第7章「空を征する者」
「この時代に“空”を征した者が、天下を獲る」
理は天を仰いだ。
火薬、磁力、電撃――あらゆる地上戦術を制した彼の次なる野望は、空中戦力の構築だった。
「試作機、完成しました!」
由布が誇らしげに布を取り払う。
現れたのは、金属製の小型飛行機――いや、翼を持つ鋼鉄の鳥(グライダー改良型)。
全長は三メートル。軽合金と竹骨で作られ、理の考案した人力兼補助火薬式推進装置を搭載している。
「こいつは空から偵察し、必要とあらば爆撃する。名付けて“ツルギ壱式”」
「飛ぶんですか、ほんとに……?」
由布の疑問に、理はにやりと笑った。
「見せてやる。これが、戦国初の航空戦力だ」
⸻
翌朝。野に設置された滑走路――といっても土を固めただけの簡素なもの。
「ツルギ壱式、滑走開始!」
火薬の着火。機体の後方で筒が噴き上がり、推進力を得た機体が走り出す。
ゴォォォッ!!
風を切って走る機体が、徐々に速度を増し――
フッと、浮いた。
「飛んだ……!」
数秒後、鋼鉄の翼が朝日を受けて光る。機体は小田城の上空を旋回し、偵察部隊へと変貌した。
「映像確認! 広角鏡と光反射板、正常作動!」
由布が叫ぶ。
この時代に“写真”はない。だが理は、鏡と筆写係を連動させることで、**“上空からの地図生成”**を開始していた。
「地上からでは見えぬ“戦場の全貌”を、この空から得る。それが勝利への道筋を作る」
理の言葉に、見守っていた鉄甲兵たちがどよめく。
だが――
「見つけたぞ、小田氏治」
低い声が山の陰から響く。
現れたのは、もう一人の名将――上杉謙信。白き甲冑、鋭い眼光。
「天の試練とは貴様か。“神に近き科学”など、仏の敵」
「おいおい……またヤバい奴が来たな」
理は額を押さえた。謙信の軍はすでに陣を敷いており、兵の数は約一千。武田軍を凌ぐ規模だった。
「航空戦力は試作段階。いきなり大軍はマズいぞ……」
「御屋形様、撤退を?」
「いや、ここで引いたら未来はつかめない」
理は、ツルギ壱式に目をやった。
「空からの一撃を、今ここで完成させる。あの軍勢に“空爆”を初めて味わわせてやる!」
⸻
夜。ツルギ壱式の搭乗員が、火薬投下装置を搭載した。
「これが当たれば、騎馬も陣地も一撃で吹っ飛ぶ。でも命綱は……」
「ない。だが、お前の名は歴史に残る」
理がそう告げると、若き操縦士は拳を握った。
「俺は飛ぶ。空を変える!」
ツルギ壱式が、再び夜空に舞い上がった。
爆薬を抱き、謙信軍の中央陣へ向けて――
つづく!