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この世界を壊します〜魔王に転生したので配下を揃えて国作りをします〜  作者: JUJU


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20/50

精霊の森と、風の案内人

第20話です。

宜しくお願いします。

ネザリアを出て、北東へ。


 森と丘が交互に続く道なき道を、五つの影が進んでいた。


 マラン、ザナド、シェリー、マニア、そしてアークレイド。


 塔を一つ落とし、新たな同盟先として精霊族に会いに行く――その初めての“外交旅”だ。


「しかし、精霊族ねぇ……」


 マニアが背伸びをしながら空を見上げる。

 薄く雲がかかった空に、風がさらりと流れた。


「本当にそんなにすごいの? 畑とか作物とか」


「すごいどころではありませんよ」


 ザナドが苦笑混じりに応じる。


「精霊族の森は、その土地そのものが“生きている”と評されます。

 土、水、風、陽光……あらゆる自然の力を、精霊たちが繋いでいる。

 農作物の質も量も、他の種族の比ではありません」


「うふふ。となると――」


 シェリーが色っぽく微笑む。


「ネザリアの食卓が、ますます豪華になりそうですわね。

 ねぇ、料理長?」


「それは楽しみだけどさぁ! プレッシャーかかるからやめて!? 料理長なんてまだ慣れてないんだから!」


 わたわたと両手を振るマニアを見て、マランは口元だけで笑った。


「慣れるさ。俺が食べるから、安心して腕を磨け」


「うんっ! じゃあ、いっぱい作る!」


 その後ろで、アークレイドが静かに周囲を警戒していた。


 視線は常に周囲を巡っている。

 森の影、岩陰、風の流れ――


 かつて“狩る側”としてこの辺りを通った経験があるのだろう。


「……皮肉なものだな」


 マランが横目で見ると、アークレイドは自嘲気味に笑った。


「以前は、精霊族の森に近づく魔族を狩るために歩いていた。

 今は、その森の主と“話をしたい”魔王の護衛とは」


「世界はよくひっくり返る。俺も前の世界じゃ家畜だったしな」


 あっさりと言うマランに、アークレイドは一瞬だけ言葉を失い――肩を竦める。


「……それに比べれば、私の転身など可愛いものかもしれませんね」


 


◆ ◇ ◆


 


 しばらく進むと、風の匂いが変わった。


 湿った土と緑の匂いが強くなり、木々の密度も増していく。


「この辺りから先が、精霊族の領域の外縁ですね」


 ザナドが木の幹に触れ、感触を確かめる。


「目に見える境界はありませんが……空気が軽くなる感じがしませんか?」


「確かに」


 マランも周囲を見回した。


 塔の瘴気とは違う、柔らかな魔力の揺らぎ。

 弱体化の圧はここにはない。代わりに、どこか“澄んだ圧”のようなものがある。


 そのとき――


「きゃあああああああああああ!!」


 甲高い悲鳴が森の奥から響いた。


「!?」


 マニアがびくっと肩を跳ねさせる。


「い、今の何!?」


「悲鳴ですね。小柄な……多分、精霊族の声です」


 ザナドが即座に判断する。


 マランは短く息を吐いた。


「行くぞ」


 影が伸びる。

 マランは影潜行で距離を一気に詰め、その後ろをマニア以外の三人が全力で追いかける。


「ちょ、ちょっと待って! 置いてかないでーっ!!」


 


◆ ◇ ◆


 


 悲鳴の主は、すぐに見つかった。


 木々の間、少し開けた場所。

 幹と幹の間に張られた透明な糸。

 その中心に、何かが逆さまにぶら下がっている。


「うわーん!!! またやっちゃったぁぁぁ!!」


 逆さ吊りになっている、小さな少女だった。


 薄い緑色の短髪。

 とんがった耳。

 背中には、今はしなしなと垂れているが、本来ならきっと軽やかに風を掴むはずの羽。


 大きさは、マランの手のひらに乗りそうなほど小さい。

 小鳥くらいのサイズ。


「……罠か」


 アークレイドが周囲を一瞥する。


 木の高い位置に人族の簡易装置。

 踏んだら縄が締まり、逆さ吊りにする原始的な罠だ。


 少女は暴れるたびに、縄がさらにきつく締まっている。


「ちょ、ちょっと待って!? これ、本当にやばいやつ!? 誰かー!! 風さん反応してよー!!」


 バサバサと羽を動かしながら叫んでいるが、その動きはぎこちない。


 ザナドが目を細めた。


「塔の影響で、精霊魔法がうまく使えていない……?」


 少女の周囲の風は、確かに魔力に共鳴している。

 だが、どこか“ちぐはぐ”で、力が噛み合っていないのが分かる。


「助けた方がいいの?」


 マニアがマランを見上げる。


「ああ」


 マランはあっさり頷いた。


「人族の罠にかかった精霊族を放っておく理由はない」


 そう言うと、足元の影がすっと伸びる。


「《影縫拘束シャドウ・スレッド》」


 細い影の糸が縄の結び目に絡みつき――キュッと絞るように動いた。


 次の瞬間、縄がぷつんと千切れる。


「きゃあああっ!?」


 少女の体が落下した――が、その下にすでにマランの影が広がっていた。


 影が地面からふわりと盛り上がり、黒いクッションのように少女を受け止める。


 ふに、と柔らかく弾んだ後、少女はマランの足元にころんと転がった。


「いったぁ……」


 少女は目を白黒させながら、ぱちぱちと瞬きをする。


「……え?」


 目の前に立つ黒衣の男と、その後ろにいる魔族たちに気づき――


「きゃあああああああああ!! 魔族ぅ!? わ、私いまから食べられたり燃やされたりしちゃう系!? 風で飛ばなきゃ――あれ? 飛べない!? え、え、えええええええ!?」


 慌ただしくバタバタしている。


「うるさいな」


 マランは頭を軽く小突いた。


「痛っ!?」


「助けたのはこっちだ」


 冷静な声音で言う。


「人族の罠にかかっていたな。首のあたり、縄で擦りむいている。ザナド」


「はい」


 ザナドが前に出て、少女を覗き込む。


「少し失礼しますね。傷を見ます」


「ひぅっ……」


 ビクリと震えた少女だったが、ザナドの目が優しいことに気づいてか、少しだけ落ち着いた。


 ザナドの右目が淡く光る。


「浅い擦り傷ですね。毒も呪いもありません」


 指先から微かな光を流し込むと、首元の赤い線がすっと消えた。


「わっ……ほんとに治ってる!?」


 少女はぱぁっと顔を輝かせた。


「ありがとーー!!」


 空中でくるくる回転しながら、ぶんぶん手を振る。

 さっきまで飛べなかった羽は、まだ本調子ではないようだが、小さくふわふわと浮く程度には動き始めている。


「風さん、ちょっとは機嫌直してくれた? ……って、あっ」


 そこでようやく、少女は何か大事なことを思い出したらしい。


「あ、あのね、あのね!」


 すごい勢いでマランの顔の前まで飛んできて、ぐいっと近づく。


 とんがった耳がピンと立ち、薄い緑の髪がふわりと揺れた。


「私、エミリアっていうの! 精霊族の風担当! ……の見習い! でねでね!」


「自己紹介だけで情報が多いな」


 マランが若干押され気味に言う。


 エミリアは気にせず続けた。


「精霊女王様に言われたの! 『塔を壊した“北の魔族の王”とやらを、その目で見てきなさい』って! だから、私、偵察に来てたの!」


「……おい」


 アークレイドが小声で漏らす。


「女王、情報が早すぎないか」


「精霊族ですからね」


 ザナドが肩を竦めた。


「風や小さな精霊たちの噂は、想像以上に早く伝わるものです」


 マランはそんな二人の会話を聞きながら、エミリアに視線を戻した。


「つまり――」


「うん!」


 エミリアは胸を張る。

 小さい胸だが、主張だけは大きい。


「あなたが“塔を壊した魔王さん”なんでしょ!? 北のほうでドカーンってすごい揺れがして、風がざわざわして、『あ、塔が一個消えた』って森中が大騒ぎになったんだから!」


 マニアが目を丸くする。


「森ってそんな感じで情報共有してるの……?」


「精霊らしいと言えば精霊らしいですね」


 シェリーがくすくすと笑った。


「でっ!」


 エミリアはくるりと一回転してから、ぴしっとマランを指さした。


「私、あなたがどんな魔王か、自分の目でちゃんと見る役なの! 女王様からの正式な任務!! だから……」


 そこまで言って、ようやく自分がさっき逆さ吊りにされていたことを思い出したのか、気まずそうに頬をかいた。


「そのぉ……任務中に罠にかかって、助けられちゃったんだけどね?」


「バカ正直か」


 マランはため息を一つ落とす。


「まぁいい。ちょうどその女王に会いに来たところだ」


「え?」


 エミリアの目がさらに丸くなる。


「精霊族の長に挨拶をしに来た。

 話がしたい。お前に案内を頼めるか?」


「え、えええ!? 案内!? 私が!? どうしよどうしよ!!」


 エミリアがばたばたと空中を飛び回る。


「でも、助けてもらったしなぁ……女王様にもちゃんと言わなきゃだし……うん!! いいよ!」


 ぱっと顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。


「私が案内してあげる! 精霊族の森へ、特別ご招待だよ!!」


 


◆ ◇ ◆


 


 エミリアに先導され、森の奥へ進む。


 進めば進むほど、周囲の雰囲気が変わっていく。


 風の音がはっきりと聞こえる。

 葉擦れの音がまるで囁きのように耳をくすぐり、木々の間を淡い光が漂っている。


「この先が、精霊族の“本当の森”の入り口だよ」


 エミリアがくるりと振り向いた。


 マランたちの前には、普通の厚い木の壁があるだけに見える。


 鬱蒼と生い茂る木々が行く手を遮り、それ以上先へは進めなさそうな景色。


「どこからどう見ても、行き止まりですが」


「大丈夫大丈夫!」


 エミリアは近くにある大きな岩――いや、それは岩に擬態した巨大な魔石だった――ぽん、と手を乗せた。


「ここにね、自分の魔力を流すの。精霊族専用の鍵石だよ」


 小さな手から、淡い風の魔力が魔石に流れ込む。


 次の瞬間――


 バキン、と音がして、目の前の“木の壁”が揺らいだ。


 まるで水面に石を投げ込んだかのように、景色が波紋となって広がり――


 木の幹も枝も葉も、すべてが薄い膜のように消えていく。


 代わりに現れたのは――


「……」


 マランは言葉を失った。


 マニアは素直に声を上げた。


「すごっ……!」


 そこに広がっていたのは、別世界だった。


 柔らかな光が満ちる森。

 空中には、小さな光の粒――微精霊たちがふわりふわりと漂っている。


 木々の葉から滴る露が、虹色に輝く。

 足元の苔すらも淡い光を帯びているようで、踏むのが躊躇われるほど美しい。


 奥の方、少し高台になった場所に――巨大な宮殿があった。


 白い石と青緑の蔦で作られた、荘厳な建物。

 塔がいくつも伸び、その頂からは風と光が噴き出しているようにも見える。


「わぁ……」


 マニアが感嘆の息を漏らす。


「ね、すごいでしょ!」


 エミリアが得意げに胸を張る。


「あれが、精霊族が住む宮殿――セイレーン宮殿! 女王様と偉い精霊さんたちが住んでる場所なんだよ!」


「……幻想的、という言葉がぴったりですね」


 ザナドが素直に感嘆を漏らす。


「塔と瘴気に慣れた目だと、余計に眩しく感じるわねぇ」


 シェリーも、珍しく感心したように呟いた。


 アークレイドは複雑そうな表情で宮殿を見上げている。


「人族は……こんな場所に弱体化の塔を立てようとしているのか」


「だから、壊すんだろう」


 マランが淡々と答える。


「精霊族と組めるなら、それが一番いい」


 


◆ ◇ ◆


 


 セイレーン宮殿の前まで来ると、入口に小さな門番が立っているのが見えた。


 頭に甲冑の兜のようなものを被った、小さな精霊。

 手にはちまっとした槍。

 体格はエミリアと同じくらいだが、態度は妙に勇ましい。


「おーい、ただいまー!」


 エミリアが手を振りながら飛んでいく。


 門番の精霊がぎょっと目を見開き、慌てて槍を構えた。


「エミリア!? こ、こいつらは何者だ!!」


 門番の視線は、明らかにマランたちに向けられている。


 黒衣の魔王。

 その周りには、厳つい魔族、甲殻の女悪魔、人族上がりの騎士までいる。


 精霊から見れば、“危険度マックスの謎集団”にしか見えないだろう。


「ちょ、ちょっと待って!!」


 エミリアが慌てて門番の前に飛び出した。


「この人たちは敵じゃないよ! 私を助けてくれた恩人で――その、その……」


 言葉を探しているエミリアの背後から――


「そこまででいいわ、エミリア」


 澄んだ声が響いた。


 マランたちが一斉に振り向く。


 セイレーン宮殿の中庭から、静かに一人の女性が歩み出てきていた。


 人族と同じほどの背丈。

 精霊族とは思えないほど“人間に近い”容姿。


 しかし、その周囲には明らかに異質な光が揺らいでいる。


 髪は淡い銀緑。

 瞳は深いエメラルド。

 纏う衣は風と光で織られたようなドレス。


 彼女の歩みに合わせて、風が柔らかく吹き、微精霊たちが彼女の周りを回る。


(……こいつは)


 マランの本能が“上位の存在”だと告げていた。


 女性は門番とエミリアの横を通り抜け、マランたちの前に立つ。


 その瞳が、まっすぐにマランを捉えた。


「風のざわめきで、あなた方が来るのは気づいていました」


 柔らかく、それでいて芯のある声。


 その声を聞いただけで、この森全体が彼女を中心に回っているのだと理解できた。


「ようこそ――北の魔族の王よ」


 マランの背後で、ザナドとマニアが息を呑む。


 シェリーの口元が愉快そうに吊り上がり、アークレイドは無意識に背筋を伸ばした。


 マランは一拍置いてから、ゆっくりと口を開く。


「……挨拶が遅れたな」


 黒い瞳が、女王と正面からぶつかる。


「俺はマラン=タン=リース。

 この世界を壊しに来た魔王だ」


 精霊たちの息が止まったかのような一瞬の静寂。


 その静寂を、女王の柔らかな微笑が破った。


 やがて彼女は、静かに名乗る。


「……よく来てくれました、マラン様」


 微精霊たちがふわりと舞い上がる。


「私はエルフィリア。

 精霊族を束ねる女王――あなたと話がしたくて、ずっと風に耳を澄ましていました」


 マランたちの物語は、新たなステージ――精霊族との邂逅へと進んでいく。


すいません、一昨日にかなり投稿したのですが

昨日も1話しか投稿出来ませんでした。

20話の構成に時間がかかってしまいました。

何とか1話は最低毎日投稿出来るようにがんばります。

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