菓子に目を輝かせ、
ザナドは静かに茶を飲み、
アークレイドは慣れない精霊食を恐る恐るつつき、
マランは一人ひとりの楽しそうな姿に微笑んでいた。
まるで――久しく忘れていた“平穏”がそこにあった。
◆ ◇ ◆
翌朝、再び謁見の間へ案内される。
「改めて……精霊族はネザリアとの国交を結びます」
エルフィリアの言葉に、マランは深く頭を下げた。
「こちらこそ感謝いたします」
「農業技術の提供と、貴方方からの薬草・毒素材の供給……
双方に利益があります。これが、良き縁となりますように」
エルフィリアの指先からふわりと光が舞い、国交を示す魔法印が契約として刻まれた。
◆ ◇ ◆
契約の光が収まった瞬間だ。
マランの胸に、凄まじい衝撃が走った。
怒り。
憎しみ。
悲しみ。
恐怖。
それらが混じり合った感情が、刃のようにマランの心に突き刺さる。
――フェローの感情だった。
「……フェロー……!?」
マランの額に冷たい汗が流れる。
ザナドもすぐに異変に気付き、顔を強張らせた。
「マラン様……フェローの……!」
「……何かが……起きた」
ただならぬ圧が胸を揺さぶる。
息が詰まるほどの恐怖と怒りが流れ込んできた。
マランは精霊族の皆へ深く頭を下げた。
「――申し訳ない。ネザリアへ急ぎ戻らねばならない」
エルフィリアが眉を寄せる。
「何が……?」
「フェローに、何かあった。
あの男がこんな感情を流すはずがない……!」
マランは迷わず立ち上がり、
ザナド、シェリー、アークレイド、マニアも即座に続いた。
「マラン様、急ぎましょう!」
「全速で飛びます!」
「案内するわ!」
「兄さん、後は任せて!」
精霊族との友好を結んだ直後に突きつけられた――
“ネザリアの危機”。
マランは、凄烈な殺気を帯びて呟いた。
「……誰だ。
フェローに……俺の仲間に手を出したのは――」
影が轟き、マランたちは精霊の森を駆け抜けた。
ネザリアで何が起きているのかは、まだ誰も知らない。
だが――
影王の怒りは、すでに世界を震わせ始めていた。
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何やら不穏になってきました…




