第27章「家康、動く」
「……カゲトラが敗れた、だと?」
静寂に包まれた地下司令室で、徳川家康は報告を受けていた。分厚い装甲の椅子に身を沈め、端然と佇む姿はまさに巨木のような重厚さを湛えていた。
「義将を破るとは、小田氏治……やはり侮れぬか」
家康の目が、眼前の空中投影モニターに映る《鋼ノ浮城》を見据える。
空の覇権を握るその浮遊要塞――かつて信長と氏治が同盟し完成させた、天空の城。
だが、家康は静かに微笑む。
「だが、まだ終わっておらぬ。『天の理』は、我に味方する」
その言葉と同時に、背後の鉄扉が静かに開き、一人の異形の男が現れた。
人とも機械ともつかぬその姿――人工神経を植え込まれた、徳川が密かに開発していた“精神融合型”操兵。
「起動を許すのか……家康公」
「うむ。貴様に与えるは、“天を殺す”ための役割だ。名を――《天破・ミカヅチ》」
異形の男は無言で膝をつくと、電流の走るような音とともに、その体から光が放たれた。全長七メートルを超える人型兵装が、地下の格納庫でゆっくりと立ち上がる。
家康は立ち上がり、ゆっくりと壇上に歩み出た。
「……戦国は終わらせねばならぬ。そのために、我はすべてを捨てた。感情も、血族も、そして――人間としての形さえも」
家康の首筋には、黒くうねるコードが走っていた。
彼もまた、精神拡張技術を取り入れた改造人間であり、国家の安寧のために自らを“兵器”と化した存在だった。
「小田氏治よ、貴様が空の王を名乗るならば……この地に、神の雷を降ろしてやる」
家康の号令とともに、地下都市《御神》の巨大な天井が開き、
《ミカヅチ》を搭載した空中砲艦《黒雷丸》が地響きを立てて上昇を始める。
同時刻、《鋼ノ浮城》では――
「……妙な反応です。北西方向、空間の歪みと高熱反応。何かが……上がってくる!」
管制士官の声が緊迫する中、氏治と信長が艦橋に並び立つ。
「来たか……家康の切り札が」
「ようやく、真打ちってわけかよ……!」
雲の切れ間から、漆黒の空母のような巨艦が姿を現した。
その艦首に搭載されるは、まるで雷神の槌のような巨大砲。そして艦の背に立つ影――異形の兵、ミカヅチ。
信長が笑った。
「この戦、面白くなってきたな……!」
氏治は右拳を握りしめ、呟いた。
「さあ、地獄の空中決戦を始めようじゃねえか」
――次章「黒雷、墜つ」へ続く。




