第14章「炎の王亡きあと」
織田信長が空から落ち、黒き甲冑が地に崩れ落ちた時――戦場の空気が一変した。
「信長様が……!」
「総大将が、やられた……!」
織田軍の兵たちは動きを止め、誰もが己の武器を握る手に力が入らなくなる。
誰よりも畏れられ、誰よりも信じられていた“魔王”の敗北。それは、戦の結末を告げる鐘の音に等しかった。
氏治は飛竜から降り、燃え残る戦場に着地する。
彼のバトルスーツは傷だらけで、膝のサーボは悲鳴を上げていた。
「全軍、戦闘停止!」
無線越しにリーダーユニットから声が届く。すでに戦闘不能と判断された織田軍に対し、無用な追撃は行わない――それが氏治の命だった。
氏治は、静まり返る戦場をゆっくりと歩く。そして、崩れ落ちた信長の元へと足を運んだ。
黒い甲冑の下からは、血に染まった顔が覗いていた。
だがその目は、死んでいなかった。
「……あれで、殺したつもりだったのか。ぬるいぞ、小田氏治」
「……しぶとすぎんだろ、魔王さんよ」
氏治は膝をつき、信長と目を合わせる。
信長は苦しげに笑った。
「我が身は……既に動かぬ。しかし、この首を取ることなど、誰にでもできる話よ」
「誰にでも、な。だが俺は、そういうタイプじゃねえ」
氏治は、懐から小型の注射器を取り出す。
再生促進薬――本来は戦場で仲間を救うために開発したもの。
「未来ってのは、生きてるやつが見るもんだ」
「ふん……甘いな。だが、その甘さに懸けてみるのも、悪くないか」
氏治は信長の肩に薬を注射し、無線で後方に医療班を要請した。
「どうすんだ? あんたの軍勢、今は俺の指示がなきゃ動けねえぞ」
「それを、統べる気か?」
「当然だ」
氏治は信長の長銃を拾い、天へ掲げる。
「俺が、戦国を終わらせる!」
その声に呼応するように、空に光が差し込んだ。
雲が裂け、戦火の煙の隙間から、陽が差し込む。
兵士たちが顔を上げる。織田軍も、氏治の部隊も、皆が同じ空を見上げていた。
――戦いの時代が、終わろうとしていた。
やがて、信長は担架で運ばれ、氏治は陣営へと戻る。
幕僚たちが一斉に集まり、緊迫した声が飛び交う。
「氏治様、信長公をどう処遇するおつもりですか?」
「軍事的には完全勝利です。討ち取ることで他勢力への牽制になります」
だが、氏治は静かに首を振った。
「信長はまだ“使える”。それにな……」
彼は空を見上げる。そこにはもう、誰も飛んでいない。
「天下統一ってのは、殺し合いで勝ち残るだけじゃできねえ。生き残ったやつらを、どうまとめるかだ」
その言葉に、皆が黙った。
――小田氏治。戦国最弱と呼ばれた男は、今や戦国最強の戦術家となりつつあった。
その夜、戦の鎮まった野営地にて。
氏治は飛竜の格納庫で、ひとり設計図を広げていた。
「そろそろ……次の段階に進むか」
戦は終わっても、彼の戦いは終わらない。
科学の力で、この国をまとめるために。
そしてその目は、ついに――“城”を飛ばす構想に至っていた。




