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この世界を壊します〜魔王に転生したので配下を揃えて国作りをします〜  作者: JUJU


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12/50

塔前決戦──弱らない魔王

第12話です。宜しくお願い致します。

霧を抜けた先に、それはあった。


 黒々とした岩肌を突き破るようにそびえ立つ、異様な塔。

 空へ向かって伸びるその輪郭は、夜明け前の薄闇の中でなお、はっきりとした“悪意”を形にしていた。


 塔の根元から、見えない波動が吹き上がってくる。


 魔族であれば、骨の髄から力を奪われ、膝をつくような圧迫感。


 ――そのはずだった。


「……ここが、魔族抑制の塔」


 ザナドが静かに呟く。


 彼は塔から吹き出す波動を正面から受けながらも、表情を崩さない。

 ただ、その目の奥でわずかに警戒の光が揺れた。


(確かに……体の奥を掴まれるような嫌な感覚があります。しかし……)


 足は止まらない。

 膝は折れない。


 ザナドの肉体には、すでに“魔王の魂”が混じっている。


 塔の弱体化は、完全には届いていない。


 そして、その隣に立つ男は――


 塔の波動を、まるでそよ風のように受け流していた。


「大したことはなさそうだな」


 マランは、いつもと変わらない調子で言った。


 身体のどこにも違和感はない。

 魔力の巡りも、筋肉の張りも、少しも損なわれていない。


(……本来なら、この距離で魔族は立っていることすら困難なはず、だが)


 ザナドは横目でマランを見やる。


 何度も見てきた姿。

 だが塔の目前に立つ今、その“異常さ”がいっそう際立って見えた。


(マラン様は……やはりこの世界の“外側”にいる存在)


 塔の波動が魔族という“種族”をターゲットにしているのなら――

 この魔王だけは、その定義から外れているのだ。


 




 


「そこまでだ、魔族ども」


 低い声が、塔の根元から響いた。


 霧の向こうから歩み出てきたのは、重厚な白銀の鎧をまとった人族の男だった。


 胸元に刻まれた紋章。

 純白のマント。

 鍔の広い剣を背に負い、その身には塔から流れ込む魔力がまとわりついている。


 ただの兵ではない。

 純血聖騎士団の、それも上位の者だと、一目で分かる気配。


「純血聖騎士団、グランハイト様直属部隊長――アークレイド。

 ここから先は、人族の領域だ」


 男の瞳には、純粋な“選民意識”が宿っていた。

 魔族を見下し、踏みつけることが当然だと信じて疑わない光。


 塔から吹き上がる魔力が、その傲慢さに拍車をかけている。


(塔の加護を受けている……)


 ザナドは一歩前に出かけ、しかしマランの片手に制された。


「こいつは俺がやる」


 マランは前を見据えたまま言う。


「ザナド。お前には――別口の客が来てる」


 その言葉とほぼ同時に、ザナドの背後。

 霧の切れ目から、鋭い殺気が飛び込んできた。


「魔族の治療士風情が、よくもここまで登ってきたものだな」


 細身の鎧をまとった純血騎士が、いつの間にかザナドの背後へ回り込んでいた。


 剣はすでに抜かれ、その切っ先はザナドの喉元へ伸びかけている。


 ザナドはわずかに首を傾げ、その一撃を紙一重で避けた。


「……なるほど。私の相手は、あなたですか」


 緋の紋章を持つその騎士は、鼻で笑う。


「回復魔法を得意とする魔族、というのは珍しい。

 塔がなければ、少しは面白かったかもしれないがな」


「試してみましょう」


 ザナドの右目が、静かに輝く。


 相手の筋肉、骨格、魔力の流れが、視界に鮮明に映し出される。


(塔の加護で筋力と反応速度が底上げされていますが……関節の可動域には限界がある。

 そのバランスを崩せば――)


 ザナドは杖と鎖を構え、静かに身を沈めた。


「マラン様。私はこちらを」


「ああ。任せる」


 それだけ告げて、マランはもうザナドに意識を向けなかった。


 




 


「魔王マラン=タン=リース、だったか」


 アークレイドがマランを真正面から見据える。


 塔から溢れる魔力の波に乗り、その身体は常人の数倍の膂力と速度を得ている。

 この領域では、本来の魔族など子どもの遊び相手にもならない。


「塔の間近で立っていられる魔族を、私は初めて見た」


「そうか」


 マランは首を少しだけ傾げた。


「……それがどうした?」


 次の瞬間、アークレイドの姿がかき消えた。


 目にも留まらぬ踏み込み。

 剣閃が霧を裂き、マランの首筋を狙う。


 しかし。


 甲高い金属音と共に、剣は空中で止められた。


 マランが、いつの間にか右手に“黒い刃”を持っていた。


 影が形を成した剣。

 刃渡りは長くも短くもなく、無骨な黒剣。


「……!」


 アークレイドの瞳が大きく見開かれる。


 自分の渾身の一撃が、軽く一振りで受け止められた。


「一撃目から首を狙うのは嫌いじゃないが……」


 マランは微かに目を細める。


「……力の載せ方が雑だな。

 塔に甘えて、鍛錬を怠っただろ」


「黙れッ!!」


 アークレイドは怒号と共に剣を振るった。


 剣速は加速する。

 縦、横、斜め、突き――あらゆる軌道から斬撃が襲いかかる。


 塔から供給される魔力によって、筋肉の出力は常人の数十倍。

 鋼鉄の鎧ごと叩き割る一撃が、連続でマランを襲う。


 だが。


 マランの足は、ほとんど動かない。


 身体の重心は常にぶれず、

 黒剣と時折現れる影の盾が、そのすべてを“必要最低限の動き”でいなしていく。


 金属が砕けるような音が響いても、マランの表情は変わらない。


「――浅い」


 ぽつりと零れた言葉に、アークレイドの顔が引きつる。


「くっ……!」


 息が上がる。

 額に汗が浮かぶ。


 塔からの魔力供給はある。

 身体強化も耐久力も、数段階引き上げられている。


 にもかかわらず。


(押されている……!? 魔族相手に……この俺が……!)


 アークレイドは、奥歯を噛み締めた。


「どうした。純血騎士団の部隊長とやら。

 それが全力なら、さすがに拍子抜けだ」


 マランの声には、本気の失望が混じっていた。


 




 


 一方その頃、ザナドと純血騎士の隊長格は別の位置で火花を散らしていた。


 塔の影が伸びる位置から少し外れた、岩場の開けた場所。


 斬撃と鎖がぶつかり合い、鋭い音を連続して響かせる。


「居るんだよなあぁ!!たまに、少し普通より強く生まれたからって愚かにも塔に向かってくる奴!」


 純血騎士が嘲るように言う。


「後ろで傷を舐め合っているのがお似合いだぞ、魔族」


「……あなたたち人族の価値観では、そうかもしれませんね」


 ザナドは淡々と答える。


「ですが――私は、あの方と共に前に出ると決めたので」


 鎖の先端に黒い魔力が灯る。

 拘束と斬撃を兼ねた刃が形成され、騎士の剣と激突する。


(塔の弱体化領域の端……マラン様の近くに比べれば、抑圧は幾分ましですが……)


 魔力の巡りに、ときおり微かな“重さ”を感じる。


 それでも。


(ここも、本来の魔族にとっては十分に致命的な場所……

 それを考えると、マラン様は……)


 ザナドは一瞬だけ視線を塔の方へ向けた。


 そこでは、全く別次元の戦いが繰り広げられている。


 




 


「塔の加護を受けた俺を相手に、余裕を見せるとは……」


 アークレイドは低く笑った。


「だが、それも長くは続かん。

 この場所は、魔族の力を根源から削ぐ“牢獄”だ。

 お前の力も、時間が経てば――」


「そうだな」


 マランは、あっさりと頷いた。


「普通の魔族なら、そうだろう」


 黒い瞳が、ゆっくりとアークレイドを捉える。


「だが、俺は“普通の魔族”じゃない」


「……何?」


「前の世界でも、家畜扱いされて死んだ。

 この世界に来ても、また誰かが誰かを縛っている」


 マランは、静かに、しかし確かな怒りを込めて言った。


「そんな世界を壊すために、ここまで来た。

 塔の都合なんか、知ったことか」


 その言葉に、アークレイドの顔が歪む。


「……っ!

 貴様ら魔族ごときが、世界の秩序に口を出すな!」


 魔力が爆発した。


 塔の根元から噴き上がるように、アークレイドの身体を光が包む。


「純血剣術・奥義――《血統閃牙》!!」


 剣が振り抜かれた瞬間、世界が裂けた。


 大地が縦に割れ、土と岩が吹き飛ぶ。

 霧が一気に晴れ、塔の上層部までが露わになる。


 斬撃は正面から、マランを飲み込むはずだった。


 だが。


 空気の底で、何かが“ひっくり返った”。


「――この程度か」


 黒い刃が、光の奔流の中で静かに輝いた。


 マランの影剣が、アークレイドの〈血統閃牙〉を真正面から受け止めていた。


 足元の地面が沈み、大きく陥没していく。

 爆発する魔力の風圧で、周囲の岩が粉々に砕けた。


 それでも。


 マランの表情は、少しも変わらなかった。


「迫力はあったが……中身が伴ってない」


「なっ……!」


 アークレイドの喉が、悲鳴のような音を漏らす。


 全力。

 塔の加護を最大限に引き出した、渾身の奥義。


 それが、魔族に、しかも一対一で正面から止められた。


「あり得ない……

 ここは塔の直下だぞ……!?

 魔族は、立っていることすら――」


「さっきからうるさい」


 マランは一歩前に出た。


 それだけで、空気が変わった。


 足元の影が、じわりと広がる。


「弱体化してるだの、塔の加護だの。

 そんなものはどうでもいい」


 影が、アークレイドの足首に触れた。


 次の瞬間。


 漆黒の糸が、無数に走った。


「っ……!?」


 地面、塔の根元、岩の隙間――

 あらゆる“影”から、黒い糸のような触手が飛び出し、アークレイドの四肢と胴体を一気に絡め取る。


「これは……魔法か……!?

 弱体化しているはずの……魔族の……!」


「《影縫拘束シャドウ・スレッド》」


 マランは、淡々とスキル名だけを告げた。


 抵抗しようとするアークレイドの筋肉が、軋みを上げる。

 塔から供給される魔力が、拘束を破ろうと暴れ回る。


 だが、影はびくともしない。


「ここで一つ、教えてやるよ」


 マランの声は冷え切っていた。


「塔は、魔族という“種族”を弱らせるんだろう?

 なら俺は、その枠組みから外れてるんだろうさ」


「……何を、言って……」


「自分が何者かなんて、俺にもよく分からん」


 マランは肩をすくめた。


「ただ一つ、はっきりしてるのは――」


 黒い瞳が、真っ直ぐにアークレイドを射抜く。


「お前たち人族が築いた、この歪んだ世界の秩序。

 それを壊す“例外”として、俺はここにいるってことだ」


 塔の波動が、びりびりと空気を震わせる。


 アークレイドは、ようやく悟った。


(こいつは……魔族じゃない……!

 魔族としての枠に収まらない、“何か”……!)


「や、やめろ……!」


 アークレイドが叫ぶ。


 しかしマランは、その言葉を最後まで待ってやるほど優しくはなかった。


「――終わりだ」


 足元の影が、音もなく立ち上がる。


 まるで巨大な棺のように、黒い壁が四方から閉じていく。


 アークレイドの顔が恐怖に引きつる。


「ま、待て!!

 私は十傑直属だぞ……!?

 人族の、未来を――」


「知ったことか」


 マランは、冷たく言い捨てた。


「その“未来”ごと、全部壊す」


 最後に見えたのは、アークレイドの見開かれた瞳だった。


 直後、黒がすべてを呑み込む。


 音もなく、影が閉じた。


 内部で何が起きたのか、誰も見ることはできない。

 ただ一つ分かるのは――


 影が消えたとき、そこに人影はもうなかったということだけだ。


 




 


 静寂が訪れた。


 塔の根元に、マランだけが立っている。


 足元の影は元通り、薄く静かな形に戻っていた。


 少し離れた場所から、金属のぶつかる音と歓声が聞こえる。

 ザナドと隊長格の戦いは、まだ決着を見ていない。


 遠くからは、フェローの咆哮。

 マニアの掛け声。

 シェリーとドレッドハウンドが暴れる気配も、かすかに伝わってくる。


「……時間をかけすぎたか」


 マランはぽつりと呟いた。


 その瞬間だ。


 塔が、脈打った。


 ゴウン、と鈍い音が足元から響く。


 大地が微かに震え、塔の表面を走る魔力紋が赤く光り始めた。


 ドクン。


 ドクン。


 まるで巨大な心臓が動き出したような、“生き物”じみた鼓動。


 塔の上層部の窓のような穴から、黒い霧が噴き出した。


 空気が一段と重くなる。


 瘴気が濃くなり、視界の端に“何か”が蠢くのが見えた。


「……警戒モードってやつか」


 マランは、少しだけ口元を歪めた。


「いいぞ。

 最初の塔なんだから、そのくらい暴れてくれなきゃ面白くない」


 黒い瞳が、塔の上へと向けられる。


 その眼差しには、恐怖も迷いも一片もない。


 あるのはただ、“壊す”という意思だけ。


「さぁ――ここからが本番だ」


 塔の鼓動が、さらに強くなった。


 それは、魔族を抑え込むための“檻”としての本能か。

 それとも、侵入者を迎え撃つための“怪物”としての目覚めか。


 どちらにせよ。


 魔王マランにとっては、壊すべき“敵”であることに変わりはない。


 霧をかき分けるように、一陣の風が吹いた。


 弱らない魔王と、魔族を弱らせる塔。


 相容れない二つが、今、正面からぶつかろうとしていた。

執筆量もかなり増えましたね…

戦闘激化してます…

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