第15章「動き出す鋼の城」
夜明け前――氏治の陣営は、異様な静けさに包まれていた。
信長を退けた後、各地の勢力は震撼していた。
武田、上杉、毛利、そして北条……誰もが、“最弱”の武将が空を制し、魔王を地に叩き落としたという報に動揺していた。
その中心に座する小田氏治は、静かに次の布石を打ち始めていた。
「……これが、次の計画か」
信長の黒甲冑を修復していた技師・春日が、目を見開いた。
目の前の設計図には、空を舞う一つの“城”が描かれていた。
その名も――《鋼ノ浮城》。
「この浮城が完成すれば、どこでも即座に展開できる軍事拠点になる。補給も、指令も、戦術支援も……全部、空の上からだ」
氏治は言いながら、すでに試作段階のエンジンパーツに手をかけていた。
それは“飛竜”の心臓部を応用したものであり、機体という枠を超えた巨大構造物を浮かせるための原型だった。
「ただの空の城じゃない。これは、“国家そのもの”を空に浮かべるって計画だ」
「……氏治様、狂ってますよ。だが、嫌いじゃない」
春日がニヤリと笑った。
だが、全てが順調にいくわけではなかった。
そのころ――京のとある密室にて。
「信長敗れる、か……小田氏治。あの男は、放っておけば天に届く」
影の中に座していた一人の僧――本願寺顕如が呟いた。
彼の前には、数人の武将が膝をついている。
「比叡山が焼かれ、信長も堕ちた今、旧き世を守るのは我らしかおらぬ」
「ならば、どうなさるおつもりです?」
「“天”に弓を引こう。空を舞う鋼鉄の異端者に、地に生きる者の意地を見せるのだ」
顕如は手を叩いた。背後の壁が開き、そこには膨大な鉄材と火薬、そして“対飛行兵器”の設計図が広がっていた。
「比叡の遺志は死なず。我らは“地の砦”を築き、奴を撃ち落とす」
新たな戦いの火種が、密かに灯った――
その頃、氏治は飛竜に乗って信長の療養先を訪れていた。
傷を負った魔王は、かつての精悍さこそ失っていたが、その眼光は健在だった。
「お前の造る空の国……それが真にこの国を救うと思っているのか?」
「思ってる。いや、そう信じなきゃやってられねぇ。誰もが空を見上げて笑える国――それが、俺の“天下”だ」
「甘いぞ、氏治。だが……その甘さ、確かめさせてもらうとしよう。生きてな」
信長がかすかに笑う。
氏治は飛竜に乗り込み、最後に一言だけ残した。
「飛べよ、信長。あんたが地にいるなら、俺が空から引き上げてやる」
そして彼は、夜明けの空へと飛び立った。
戦国は、いまなお燃えていた。だが、その火の向こうに、新しい世界の輪郭が見え始めていた――




