──影王、塔を砕く──
第15話です。
宜しくお願い致します。
塔の内部は、外の霧よりもなお濃い“瘴気”で満たされていた。
黒い壁には血のような紋様が浮かび、脈動するたびに低い唸り声のような音が響く。
――ドクン。
――ドクン。
まるで塔そのものが心臓を持ち、呼吸をしているようだった。
「防御モード……完全に発動しているな」
マランは静かに呟き、霧を断つように一歩を踏み出した。
塔が震え、内部の魔力が収束する。
――ズズッ……!!
床、その影が揺れた。
次の瞬間、影から巨大な刃が伸び、マランを切り裂こうと迫る。
「ほう。自動迎撃か」
マランは涼しい顔のまま片手を上げた。
「《影装創形シャドウ・クラフト》」
マランの影が蠢き、巨大な黒い盾へと変形。
迫り来る影の刃と衝突し、衝撃が塔全体を震わせる。
――ガギィィン!!
影と影のぶつかり合い。
それは本来、魔族側が不利なはずの“影魔力領域”。
しかしマランの動きは、塔の弱体化をまるで受けていなかった。
「……エラー存在とは、こういう感覚か」
影の盾を弾き飛ばしながら、マランは淡々と呟いた。
塔の奥から、金属音と呻き声が混ざったような咆哮が響いた。
壁が裂け、そこから骸骨と機械を融合したような護衛兵が姿を現す。
「これが……塔の本来の“守護者”ってやつか」
マランは目を細めた。
人族が造り出した、魔族対策の自動兵器――《タワーガード》。
塔の魔石から供給される膨大な魔力により、魔族の弱体化領域では常に強化されている。
だが――
「遅い」
マランの影がふわりと揺れた瞬間、彼の姿は消えていた。
護衛兵の背後から、影が音もなくせり上がる。
「《影潜行シャドウ・ダイブ》」
影から現れたマランが、護衛兵の首元へ掌を突き出す。
手から伸びた影が、槍のような形を取ると――
ズドンッ!!
塔内部に鈍い爆発音が響き、護衛兵の頭部が粉砕された。
マランの前に、塔の心臓部――巨大な黒い魔石が姿を現す。
塔全体に魔力を供給し、瘴気と弱体化領域を生み出している核。
その魔石は、生き物のように脈を打っていた。
「この魔石を壊せば、塔は終わる。
……さて、どう料理してやるか」
魔石に触れないよう距離をとりながら、
マランは目を閉じ、魔力を一点に収束させる。
影が揺れ、塔の壁を侵食し、床に広がり、
空間の光を吸い込んで――黒き海へと変貌する。
マランが静かに呟く。
「《影葬殿獄シャドウ・タナトス》」
――世界が、黒に染まった。
瞬間、塔の内部で影が暴れ狂い、魔石を中心に無数の影刃が捻れながら襲いかかる。
光を失った黒い空間に、赤い亀裂が走る。
――バキィィィィィン!!
魔石がひび割れ、塔全体が崩壊の叫びを上げた。
弱体化の霧が急速に消えていく。
「終わりだ」
最後の一撃。
マランが指を弾くと――影刃が魔石を完全に粉砕した。
――ゴォォォォォオオオオン!!
塔が崩れ落ちる悲鳴とともに、外の霧が晴れていく。
塔の外――
「終わった……のか?」
フェローが拳を握りしめたまま呟く。
シェリーは甲殻の埃を払いながら空を見上げ、目を細めた。
マニアは息を整えながら、胸の前で祈るように手を組む。
ザナドは飛び散った血を拭い、顔を上げた。
――光が差した。
弱体化の霧が完全に消え、久しく見なかった“魔族の魔力の光”が大地から立ち上る。
「これ……私たちの……本来の力……?」
「身体が……軽い……!!」
「魔力の流れが……戻ってくる……!」
魔族たちの胸に、長い間失われていた誇りが戻る瞬間だった。
その中心に、影の海を従えて歩く男――
マランがいた。
「お疲れ様」
マランが柔らかく笑う。
仲間たちの胸が一気に熱くなる。
「……マラン様」
ザナドが膝をついて頭を垂れる。
「塔の破壊、お見事でした」
「ふん、まぁ当然だな……!」
フェローが腕を組み、誤魔化すように鼻を鳴らす。
「だが……すごかった。あれが……魔王の力か」
「マラン様……かっこよかった……!」
マニアが目を輝かせて笑う。
「ふふっ。マラン様。
塔を壊す姿……とても素敵でしたわ」
シェリーが色っぽく微笑む。
マランは皆を見渡し、静かに言った。
「――ありがとう。
この勝利は、俺たち全員のものだ」
その言葉が、大地に染み込むように響いた。
魔族たちの夜は明けた。
塔は壊れ、呪縛は解かれた。
そして――
「行こう。次の塔へ」
マランが笑うと、
仲間たちの心に火が灯った。
世界を壊す旅は、今始まったばかりだ。
今日は更新頻度上げました!
良かったら見てください!




