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この世界を壊します〜魔王に転生したので配下を揃えて国作りをします〜  作者: JUJU


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13/50

治癒の魔族、決意の刃

第13話です。

宜しくお願い致します。

塔の周囲に漂う瘴気は、先ほどよりも濃くなっていた。

 まるで塔そのものが息をし始めたかのように、霧が脈動し、地面が微かに震える。


 ザナドは、剣戟の音を背にしながら、一歩前へ踏み込んだ。


 ――重い。


 足首に鉛を括りつけられたような感覚。

 胸が圧迫され、呼吸のリズムが崩れる。


 塔から離れていても、この重さ。

 魔族である自分にとっては、歩くだけでも負荷が極端に増す。


(塔に近づくごとに……圧が増す……。

 この外縁でこの重さなら……あの塔の真下で戦っているマラン様は……)


 ふと視線を向ければ、霧の奥で黒い影が剣を振るい、白銀の騎士と激突している。

 その影――マランは微動だにせず、塔の直下の“最も濃い圧”の中に佇んでいた。


(……本当に、とてつもないお方だ)


 胸に尊敬が湧く。


 だが――


「魔族が、塔の影響下でよろめかぬとはな」


 冷たい声が、眼前から飛んできた。


 純血騎士団の隊長格。

 アークレイド直属の部下と思しき男が、剣を構えて立ちはだかる。


 鎧は白銀、剣は鋭い軌跡を描き、隙のない構え。

 塔の加護が身体能力を底上げし、剣速が異常に速い。


「この場所は人族にとって“庭”だ。

 塔の圧の中で鍛えられた我々と、ただ弱らされるだけのお前たちでは――」


 男は床を蹴った。


「格が違うのだよッ!」


 剣閃が雷光のように走る。


 ザナドはギリギリで身を捻り、刃が頬を掠めた。

 赤い線が浮かび、血が一滴落ちる。


 騎士は嘲るように口角を上げた。


「避けるのに精一杯か?

 その動き……支援系か、補助系の魔力流れだな。

 前衛向きではない」


「……あなたに語ることは、何もありません」


 ザナドは淡々と言いながら、右目に魔力を流し込む。


 ――《魔眼診断アナライズ・アイ》発動。


 視界が一変する。


 騎士の身体の魔力の流れが、川のようにくっきりと見えた。

 魔力は上半身に偏り、肩の古傷付近が薄く乱れている。

 鎧の継ぎ目の僅かな甘さも、流れを通して手に取るように読めた。


(見えた……。

 塔の圧でこちらは不利ですが――

 弱点を攻めれば、十分に勝機はある)


 ザナドは杖を地に軽く打ち付け、鎖を構えた。


「さて……どう攻める?」


 騎士が踏み込む。

 ザナドの視界には、騎士の“未来の動き”が薄く予測線となって伸びる。


 右下からの薙ぎ払い。

 次に、左肩でのフェイント。

 そこから一直線の突き――。


「遅いです」


 ザナドは冷静に避け、鎖で剣の軌道を絡めとる。


「ちっ……!」


 騎士が体勢を崩した瞬間を狙い、ザナドは左手を掲げた。


「《影涙鞭シャドウ・ウィップ》」


 空間に黒い裂け目が走り、そこから無数の黒いムチが現れた。


 塔の圧で速度は落ちている。

 だが――狙いは正確。


 ムチの一本が騎士の膝裏を叩き、もう一本が剣の持ち手を絡め取る。


 騎士の表情が僅かに歪む。


「こんなもの……!」


 塔の加護を受けた腕力で無理やり引き千切ろうとしたが――


「その大振りな動きが、隙だらけです」


 ザナドはすでに次の一歩に移行していた。


 ムチで剣の重心をずらし、鎖で足を払う。

 騎士はバランスを崩し、一瞬だけ体勢がぶれる。


 その瞬間――塔が再び“脈動”した。


 ドクン。


 空気が、さらに重くなる。

 ザナドの呼吸が一瞬止まりそうになった。


(くっ……! 重い……!

 塔が……覚醒している……?)


 騎士の目に喜色が浮かんだ。


「ハハハ!

 外縁ですらその様か!

 魔族は、この塔の前では虫同然!」


「……黙りなさい」


 ザナドは深く息を吸い込み――

 そのまま頬を伝う涙を指先で掬った。


「《再生のリザレクション・ドロップ》」


 涙が肌に吸い込まれた瞬間、体内の魔力が滑らかに巡り出す。


 塔の圧そのものは消えない。

 だが、“魔力の詰まり”は浄化され、動きがわずかに軽くなる。


 ザナドは杖を構え、静かに前へ歩み出た。


「私は……守れなかった過去を、二度と繰り返さないために――

 戦う力を選んだのです」


「何を……!」


「あなたを倒す。それだけです」


 ムチが走る。


 黒い軌跡が空を裂き、騎士の剣を絡めとる。

 そして――


「――折れろ」


 ザナドが鎖を引き絞った瞬間、

 剣は砕ける音を立てて折れた。


「な……!」


 騎士の手に衝撃が走り、柄だけが宙を舞う。


 ムチが次々と襲い、

 鎧の継ぎ目を切り裂き、肩の古傷を正確に叩き、体勢を崩す。


 騎士が膝をつく。


「バ……バカな……!

 塔の加護を受けた私が……!」


「塔の加護があろうと――」


 ザナドはゆっくりと歩み寄り、

 黒いムチを一点にまとめた。


「“守りたいもの”のために戦う魔族の刃は、折れません」


 ムチが槍のように形を変える。


 騎士の瞳が恐怖に染まる。


「ま、待て……!」


「さようなら」


 ――《影涙鞭・穿心ピアス》。


 黒い槍が一直線に走り、

 騎士の胸を貫いた。


 騎士は一度大きく息を吐き――

 そのまま崩れ落ちた。


 ザナドは静かに杖を下ろし、血を振り払う。


「……倒しました、マラン様」


 呟く声は、どこか誇りに満ちていた。


 まだ塔は鼓動している。

 霧の奥からは、シェリーの咆哮、フェローとマニアの戦いの音が――そして、マランの圧倒的な闘気が伝わってくる。


 ザナドは深く息を吸い、塔を見上げた。


「私も……急がねば」


 マランの隣に立つと誓った。

 その誓いに違えるつもりはない。


 ザナドは静かに歩き出した。


 ――治癒の魔族が、戦士として踏み出す第一歩だった。


ザナドさんカッコいいですね。

推しになっちゃいそうです。

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