第3章「初陣、鉄の軍団」
それは、歴史の歯車が狂い始めた瞬間だった。
小田領の北――美濃の地。斎藤家の家臣・稲葉山城の城代が、村を襲い略奪を働いていた。兵力は百五十。小田氏治の手勢では本来、対抗できない数だ。
だがその日、小田軍は“新たな姿”で現れた。
「鉄甲部隊、展開!」
理が叫ぶと同時に、五人の鉄の兵士たちが前に出た。全員が、改良型スーツ「アーマー一式・試作型」を装備している。
鉄の胸当て、関節部を守る革装甲、簡易式火縄ランチャーを肩に装備。背には火薬圧縮式の“跳躍補助具”――まさに、時代を超えた歩兵たちだった。
「撃てッ!」
パンッ、パンパンッ!
乾いた音とともに、斎藤軍の前衛が吹き飛ぶ。
「な、なんじゃあれは!?」
「ま、魔物か!? 鉄の侍が火を吐いておる!」
混乱する敵兵。だが理は容赦しない。
「由布、点火信号!」
「了解ッ!」
火の手旗が振られ、鉄甲兵の背部装置が一斉に起動。
ボンッ! 轟音とともに、兵たちが跳ねるように前進し、敵陣に飛び込む。
一人が槍をへし折り、もう一人が斎藤軍の旗印を叩き折った。
「突撃だ! 追え! 追い立てろ!」
小田の軽兵たちが続き、混乱に乗じて敵を包囲する。理は最後尾から冷静に戦況を見つめながら、ふと口元をほころばせた。
(これだ。この形式なら量産が可能。小田家は“鉄の軍団”として、軍事国家になれる)
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その夜、戦果を受けて小田軍は凱旋した。兵たちは浮かれて酒を酌み交わし、「鉄甲様」と呼ばれる新兵たちは英雄扱いされた。
「俺たちが、勝ったんだよな……本当に……!」
「戦国最弱じゃなかったのかよ、小田様って!」
由布は鍛冶場の隅で、理の顔を見上げた。
「御屋形様……いや、理様。本気で、天下を獲るつもりですか?」
「もちろんだ」
理はためらいもなく言い切った。
「この時代にはない知識、技術、発想……それを使えば、軍事も内政も根本から変えられる。俺は、科学でこの世界を塗り替える」
「まるで、神様ですね」
「違う。俺はただの科学者だ。だが――」
目を細め、彼はつぶやいた。
「ただの科学者が、天下を取って何が悪い?」
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その頃、遠く京の都では、足利将軍家の使者が一通の報告を手にしていた。
「小田氏治、鉄の軍団を用いて斎藤軍を撃破……」
将軍家の老臣がうめいた。
「いよいよか。鬼が、戦国に目を覚ましたのだ」
そしてその報告は、毛利、武田、上杉――戦国の大名たちへと次々に伝わっていく。
「小田? そんな雑魚が何を……」
「いや、妙だ。“鉄の鬼”と呼ばれているらしいぞ」
「面白い。潰す前に、観察してみる価値はあるな」
そう、この戦は――まだ序章に過ぎなかった。