第19章「空を裂く紅(くれない)」
「うおおおおおッ!」
井伊直政の紅き飛翔甲冑《焔》が、まるで怒りそのもののように宙を駆けた。甲冑の肩から伸びる安定翼は戦斧のように光り、左右のブースターからは紅蓮の炎が噴き出す。
「見せてもらおうか、徳川の飛翔技術ってやつをよ!」
氏治の《飛竜・改》が蛇のように身をくねらせ、接近してくる《焔》をかわす。機体の間を一瞬ですり抜ける風圧が、空を引き裂いた。
ガキィィン!
再び刃と刃が交わる。直政の武器は巨大な火炎斧。火薬式の着火機構が備わり、一撃ごとに爆発的な熱量を生み出していた。
「貴様の空など……我が忠義の前では塵にすぎんッ!」
「ならば試してみろ、忠義の重みで空を飛べるかどうかを!」
火炎斧が唸り、氏治のアームブレードが応える。だが――両者の力は拮抗していた。
《ズガァァン!》
空中で激しい衝突が起こり、互いの装甲が剥がれ飛ぶ。直政の右肩装甲が砕け、氏治のヘルメットにも亀裂が走る。
「くっ……!」
直政は胸部の火薬推進ユニットを過熱させ、最後の加速に出た。真紅の閃光となり、氏治の機体へと突撃する。
「うぉぉぉぉッ!」
「……なら、こっちも最後の切り札だッ!」
氏治は即座に機体の後部装甲を展開し、補助スラスターを全解放。圧縮空気と蒸気エネルギーの同時噴射により、一瞬で高度を上げて直政の突撃を回避する。
「……甘いッ!」
直政の斧が機体の脚部をかすめた。だが――その刹那。
《ゴオオオォォォン!!》
上昇した氏治の《飛竜・改》が回転しながら急降下し、上からの急襲をしかけた。まるで龍が獲物に食らいつくような一撃。
「空の本質を教えてやるよ。上から睨まれたら、下は逃げ場がねえ!」
《ガギィィィィィン!》
アームブレードが直政の火炎斧を弾き飛ばし、そのまま胸部装甲を貫いた。
「がはっ……!」
爆発音。煙。沈黙。
《焔》は火花を散らしながら、落ちていった。紅い軌跡を空に残し、浜松の地へ――。
「井伊直政、撃墜ッ!」
浮城から歓声が上がる中、氏治は深く息を吐いた。
「……見事だったぜ、あんたの忠義」
だが、戦は終わっていなかった。
浜松城の天守から、家康が姿を現す。
「小田氏治……見事だ。だが、それでも我が徳川は屈せぬぞ」
その手には、巨大な信号筒。そして放たれた赤光――
「総力戦の幕が上がる!」




