精霊宮殿での初会談
第21話です。宜しくお願い致します。
精霊宮殿――セイレーン宮殿の内部は、外観以上に神秘的だった。
建物そのものが森と一体化しているようで、壁も天井も淡く輝く木材と蔦で構築され、風が通るたびに柔らかな音色を奏でる。
天井の光玉がふわりと明滅し、小さな精霊たちがそこを気ままに飛び回っていた。
案内されたのは宮殿の奥、円卓の広間。
清らかな風が常に流れ、重苦しさを一切感じさせない空気が満ちていた。
「こちらです。どうぞお入りください」
エミリアが元気よく扉を押し開く。
中にいたのは、精霊族の長――エルフィリア女王。
薄い翡翠色の髪が風に揺れ、金の瞳が柔らかく光るその姿は、まさに“森の女王”と呼ぶにふさわしい威厳を放っていた。
その横には立っていたのは、端正な顔立ちの青年――エミリアの兄であり、女王の側近 ガラル。
他にも数名の精霊族の重鎮たちが席に着いている。
マランたち五人が入室すると、ざわり、と空気が揺れた。
魔族の入室に、一部の精霊族が緊張した表情を浮かべる。
「ようこそ、精霊族の宮殿へ。
北の魔族の王よ」
エルフィリアが穏やかに、しかし女王としての重みをもって口を開く。
マランは胸に手を当て、礼を返した。
「本日は、このような場を設けて下さり、心より感謝いたします。
私はネザリアの王、マランと申します」
「ネザリア……魔族の国を興したと、風のざわめきで聞いております」
「はい。
私は魔族の代表者として、そしてこの世界を変える意思を持つ者として、皆様に挨拶をしに参りました」
マランの声は静かだが、芯があった。
その言葉に、重鎮の精霊たちがざわつく。
「魔族が……国を?」
「前魔王でさえ成し得なかったというのに……」
その反応には恐れも、驚きも混ざっていた。
だが、エルフィリアは動じず、金の瞳でマランを見つめ続ける。
「挨拶だけではないのでしょう? マラン王」
マランは頷いた。
「率直に申し上げます。
――精霊族を弱体化させている塔を、破壊しに来ました」
直後、会議室の空気が変わった。
「なん……だと……?」
「塔を……!? 無茶だ!」
ガラルもわずかに目を見開いた。
対して、エミリアは目を丸くした後、
「ね、ねぇ女王様! その塔って、魔族を弱くしてた塔よね!?
マランたち、本当に壊したんだよ! わたしこの目で見たもん!」
と、相変わらずの正直さで場をさらに揺らす。
「エミリア……! 公の場でもう少し落ち着け」
ガラルがたしなめるが、エミリアは「えへへ」と笑うだけだった。
エルフィリアは少女を優しく制し、改めて口を開く。
「……魔族を弱体化させていた塔を破壊したという話、すでに風が運んでいました。
確認のために、エミリアを偵察に向かわせたのです。
勝手な行動をさせてしまい、申し訳ありません」
マランは首を振る。
「いえ、謝罪など不要です。
結果として、エミリアのおかげでこちらも事情を理解できました」
「しかし……」
エルフィリアの声がわずかに低くなる。
「魔族の塔を破壊したため、他の塔は警戒を強め、守りを固めています。
人族も動き始めている。
そんな中をご自身たちだけで塔を破壊し続けるのは――危険ではありませんか?」
マランは迷いなく答えた。
「ええ。
私たちだけでは難しい場面もあるでしょう。
だからこそ――精霊族の力を貸してほしい」
「精霊族の……?」
「地形、索敵、風の魔力による遠距離感知。
これらは塔攻略において非常に重要です。
さらに――」
マランはちらりと後ろを振り返る。
「人族側の内情に詳しい者もいます」
名を呼ばずともアークレイドが静かに一歩進み出る。
会議室全体に緊張が走った。
エルフィリアは目を細め、アークレイドの魂の色を見た。
「……あなたの中から、確かに罪の色が見えます。
ですが同時に……悔いと決意の色も見える」
アークレイドは胸に手を当て、深く頭を下げた。
「……俺は、己の過ちを償いたい。
マラン様に拾われた命だ。
そのためならいくらでも動こう」
女王はしばらく思案した後、静かに頷く。
「分かりました。
精霊族は――ネザリアに協力いたします」
その瞬間、重鎮たちがざわめいた。
「じ、女王陛下!?」
「魔族と手を組むなど前代未聞ですぞ!」
エルフィリアは一歩も退かず、凛とした声で言い放つ。
「彼らのオーラは澄んでいる。
悪意や支配の色は見えません。
疑いようもなく――“真っ直ぐな意思”がそこにあります」
その言葉に、マランは深く頭を下げた。
「感謝いたします、エルフィリア女王」
続けてエルフィリアは言った。
「塔攻略には、私の側近であるガラルを。
そして、妹のエミリアも同行させましょう。
風の道を知る者の力は、きっとあなた方の助けになるはず」
「はい。心強い限りです」
エルフィリアはマランを見据え、最後の問いを投げかける。
「……ですが。
あなた方にとって、塔を壊すことは“利”より“リスク”の方が大きい。
――それでも挑む理由は何ですか?」
マランは迷わず答えた。
「この世界を平等にしたいからです。
人族による支配を終わらせ――全ての種族が自由に生きられる世界にしたい」
静寂が落ちる。
精霊族の重鎮たちは口をあんぐりと開け、ガラルも目を見開き、エミリアはきょとんとしていた。
マランは続ける。
「そしてこれは商談になりますが……
精霊族と国交を結びたい。
農作物の技術を学び、こちらからは薬草や薬に使える毒キノコなどを提供できます。
互いの利益につながると考えています」
エルフィリアはしばらく沈黙し、やがて優しく微笑んだ。
「……その提案、嬉しく思います。
明日、改めて返答をいたしましょう」
そして立ち上がり、手を軽く振る。
「今日はセイレーン宮殿をエミリアに案内させます。
ささやかなもてなしもありますので……ゆるりとおくつろぎください」
エミリアが「任せてー!」と元気よく手を挙げた。
こうして――
魔王国ネザリアと精霊族との初めての会談は、静かに幕を閉じた。
登場人物がどんどん増えていくので大変です。




