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偽り  作者: 神崎明日香
始まり
2/2

2023年5月04日 曇り

 私は自分の事が嫌いだ。なぜかと聞かれると反応に困るが、例を挙げるなら中途半端といったところだろうか。勉強、運動、身長、体重、全てにおいて中途半端な人間だった。頭が悪いわけでもなく、運動ができないわけでもない。こんな自分には飽き飽きしていた。

「消えてしまいたい。」意味もなく、そう呟く。

 消えてしまえばどんなに楽だろうか。考えても終わりの来ないその自問自答は、消えることなく頭の中を渦巻いている。このまま考えても意味がないと考え、私は意識を手放した。





 朝、起きるたびに私は思う。「今死ねたらどれだけ楽だろうか。」昨日考えていたことに似たようなことを考えてしまっていると気づき、無理矢理思考を切り替えスマホを手に取る。何気なくSNSを開き、他人の投稿を眺める。これが朝のルーティーンのようになってしまっている。投稿の中には炎上していたり、一日の出来事を面白おかしくつぶやいていたり、明らかにかわい子ぶっているようなものなど、多種多様なものばかりだったが、どれも昨日のものだった。

 スマホをベッドの上に置き、部屋を出ると「おはよう!」という声が聞こえ「おはよう。」と消え入るような声で答える。小さいころから朝が苦手だった。動きたくない、と言っている体を無理矢理動かし食卓につくと弟はもうご飯を食べていた。弟は天才というわけではないが、中途半端ではなかった。それだけで嫉妬してしまいそうになり弟から目をそらす。ほどなくして母が朝ご飯を持ってきた。「ありがとう。」とまた消え入るような声で感謝を伝え(伝わっているかも怪しいが)ご飯を食べ始める。鮭とみそ汁とご飯だった。「ごちそうさま。」早いとも遅いとも言えぬ時間で食べ終え食器を下げる。そのまま洗面所に行き顔を洗い歯を磨く。いつもと変わらない自分の顔を見てまた嫌になる。特徴もなく無表情。そんな顔を無理矢理笑顔にしてみる。そんな偽りの自分を見て


「死ね。消えろ。」


 誰にも聞こえない声で呟いた。

「瑞希ー!時間大丈夫ー?」と母の声が聞こえてきて現実に引き戻される。男の子とも女の子とも区別のつかない名前。自分の名前ですら好きではなかった。

 このままではいけないと時計を見てみると、8時04分と表示されていた。かなりギリギリだ。

 急いで部屋に戻り着替えを済ませ荷物を持ち玄関まで走る。なんてことない毎日。本来ならうれしいことなのだが。かえって私の自己嫌悪に拍車をかけていた。

 靴を履き玄関を出る。後ろから「忘れ物ない?」と聞かれ振り返る。「ない。行ってきます。」と答えて玄関を出る「行ってらっしゃーい!」と声が聞こえる。今度は振り返らなかった。

 曇った空の下、自転車に乗り高校に向かう途中また考える。

 どうすれば中途半端な自分から抜け出せるのか。いっそのこと大事件にでも巻き込まれれば中途半端というイメージから多少は離れるだろうか?本当に事件に巻き込まれたことのある人たちからしたら「信じられない」という思いかもしれないがそんなことを考えてしまった。

 不謹慎なことを考えてしまったが、自ら事件に巻き込まれに行くような度胸は私には無い。

 ここまで考えてまた嫌になる。まるで私には何も出来ない、と突きつけられているようだ。

 私には、何にでも立ち向かう度胸も、現状を打破する力も、「頑張れば何でもできる!」という自信もない。まず、努力しようという気力すらない。私の頭の中で終わることのない自問自答が堂々巡りを続ける。

 この時、私は考えることに夢中で信号が赤になっていることに気が付かなかった。


「危ないッ!!」


 そんな声が聞こえたかと思った時には自転車ごと倒れ意識が闇に飲まれた。

 どれぐらい時間がたったのだろうか。そんなことを考えながら白い天井を見上げた。

 今さっき目覚めたところだがどうも頭がさえている。もし自動車とぶつかっていたのならこうも頭がさえているのはおかしいのではないか?よくよく考えてみれば特に大きなけがをしている様子でもないし、痛みもない。自動車にぶつかったわけではないようでほっとする。

 少し頭の整理ができたので周りを見回す。隣には母がいた。

 母もこちらに気づいたようで、看護師さんを呼んだ。よほど心配したのか、普段より早口になっていた。

 ほどなくして看護師さんが来ると体に異常がないか、痛むところはないか、など軽い検査をして問題がないと分かり、母は心底安堵したというような表情で看護師さんの言葉にうなずいていた。

 今日一日は念のため入院することになったが、問題がなければ明日には退院できるということだ。

 看護師さんが退室し母と二人になったところで「私は何にぶつかったのか。」と聞いてみた。母が言うには「通りすがりのおじさまが赤信号に突っ込もうとしていたあなたに体当たりして車とぶつからないように止めてくれたのよ。」だそうだ。助けてくれたのはありがたいが少しがっかりしてしまった自分がいた。

 助けてくれたのが女の子でそこから物語が進んでいく。というようなラノベでありそうな展開など現実には起こり得なかったのだ。唐突に死にたくなり、このまま死んでしまって、転生、という一縷の望みにかけてしまったほうが良かったのではないか、と一瞬考えてしまった。

「本当に心配したのよー!」そんな母の声で現実に引き戻される。その後は適当に答えてその場をしのいだ。母が病室から出ていく前、最後に「ちゃんと前を見ながら運転しなさい」とまじめな声で言われた。

 あたりまえのことだがそれができていなかったのは事実、適当に返事をして母を見送った。

 さて、どうしようか?明日まで病院から出られないとなれば必然的に暇になる。まず時間を見てみることにした。窓の外を見てみると暗くなっていた。思っていたよりも長い時間眠っていたようで母の心配も理解できた。詳しく時間を知るためにスマホはないか、と詳しく回りを見てみると奇跡的に学校のバックが椅子の上に置いてあり、スマホも無事であることが確認できた。スマホの電源をつけ画面に表示された時間を見る。


 7時48分


「えっ、うそ!?」思っていたより遅い時間で少し声が出てしまった。

 さて、時間が確認できた次はどうしようか。スマホの画面をいじりながら考える。ホーム画面をスワイプしSNSのアプリが目に入った、その瞬間、吸い込まれるようにそれを押してしまった。

 アプリが開かれるといろんな他人の投稿が目に入ってくる。朝見たようなものから、どんなものを食べたか、愚痴など様々だ。私も今日の出来事を投稿しようと文章を作り始める。

「今日車に轢かれそうになったぁぁ//こわかったぁぁ//」

 文章を作り、何も考えずに投稿ボタンを押した。

 ホーム画面に戻り自分が投稿した文章が目に入り、「またやってしまった」と後悔の念に苛まれる。現実の自分とは似ても似つかぬ言葉使い、すぐに「消してしまおう」と思ったがもう不特定多数の人々に見られてしまった上に、コメントまでついている。後に引けなくなってしまった。

 もう取り返しがつかないと思い、スマホを手放した。羞恥心や自己嫌悪が体の中を渦巻くのが容易に想像できるほどの不快感が全身を駆け巡る。このことを早く忘れてしまおうと思い全力で眠れるように頭を真っ白にしようとした。


「死ね。消えろ。」


 最後にそう考えた後、私は目を閉じた。

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