ネザリア、はじめての宴
第16話です。
宜しくお願い致します。
塔が崩れ落ち、その衝撃で森の魔力が震えた日の夜。
フェローの住処――いや、“ネザリアの一時拠点”として使われている洞窟に、久しく聞かなかった活気が満ちていた。
「かんぱーい!!!」
杯や木の器が一斉に掲げられ、洞窟の天井に響く歓声。
魔族たちの宴は、控えめになど終わらない。
火を囲みながら、豪快に、騒がしく、しかし温かく。
それは、誰もが生きてこの瞬間を迎えられたことが嬉しくてたまらない――そんな夜だった。
「マラン様ぁ。はい、あーん♡」
「しなくていい」
シェリーが大人の色気を全開にして焼き肉の串を差し出してくる。
甲殻に覆われているくせに、妙に艶っぽい笑みを浮かべるのが反則だ。
「ええぇ〜? せっかく私が焼いたのにぃ? 美味しいですよ? きっと虜になっちゃいますよ?」
「……食べるから近づくな。熱い」
「ふふ、照れてますわね?」
シェリーが嬉しそうに揺れるたび、甲殻がカチッと音を立てて光る。
そのたびに向かいのザナドの眉がピクリと跳ねた。
「……マラン様への接触が多すぎませんか、シェリー」
「あら、嫉妬? かわいいザナド」
「嫉妬ではありません。警戒です。あなたは距離が近すぎます」
「私は主に忠誠を捧げているだけよ? あなたもやれば?」
「やりません!!」
ザナドが耳まで真っ赤になって否定する。
その様子を見ていた魔族の若者たちが「ザナド様かわいい……」とひそひそ囁く。
ザナドの威厳は守られるのか心配である。
「はっはっはっ! 見ろマニア、これが我が娘を救ってくれた恩人たちだぞ!!」
「フェロー、声が大きいよっ!!」
フェローは酒樽をまるごと抱えて陽気に笑っている。
荒々しい見た目に似合わず、宴会になると妙に親分肌が増す。
「マラン殿! 今日の働き、見事であった!!
塔が砕け落ちた瞬間、我ら魔族の血がもう一度燃え上がった!!」
「……まあ、悪くはなかったな」
「照れているな?」
「照れてない」
「照れてる」
「照れてない」
「はい、2人ともそこまで」
マニアがため息をついて仲裁に入る。
娘が一番冷静なのがこの親子である。
「でも、本当に……ありがとう、マランさん。
あの塔が壊れたとき、身体の奥からポッと力が戻ってきた気がしたんだ。
多分、他のみんなも……ずっと、こんな日を夢見てたんだと思う」
マニアは涙を浮かべながら笑う。
その姿を見て、フェローの目頭が赤くなった。
「マニア……ぐっ……! 父は……父はなぁ……!」
「泣かないで!! 恥ずかしいから!!」
「泣いておらん!! 筋肉に酒が染みただけだ!!」
「それただの酔っ払いだよフェロー!!」
周囲の魔族たちが大笑いする。
宴はますます賑やかになっていく。
その中で、マランは少し離れた場所で、火を見つめていた。
シェリーもフェローもザナドも、皆が自分の周りで笑っている。
――こんな夜が、自分に訪れるとは思わなかった。
(……悪くないな、こういうのも)
ふと視線を感じると、
ザナドが静かに歩み寄ってきて、隣に座った。
「マラン様」
「なんだ」
「……みんな、あなたのおかげで笑えています。
私も……同じです」
「……そうか」
「はい。
この世界を壊し、新しく作り変える。
私はその道を、あなたと共に歩めて誇りに思います」
「……お前は時々、真っ直ぐすぎるぞ」
「な、なにか変なこと言いましたか!?」
ザナドが耳を赤くすると、マランは珍しく小さく笑った。
「いや……悪くない」
その瞬間、遠くから歓声が上がる。
「マラン様〜〜! こちらに来て飲みましょう〜〜!」
「マラン殿! 娘があなたと踊りたいと言っておるぞ!!」
「行きましょう、マラン様。逃げられませんよ」
引っ張られるように立ち上がると、洞窟は温かい光に包まれていた。
火の粉が弾け、笑い声がこだまし、腹を抱えて笑う魔族たちがそこかしこにいる。
それは――奪われてきた笑顔が、ようやく取り戻された夜だった。
(……必ず壊す。
こんな時間を奪ってきた、この世界の全ての“歪み”を)
マランは静かに拳を握りしめる。
その決意の横で、ザナドが微笑んだ。
「ネザリアの始まりとして……最高の夜ですね」
「……ああ。
ここからだ」
火を囲みながら、仲間たちの笑い声が響く。
この夜を――二度と奪わせないために。
そして、ネザリアの物語は、ここからさらに本格的に動き出す。
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やっと1つ塔が破壊されましたね。
後、7つも塔あるの大変…
人族はなんて量作ってくれてるのやら…




