第5章「鉄の軍団VS騎馬武者」
朝霧の中、野に響く蹄の音。
甲斐の騎馬軍団――武田信玄の先鋒・山県昌景が率いる五百騎が、小田領に迫っていた。
「情報によれば、小田の兵は百ほど。いくら鉄を着ようが、馬には勝てぬ」
山県は嘲笑を浮かべていた。戦国最強の騎馬軍団、それが武田の誇り。足軽も槍も、馬で蹂躙してきた。
だがその日、彼は“未知”と遭遇する。
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小田領・野原。
理の前に並ぶのは、わずか二十人の鉄甲兵(アーマー一式改)。量産型とはいえ、各兵に爆薬ランチャー、跳躍補助装置、そして磁気吸着盾が装備されていた。
「前方に騎馬五百。速さも突破力も段違いです!」
由布が叫ぶ。
理は冷静に言った。
「実験にはちょうどいい。今日は“騎馬”への対抗兵器を試す」
彼が合図を送ると、鉄甲兵たちが陣形を組む。
「盾陣“Vフォーメーション”、展開!」
V字に展開された陣形の先頭には、磁気フィールド発生装置が設置されていた。理の最大の発明の一つ――磁石と渦電流を利用した、騎馬止めの“不可視の壁”である。
突撃してくる武田軍の騎馬たち。
ドォォォン!!!
その瞬間、最前列の馬が空中で跳ねた。
前脚が磁場に引っかかり、騎士ごと弾き飛ばされたのだ。
「な、何が起きた!?」
「馬が……馬が動かん!」
後続の騎馬も次々に混乱し、V字陣形の中心へと吸い込まれていく――そこに待っていたのは、鉄甲兵たちの反撃だった。
「火薬槍、発射!」
ズドンッ!! ズドンッ!!
火薬を詰めた鋼の槍が、馬と騎士をまとめて吹き飛ばす。肉が砕け、甲冑が裂ける。
「ば、馬鹿な……小田軍が、武田の騎馬を止めているだと!?」
山県が唖然とする中、理が前へ出た。
「科学には“再現性”がある。馬の突撃は一度で終わりだが、こっちは次に備えられる」
装甲の胸が開き、中から高圧電流発生装置が展開。
「お前たちは中世の終わりを、目の当たりにしている」
ボガァッ!!!
雷のような音と共に、突撃していた騎馬隊の中央が一瞬で崩壊。火薬、磁場、電流――戦国の常識など、ここには存在しなかった。
わずか三十分。武田の騎馬軍団は潰走した。
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夕方。
小田城にて、理は鉄甲兵の損耗を確認していた。
「死者ゼロ、負傷二。再整備は三日で可能」
「すご……いえ、理様……本当に、時代が変わるかもしれません」
由布がつぶやく。
理は遠くを見る。戦場の彼方、煙の向こう――そこにはまだ、名だたる武将たちがひしめいている。
「次は、武田信玄本人が来るかもしれない」
「勝てますか……?」
「分からない。でも、俺はやる。なぜなら――」
拳を握る。
「ここが“世界初の、科学で築く天下”になるからだ」
戦国の空気が変わった。
最弱と呼ばれた小田氏治は、科学の力で“最強”への階段を登り始めた。