塔の前哨戦 ―影と牙の咆哮―
第11話です。
宜しくお願い致します。
霧が深く満ちる森を、低い唸り声が震わせた。
ドレッドハウンド――
魔族と魔物を強引に混ぜ、魂さえ捻じ曲げ生きながら造られた忌まわしき存在。
その歪んだ体躯が、マランたちの前に姿を現した瞬間――
空気が変わった。
怒り、恐怖、悲しみ……あらゆる負の感情が押し寄せる。
フェローの拳が震える。
マニアは目をそらせず涙を浮かべる。
ザナドの瞳には哀悼の色が宿る。
「……人族は、ついにここまで堕ちたか」
フェローが絞り出すように呟いた。
マランは静かに前へ出る。
「フェロー。マニア。ザナド。シェリー」
名を呼ぶだけで、全員の背筋に緊張が走る。
「――お前たちには、戦場を任せる」
その言葉に、全員が顔を上げた。
マランはドレッドハウンドと周囲の敵の配置を一瞬で見極め、短く指示を出す。
「シェリー。あれはお前がやれ」
「……ふふ。お任せを、マラン様」
シェリーが一歩前に出た瞬間、
彼女の背から白銀の甲殻がきらりと光を返す。
「フェロー、マニア。周囲の下位兵を抑えろ。数が多い。だが――負ける気はしないな?」
「当然だ!!」
「任せて!!」
「ザナド」
「はい――察知しています。あの“殺気”」
視線の先、霧の中から鋭い赤い光が一つ。
隊長格と思われる純血騎士が、剣を抜いてこちらを睨んでいた。
「行ってこい」
「御意」
ザナドは瞬時に駆け出し、闇の中へ消えた。
マランは一度だけ振り返る。
「……大丈夫だ。お前たちなら勝てる」
その言葉は“命令”ではなく、“揺るぎない信頼”だった。
だからこそ――
仲間たちの目に宿った炎は、これまでで最も強かった。
マランは背を向け、影と共に――塔の方向へと歩み去る。
「マラン様……必ず追いつきます」
「行け……魔王」
背中に仲間の声を受けながら、マランの影は森の奥へ溶けていった。
●シェリー vs ドレッドハウンド
「……さて。あなたが私の相手?」
シェリーが挑発的な微笑を浮かべると、
ドレッドハウンドの紅い瞳がギラリと光った。
「――――ァアアアアアアアアア!!」
喉の奥から漏れる絶叫は、魔族の叫びに似て――それでいて全く違う。
魂が悲鳴を上げるような声。
シェリーの表情から笑みが消えた。
「……そんな声で泣かないで。
あなた、こんな姿にされて……どれだけ苦しかったのかしら」
低い、震えるほど優しい声。
だがその瞳は――氷のように冷たく光る。
「安心なさい。すぐに終わらせてあげる」
――ズドォン!!
ドレッドハウンドが地面をえぐる踏み込みで突進する。
四肢は刃になり、空気を裂き、
魔族の肉体を引き裂くためだけに作られた“殺傷器官”。
シェリーは踊るように後方へ跳ぶ。
空気が甲殻を撫で、霧が弾ける。
ドレッドハウンドの爪が地面を切り裂き大地ごと爆ぜた。
「ふふっ……速い。でも――粗いわ」
シェリーは左手の甲殻をシャキンと伸ばし、
腕をしならせてドレッドハウンドの側頭に叩き込む。
ガギィン!!
金属の衝突音のような衝撃。
だが――ほとんど効いていない。
苦悶ではなく、怒りでもなく、ただ“混乱”した鳴き声を上げる。
「……痛みすら理解できないほど壊されてるのね」
シェリーは胸の奥に何か熱いものが広がるのを感じた。
怒りと、哀れみと、悲しみ。
(こんなもの……許されていいはずがない)
「来なさい――あなたが望むなら、私が相手よ」
ドレッドハウンドが再び飛びかかる。
牙がシェリーの喉を狙い、
刃のような四肢が霧を切り裂き――
シェリーは華麗な後転でかわす。
甲殻の脚が地面に触れた瞬間、
石が砕け散り、霧が爆ぜる。
圧倒的な殺意。
だがシェリーは――微笑んだ。
「ふふ……やるじゃない」
●フェロー&マニア vs 下位兵&純血騎士団
「魔族が塔に近づくな!!」
「殲滅しろ!!」
怒号と足音が森中に響き渡る。
しかし――
「来いよ、人族ァ!!
本来の魔族の力ってもんを教えてやる!!」
フェローが雄叫びと共に前進する。
ぶ厚い筋肉が膨れ、拳がうなりを上げ――
殴った瞬間、純血騎士の盾ごと人族が吹き飛ぶ。
地面に転がる人族たちを見るたびに、フェローの瞳が熱を帯びた。
(これが……俺の身体……本来の魔族の力……!
塔さえなければ……俺たちは……!)
その後ろでマニアが高速移動。
「フェロー!!
右に三人、後ろから一人来る!!」
「任せた!!」
冴えわたる連携。
マニアは足先で純血騎士の腕を弾き、
勢いを殺さずバク宙しながらもう一人の顎を蹴り上げる。
「はぁっ!!」
軽い体重とは思えない打撃が、正確に急所を撃ち抜いていく。
だが――敵はまだまだ多い。
霧の中から次々と兵が現れ、
どれも“塔の強化”で通常より力が上がっている。
「数が……多いな!!」
「でも、負けない!!」
フェローとマニアが必死に戦う中、
シェリーとドレッドハウンドの激突が続く中――
二つの影は、すでに戦場を離れていた。
ザナドとマランである。
「マラン様……よろしかったのですか?
皆を置いて先に行かれるのは」
「俺がいても邪魔だろう。
あいつらは自分の怒りを――自分の力で晴らす必要がある」
「……信頼、なのですね」
「それもある」
マランは塔を見据える。
霧の向こうで、黒い塔がその存在感を増していく。
「だが――俺には別の仕事がある」
影が揺れ、周囲の光が暗くなった。
「“塔の守護者”が、こっちを見ている」
その瞬間、空気がビリッと震えた。
ザナドも、背筋に冷たいものが走る。
「あれは……!」
奥の方、霧の中に鋭い魔力の気配。
高位純血騎士団――
人族の中でも最強格の存在。
マランは軽く笑う。
「――行くぞ。ザナド」
「御意」
二人の影が霧に消える。
戦場はまだ始まったばかり。
シェリーの舞踏は続き、
フェローとマニアの怒りは燃え、
ザナドは剣の鎬を合わせる瞬間を待ち、
マランは――塔の真の敵へ挑む。
今さらですが10話突破しましたね!
ここまで見てくださりありがとうございます。
まだまだここから物語は続きますので見ていただけると幸いです。




