第24章「黒母艦、浮上」
夜明け前、東の水平線が赤く染まった瞬間だった。
《鋼ノ浮城》の観測台から、異常な振動が報告された。
「海面が……割れていく!」
通信兵の声に、氏治と信長が飛び出す。双眼鏡を通して確認したそれは、まさに“怪物”だった。
ゴゴゴゴゴ……ッ!
海面を押し上げ、巨大な影が姿を現す。
漆黒の外殻、鉄を組み合わせたような鋭利な船体、艦首には家康の家紋が煌々と輝く。
「出やがったか……《黒母艦》」
全長400メートルを超す鉄の塊が、海を裂きながら浮上していく。艦体の側面が展開し、無数の砲口と飛行兵器が顔を出した。船体の下部からは、ドック式の格納庫が展開され、義体兵たちが続々と発進していく。
信長が思わず呻いた。
「……化け物だな、これは」
「技術だけを剥ぎ取れば、俺たちもこうなる。これは、家康じゃねぇ。科学の亡霊だ」
氏治は静かに拳を握った。もはや言葉は不要だった。
「攻撃態勢に入るぞ。《鋼ノ浮城》、上昇開始!」
重厚なエンジンが唸りを上げ、空中城が高度を上げていく。鋼鉄の翼を広げた要塞が、ついに戦場の上空で火花を散らそうとしていた。
直後、敵艦から放たれた長距離砲が、大気を切り裂いて襲いかかってきた。
――ドゴォォォン!!
《鋼ノ浮城》の左舷が爆発。煙と炎が立ちのぼる。
「左舷第二バリア、損傷! 被弾しました!」
「冷却装置起動! ブースター全開で対空機動に移れ! 応戦準備!」
氏治は即座に《飛竜・改》へと搭乗し、編隊の先頭に立つ。
「《黒母艦》は動く要塞だが、機動力じゃこっちが上だ。急所は、あの艦橋上部……ブレインユニットを潰す!」
「了解!」
空中で激しく交差する《飛竜》部隊と敵の無人機。鉄と火の雨が降り注ぐ中、氏治は仲間たちと共に真紅の軌跡を描いて突き進む。
「家康……お前を止めるために、俺はこの時代に来たんだ!」
《鋼ノ浮城》と《黒母艦》――
空と海を制する二つの巨城が、今まさに激突する。




