エピローグ「鋼鉄の天下」
戦火が鎮まり、黒煙の空に青が戻った。
それでも《鋼ノ浮城》は空に浮かび続けている。あの日、無敵と恐れられた空中要塞は、今や“希望の象徴”として人々に仰がれる存在となった。
小田氏治――かつて「戦国最弱」と嘲られた一武将。
だがその男は、鉄と炎の力をもって信長を屈服させ、空を制し、そして徳川すら倒した。
気づけば、誰もが彼を「次の天下人」として語り始めていた。
しかし、氏治自身にはその気はなかった。
「天下が届くとこまで来たら人の気持ちって変わるんだな。
俺は、天下なんて欲しくねえ。ただ、この国がまた地獄に落ちないようにしたいだけだ」
そう口にしていた。だが、現実はそう甘くはなかった。
戦後、日本列島は混乱に包まれていた。領主を失った土地、飢えた民、崩れた経済。
誰かが、指針を示さなければ――再び戦乱に戻るのは時間の問題だった。
そんな中、旧織田勢、旧武田勢、さらには生き残った徳川軍の技術者たちまでが、氏治のもとに集った。
敵でさえも、彼の中に「未来」を見たのだ。
「貴殿こそが、混迷を収める者だ」
――それは、信長の言葉だった。
生還した織田信長は、氏治の隣に立つことを選んだ。もはや“征服者”ではなく、“再建者”として。
「力によって天下を取った者は数多い。だが、技術と意思でそれを成した者は、貴様だけだ」
かつての魔王と肩を並べ、氏治は各地に復興計画を送り出した。
破壊された都市には、再生のための鉄骨が組まれ、瓦礫の中から蒸気機関が唸りを上げる。
浮城の技術は“戦”ではなく、“再建”に用いられ、飛行装置を使った医療搬送や物資輸送が行われるようになった。
そして、あの《鋼ノ浮城》――
一時は解体も議論されたが、氏治はそれを否定した。
「これは、空を戦場にした時代の証であり、俺たちがそれを終わらせた象徴だ」
現在、《鋼ノ浮城》は「浮遊中枢都市」として、各勢力の代表者が集う場となっている。空の会議場《飛雲の間》では、戦ではなく対話が交わされるようになった。
かつての敵たち――
武田カゲトラは、現在は国境警備の長官として再任され、氏治の軍制改革を支えている。
徳川残党の中には、義体技術や人工知能制御を平和利用へ転用する科学顧問団も設立された。
さらに、戦災孤児の保護・教育のための空中学苑《青空学舎》も開校され、未来を担う世代が育ちつつある。
「お前、ほんとに……天下取っちまったんだな」
そう笑ったのは、かつて農民だった者たち。
「戦国最弱」と笑っていた者たちが、今やその背に希望を見ている。
氏治はその言葉に、ただ肩をすくめた。
「取ったんじゃねえ。押しつけられたんだよ、面倒くせぇ」
だが、その目は迷っていなかった。
鉄のように揺るがず、空のように高く――それは、“人の時代”を築く者の眼だった。
こうして、戦国という名の嵐は過ぎ去った。
空には今も、《鋼ノ浮城》がゆっくりと漂っている。
鉄と炎と意志によって築かれた、新たな天下――
それは、人が人として選び続ける未来のための、確かな礎となっていた。




