表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/30

第6章「信玄と氏治、知略の戦」

甲斐の国――武田信玄の本陣。

敗走した山県昌景が、傷だらけのまま頭を垂れていた。


「……申し訳ありません。まさか馬が、弾かれるとは」


「よい」


信玄は茶を啜りながら、静かに言った。


「敗れたのは騎馬ではない。常識だ。小田氏治とやらは、それを破壊する術を持っていた。それだけだ」


「では、次は軍を……」


「否。我が直接、動こう」


その眼には、かつてない興味の色が浮かんでいた。


「科学という名の“妖術”……これを制す者が、次の天下を獲る」



数日後。小田領の峠に、信玄の偵察部隊が姿を現した。わずか二百。だがその裏には、信玄の周到な罠が隠されていた。


「変ですね。敵が妙に“見せてくる”」


報告を受けた理は、思わず唸った。


「わざと偵察を撃たせて、こちらの装備や布陣を探ってる。知略型の武将か……」


「どうします?」


「罠には罠を返す」


理は笑った。


「こっちから“偽情報”を見せてやる」



翌朝。


信玄の陣に戻った偵察兵が、熱心に報告を伝えていた。


「小田軍は、装甲兵を五十展開中。火薬ランチャーは後方。磁気装置は、どうやら高台に固定式で――」


「……ふむ。すでに情報戦だな」


信玄はあえてすべてを鵜呑みにせず、冷静に考えを巡らせた。


「常識に囚われてはならぬ。あれは“理”を操る化け物。ゆえに我もまた“理”を持って対抗する」


その日の夕刻、武田軍の一部が突然小田の補給路に襲いかかった。


「しまった、偵察じゃない! 本体が来てる!」


由布の報せに、理はすぐさま対応する。


「電撃対応部隊、即時展開! 火薬馬車を自爆用に転用しろ!」


「じ、自爆!?」


「いいからやれ! 信玄の狙いは、物量じゃなく“補給の破壊”だ!」


瞬時に装備を変更した鉄甲兵たちが、坂を駆け下りる。爆薬を積んだ無人馬車が後を追う。接近する敵の中央に突っ込むと――


ボンッ!!


大爆発。黒煙と炎が武田軍の先鋒を包み込む。


「く……敵は即応力まで備えているというのか……」


それでも信玄は退かない。


夜陰に乗じて、さらに奇襲部隊を回し込む。狙いはただ一つ――理の本陣。


「指揮官を落とせば、軍は瓦解する」


だがその刹那。


「――来ると思ったよ、信玄公」


火薬煙の中から、**新型スーツ「アーマー弐式」**を纏った理が姿を現した。


今度の装甲は軽量で俊敏。両腕に内蔵された電磁ブレードが、闇を裂く。


「科学とは応用の連続だ。お前の知略がいくら巧みでも、“速度”には勝てない」


ズバッ!


飛びかかってきた武田兵の鎧を、理のブレードが一瞬で切断する。


信玄の目が鋭く光る。


「……なるほど。これは、もはや“軍勢”ではない。個人が戦局を変える兵器だな」


「そういう時代なんだよ。ようこそ、未来へ」



戦は三日三晩に及び、ついに武田信玄は撤退を選んだ。


「負けではない。だが……時代が変わる前触れを見た」


そう語った彼の瞳には、悔しさではなく、高揚が宿っていた。


一方、小田本陣。


「信玄を退けた……本当に!」


「だが、今回はギリギリだった。次は、もっと大きな波が来る」


理は、設計図を机に広げながらつぶやいた。


「次は“空”を取る。空から、時代を見下ろしてやる」


小田氏治――いや、科学者・理の戦いは、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ