05. 崩壊
こんなことって、あるのだろうか。
わたしは全てを察した。
どうしてあんな夢を見たのか。どうして急にミキちゃんのことを思い出して気になったりしたのか。
予知夢なんて信じていなかったけど、それはきっとこういうことかと腑に落ちた。
ミキちゃんのストーリーが更新されていたので迷わずタップして開いた。
そこは華やかに飾りつけされたとても広いミキちゃんのおうちで、彼女に負けないくらいの美人達がドレスアップの格好をして写っている。いわゆるホームパーティというやつだ。
シャンパンらしい液体が入ったグラスで「かんぱーーい!」と明るい声のミキちゃんの声。こちらにまで陽の雰囲気が伝わってくる。
わたしはこんなにどん底にいるのに、とても同じ世界と思えない。楽園のようだ。
あぁわたしはやっぱりミキちゃんになりたい、と何度目かわからないため息を吐いた後だった、彼女の顔が映ったのは。
ホームパーティ全体を映した動画と、乾杯の動画。その後に、一人の女性が単体で映されていた。
最初は服装や化粧があまりにも違うから全然気付かなかったけど、なんとなく違和感があって繰り返し再生すると、今日わたしを痴漢から守ったあの女性だとわかった。
全身に鳥肌が立ち、スマホを持つ手が震えた。
『ゆいぴーやっと来たよー!電車で痴漢見つけて助けてたんだって!やっるぅ♪』
動画にはピンクの読みにくい文字でそう書かれていた。
「ゆいぴーヒーロー、被害者を助けた感想をお願いします!」
グーにした手をマイクのように彼女に向け、ミキちゃんが言う。
被害者とはもちろんわたしのことだ。
こんな形でミキちゃんと繋がることになるなんて。惨めすぎる。
そしてあの正義感の強そうな女性が言った。
「ちょっとやめてよ!あたしは当たり前のことしただけだし。自分でも無意識のうちに助けてた。まぁでも、あれだね……地味な子ほど狙われやすいんだな、って思った」
最後の一言がとどめだった。頭の中で何度も響いては繰り返される。
ぼわぁんと、身体中が麻痺していくようだ。
その場に崩れそうになり、必死で立つ足に力を込める。
そしてさらにわたしのメンタルを崩壊させたのは、それを聞いて大爆笑する、あまりにも能天気で無神経なミキちゃんの、明るすぎる声だった。
ミキちゃんは、彼女達は、わたしの存在自体を嗤っている。
逃げよう、と決めた。
全てを捨てて、こんな世界から、もう逃げてしまおう。
一人で?いや、わたしにはまだ夫がいる。
誰も知らない場所へ二人で行って、一からやり直そう。生まれ変わるのだ、わたしも夫も。
なんとか無事に帰宅した。
ソファにどかっと座ると、大きなため息が出た。
今日はいつも以上に疲れた。このまま目を閉じて朝まで眠ってしまいたい。
でもわたしは、飲みに行っている幹久さんが帰ってくるのを待つ。
全てを話そうと決めた。今どれだけ辛くて、もう限界だということ、そしてこれからのことを、ちゃんと話す。
あんな人だけど、ちゃんと話せばわかってくれるはずだから。
疲れ切った身体を振り絞り、食べ終えたまま残されたお皿やコップを洗い、朝自分で干した洗濯物を取り入れて畳んだ。
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