表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界を壊します〜魔王に転生したので配下を揃えて国作りをします〜  作者: JUJU


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/50

歪められた牙に、終わりを

第14話です。宜しくお願い致します。

森を裂く咆哮が、塔の鼓動と重なった。


 濃くなった霧を押しのけるように、四本の脚が大地を抉りながら走る。

 黒い毛並みは所々、肉と金属のような異物に置き換わり、背骨は不自然な角度で盛り上がっていた。


 ――ドレッドハウンド。


 本来なら誇り高い魔族か魔獣であったはずの何かを、

 無理やり“兵器”として作り替えた、悪趣味の極致。


「……何度見ても、胸糞悪いわね」


 シェリーは、薄く笑いながらも、その瞳だけは笑っていなかった。


 地面には、すでに何本もの爪痕と、抉れた土。

 さっきまでの攻防で、互いに幾度も突進と回避を繰り返している。


 ドレッドハウンドの紅い瞳が、獣の本能と、魔族の苦悶と、意味不明の狂気で濁っていた。


「――――アアアアアアアアアッ!!」


 喉から絞り出される絶叫は、言葉ではない。

 ただ“生きていることそのものへの悲鳴”に聞こえる。


 シェリーの胸に、鋭い棘が刺さった。


(元は……仲間の誰か、だったはず。

 それをあんな姿にして……よくも、よくも)


 腹の底に静かな怒りを燃やしながら、彼女は腰を落とす。


「来なさい、ワンちゃん。――私が、終わらせてあげる」




 同じ頃。


 少し離れた森の一角では、金属音と肉を打つ鈍い音が連続していた。


「魔族を逃がすな!!」


「塔に近づけるな!! 下位兵は前衛を維持しろ!!」


 人族の怒号が飛び交う。

 純血聖騎士団の紋章をつけた騎士たちと、量だけは多い雑兵の群れ。


 その中心で、ひときわ巨大な影が暴れていた。


「来いよ、人族ども!!」


 フェローの拳が、唸りを上げる。


 鍛え抜かれた筋肉が膨れ上がり、皮膚の下で魔力が火花を散らす。


 ――《魔鋼筋マスキュラー・メタル》。


 鍛錬とマランの《ファミリア》によって解放された、本来の出力。


 振り抜かれた拳が、純血騎士の盾ごと胸甲を打ち砕いた。


「がはっ……!」


 鈍い悲鳴と共に、人族の身体が数メートル吹き飛ぶ。


 フェローは汗を拭いもせず、歯を剥き出しに笑った。


(これが……これが、本来の俺の力……!

 塔のせいで鈍ってた感覚が……戻ってきやがった……!)


 胸の奥が熱くなる。

 憎しみと、取り戻した誇りとが混ざった熱だ。


「フェロー!! 左から三人、槍構えて来る!!」


 軽やかな声が飛ぶ。


 マニアが岩場の上から状況を見渡しながら叫んでいた。

 ポニーテールがひゅんと跳ねる。


「任せろ!!」


 フェローは一歩踏み込み、地を踏み砕いた。


 槍を突き出そうとした三人の間合いに、拳がねじ込まれる。


「おおおおおおッ!!」


 轟音。


 衝撃波と共に三人まとめて弾き飛ばされ、

 鎧が歪み、木に叩きつけられて動かなくなる。


「ひ、ひぃっ……!」


「に、逃げ――」


 雑兵の一人が悲鳴をあげた瞬間。


「逃がさないよ!」


 マニアの影がふっと消え――

 次の瞬間、彼の顎に蹴りが炸裂した。


 ――《魔式・双影脚》。


 地を蹴ると同時に、残像のような蹴りが連続して見える。

 フェイントと実体が混ざった、錯覚を利用した脚技。


 顎、鳩尾、膝――

 たて続けに急所を蹴られた兵は、悲鳴も出せずに沈んだ。


「ふーっ……数が多いだけで、中身は大したことないね!」


「調子に乗るな、ガキィ!!」


 純血騎士の一人が剣を振り上げ、マニアめがけて飛び込む。


 だがマニアは一歩も退かない。


 鋭く息を吸い、視線だけでその軌道を見切る。


 踏み込みの癖。肩の動き。腰の入り方。


 そのすべてを、“生存本能”で読み取る。


(右上から――)


 剣が振り下ろされる瞬間、マニアの身体が横へ滑る。


 足先が地面を軽く蹴り――

 その反動を乗せた回し蹴りが、騎士のこめかみを撃ち抜いた。


「っ……!」


 騎士の身体が横に倒れる。


「フェロー!! こっちは大丈夫!!」


「おう!!」


 フェローは横目でマニアの姿を確認し、再び前を向いた。


 まだ敵はいる。

 だが――


(怖がってやがるな)


 兵たちの足が、わずかにすくんでいるのが見えた。


 塔の近く。

 本来なら魔族は弱りきり、人族に一方的に狩られるはずの場所で――


 逆に圧倒されているのだ。


「て、撤退を――」


「馬鹿者!! 魔族風情に背を見せるな!!」


 純血騎士が怒鳴るが、声には焦りが滲んでいる。


 フェローは、それを見逃さなかった。


「おせぇよ」


 地を踏み、加速。

 鉄塊のような拳が、騎士の腹部に叩き込まれる。


 鎧が内側から歪み、そのまま地面に叩きつけられる。


「っぐ……!」


「こっちからしたら、てめえら人族こそ“獲物”なんだよ!!」


 怒りと共に吠えるフェロー。


 その声は、森に響き渡った。




 一方その頃。


 シェリーは、ドレッドハウンドの正面に立っていた。


 すでに何度も衝突を繰り返した後である。

 甲殻にはひびが入り、服には裂け目が走り、頬にも血が伝っていた。


「……タフね、本当に」


 息を整えながら呟く。


 ドレッドハウンドも決して無傷ではない。

 シェリーの打撃と毒によって、動きは最初より僅かに鈍っている。


 だが――それでも動き続ける。


 爪の一本が欠けても、

 脚の筋肉が裂けても、構わず突っ込んでくる。


 それが、“作られた兵器”である証拠だった。


「――――アアアアアアアアア!!」


 足元の土を爆ぜさせながら、ドレッドハウンドが突進してくる。


 四肢の関節が限界を超えた角度まで曲がり、

 そのたびに骨が軋む音が聞こえる。


(体が悲鳴を上げてるのに、止まれない……)


 シェリーは、ほんの一瞬だけ、唇を噛んだ。


(やっぱり……“死なせてあげる”しかない)


 胸が痛む。

 だが、その痛みも毒として喉に落とし込む。


 彼女は左腕を前へ出した。


「《甲殻展壁カラペイス・ウォール》」


 空間に、白銀の甲殻片が次々と現れる。

 それらが瞬時に組み上がり、巨大な壁となった。


 ドレッドハウンドの身体が、その甲殻に激突する。


 ――ガギィン!!


 甲殻と肉と金属がぶつかる凄まじい衝撃音。

 壁には亀裂が走るが、完全には崩れない。


 シェリーは、その隙に距離を取った。


「ふふ……やっぱり“硬い女”って、頼りになるでしょう?」


 自分で自分に軽口を叩きながらも、目は笑っていない。


 ドレッドハウンドが壁を砕き、再び姿を現す。


 口元には泡。

 目には焦点がない。


 それでも、ただ“殺す”ためだけに前に出てくる。


「……本当に、最悪」


 シェリーは深く息を吸い込んだ。


「《甘虐香スウィート・パラライズ》」


 甲殻の隙間から、甘い香りを含んだ霧がじわりと吹き出す。


 まるで花畑のような芳香。

 だがその正体は、高濃度の麻痺毒。


 ドレッドハウンドの鼻孔から、その香りが入り込んでいく。


「――――ァ……」


 動きが、ほんの少しだけ鈍る。


 しかし、完全には止まらない。


 深くまで壊された神経系が、毒の信号すら識別できていないのだ。


「それでも……効いてはいるようね」


 わずかに動きが重くなった足取りを見て、シェリーは冷静に分析する。


「なら――重ねるだけ」


 今度は右手を前に出した。


「《沈夢の雫スリーピング・ドロップ》」


 指先から、透明な液体が滴り落ちる。


 それが地面に触れた瞬間、細かい霧となって立ち上った。


 鎮静と睡眠を誘う甘い毒。

 魔物には効きづらいが、魔族の魂が混じった存在なら――届く。


 ドレッドハウンドの足取りが、さらにふらついた。


「――――ア゛ア……」


 喉の奥から漏れる声が、少しだけ低くなる。


 怒りというよりは、戸惑いに近い声。


「眠くなってきたでしょ?」


 シェリーは、ゆっくりと歩み寄った。


「無理に戦わなくていいわ。

 本当は、とっくに限界なんでしょう?」


 その声には、本物の優しさが滲んでいた。


 だが――


 ドレッドハウンドは、まだ前に出ようとする。


 脚がもつれ、よろけながらも、

 牙を剥き、爪を振り上げる。


 すでに、その動きには“戦闘”と呼べるものはない。

 ただ、組み込まれた命令に従っているだけだ。


 シェリーの顔から、完全に笑みが消えた。


「……そう」


 低く呟き、肩を落とす。


「あなたの意思じゃ、止まれないのね」


 その瞳に、決意の色が灯った。


「なら――私が止める」


 彼女は右手の甲殻を展開し、

 指先から滴る黒い液体を、じっと見つめる。


「さっきまでのは“優しい毒”。

 これからのは――本当に、終わらせる毒よ」


 ドレッドハウンドが、最後の咆哮を上げて突進してくる。


 その瞬間。


 シェリーの姿が、ふっと掻き消えた。


 甲殻の脚で地面を滑るように移動し、

 ドレッドハウンドの懐へと潜り込む。


 近距離。

 牙も爪も、もはや避けようがない位置。


 それでも――シェリーは怯まず、喉元へ手を伸ばした。


「《獄蝕毒デモンズ・ヴェノム》」


 囁くようにスキル名を告げる。


 指先から滲み出た黒い毒が、ドレッドハウンドの皮膚を焼き、血管へと流れ込む。


 その瞬間。


 ドレッドハウンドの身体が、びくりと大きく震えた。


「――――アアアアアアアアアアアアア!!」


 悲鳴が、森に響き渡る。


 それは今までの狂った咆哮とは違った。

 苦しみと、恐怖と、そして……どこか“解放”の色を帯びた叫び。


「っ……!」


 あまりの声に、シェリーは思わず眉を寄せる。


 だが、目は逸らさない。


(見届けるのが……責任よ)


 毒が全身を駆け巡る。


 歪んだ筋肉が痙攣し、

 無理やり繋ぎ合わせられた骨が軋み、

 埋め込まれた金属片が、内側から押し出されるように軋んだ。


 やがて――


 ドレッドハウンドの四肢が、力なく崩れた。


 巨体が、土煙を上げて倒れ込む。


「…………ぁ」


 最後に漏れたのは、かすかな声。


 それは、ほんの少しだけ“安堵”に聞こえた。


 シェリーはそっと、その頭に手を置いた。


「おやすみなさい。

 本当は、こんな姿になりたくなんて、なかったでしょう?」


 撫でる指が震える。


 甲殻越しに触れる毛並みは、もう温もりを失いつつあった。


 しばらくそのまま目を閉じ、

 やがて彼女は静かに立ち上がる。


「……終わったわ」


 呟いたその声には、怒りも悲しみも、すべて呑み込んだ冷静さが宿っていた。




 森の別の場所では、最後の兵が倒れたところだった。


「ふぅ……」


 フェローが大きく息を吐く。


 周囲には、うめき声を上げる人族と、気絶した騎士たち。

 一部は逃げ出したが、大半は地面に転がっている。


「まだやれるか、マニア」


「全然いける!! ……けど、ちょっと足がプルプルしてるかも」


 マニアがぴょん、と軽く跳ねてみせる。


 足元には、倒れた兵士や剣が散乱していた。


「やっぱり……前と全然違うね」


 マニアは、自分の両手を見つめる。


「今までは、力を出そうとしてもどこかで止められてる感じがしてた。

 でも今は……ちゃんと、体の隅々まで“自分の力”が行き渡る」


「……ああ」


 フェローも、自分の拳を握りしめた。


「塔が全部壊れたわけじゃねぇ。

 第八の塔はまだ健在のはずだ。

 それでも、この塔の影響が薄くなったおかげで――こんだけ動ける」


 マニアがにこりと笑った。


「マラン様と、フェロー達のおかげだね」


「違ぇよ」


 フェローは、照れ隠しのように鼻を鳴らす。


「マラン様が道を作ってくれて、

 お前らがその道を走ってるだけだ。

 ……誇っていいのは、ここまで戦った“自分自身”だ」


「ん……うん!!」


 マニアの表情が、いっそう明るくなる。


 ふと、彼女が遠くを見やった。


「フェロー……見て」


「ん?」


 塔の方角。


 濃い霧の向こうで、黒い塔が赤い紋様を強く輝かせていた。


 ゴウン、ゴウン――

 あの不気味な鼓動は、さっきよりもさらに重く響いてくる。


「塔が……怒ってるみたいだね」


「……防御モードってやつか」


 フェローは眉をひそめる。


「マラン様が暴れりゃ、そりゃ塔も必死になるわな」


「マラン様……大丈夫かな」


 マニアの声に、不安が混じる。


 フェローはきっぱりと言った。


「大丈夫に決まってんだろ」


 迷いのない声だった。


「あの人は、“世界を壊す”って言ったんだ。

 ここでへばるようなタマじゃねぇよ」


「……そう、だよね」


 マニアも笑う。


「私たちは――」


 そこへ、甲殻を軋ませるような足音が近づいてきた。


「終わったわよ、こっちも」


 シェリーが、霧の中から現れる。

 いつもの艶っぽい雰囲気は少し薄れ、代わりに疲労と静かな怒りを纏っていた。


「シェリー!」


「ワンちゃんは?」


「ちゃんと……眠ってもらったわ」


 シェリーは短く答える。


「二度と“兵器”として使われることはない。

 少なくとも、それだけは保証するわ」


 その目には、ほんのわずかに滲んだ涙の跡。


 マニアは駆け寄り、彼女の手を握った。


「ありがとう、シェリー。

 きっと……あの子も、感謝してる」


「ふふ……慰めるのが上手いわね、マニアちゃん」


 シェリーはようやく、少しだけいつもの笑みを取り戻した。


「……さて」


 フェローが腕を組む。


「こっちは片付いた。

 後は――」


「マラン様と、ザナド様」


 マニアが塔の方を見ながら呟く。


「二人が、塔と中の連中をどうにかしてくれる」


「それでも、ぼさっと見てるわけにはいかないわね」


 シェリーが唇を吊り上げる。


「後からでもいい。

 塔が壊れた瞬間――この森を“取り戻す”準備をしておかないと」


「おう。

 戻ってくる連中を迎え入れるのも、戦いのうちだ」


 フェローが頷く。


「それに……」


 マニアが、きゅっと拳を握る。


「帰ってきたとき、胸を張って言いたいからね。

 “こっちもちゃんと勝ってたよ”って」


 その言葉に、フェローとシェリーは顔を見合わせ、

 同時に笑った。


「……そうだな」


「ええ。

 じゃあ、堂々と言えるようにしましょうか」


 戦場から少し離れた場所。


 そこには、まだ傷ついた魔族たちが隠れている。

 回復の手も、休息の場も必要だ。


「負け戦の匂いがしなくなっただけでも、十分大成果よ」


 シェリーは肩を回しながら言う。


「――さぁ、ここからよ。

 マラン様が壊した後の世界を、どう作り直すか」


 フェローは最後に一度だけ、塔を睨みつけた。


 遠くで、黒い影と、塔の防御機構が激しくぶつかり合っている気配がする。


(マラン様。ザナド。

 俺たちは、ここで勝った。

 後は――そっちも、派手にやってくれ)


「行くぞ、マニア。シェリー」


「うん!!」


「了解、隊長?」


 三人は背を向け、森の奥――仲間たちの待つ方角へと走り出した。


 その背中は、どれもまっすぐで、迷いがない。


 歪められた牙は折られた。

 後は、牙を歪めた“塔”そのものを叩き壊すだけだ。


 戦いは、まだ終わらない。

 だが――確かに、一つの勝利はここに刻まれたのだった。

この話は少し執筆量多かったですね…

シェリーさんも好きになっちゃいそうです…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ