第11章「飛竜、火線を越えて」
――火線、接近まであと五里。
《飛竜》の機内は、張り詰めた沈黙に包まれていた。
操縦席の氏治は、目の前の計器を見つめながら呟いた。
「信長の火縄銃隊は三段構え……第一列で牽制し、第二列で狙撃、第三列が一斉射で叩く。だが、空への対応は想定していないはずだ」
「距離1500、接敵します!」
副操縦の由布が声を上げる。その横で、勘助が帽子を深くかぶり直した。
「これが“天下人”との戦になるとはな……気合、入りますぜ、大将」
「信長を過小評価するなよ。あいつは火と鉄を制する化け物だ。だが、こちらには空がある」
《飛竜》は静かに高度を下げ、敵陣の上空へ忍び寄る。
眼下には整然と並ぶ三千の火縄銃兵、その背後には鉄甲騎馬と火薬車が列をなし、さらに陣頭には黒き甲冑の男がいた。
――織田信長。
「来たか、小田氏治……!」
信長は静かに手を挙げた。その合図と共に、火縄銃隊が一斉に銃口を空に向ける。
――パァン! パァンパァンパァン!
数千の火花が夜空を裂く。
だが、次の瞬間、《飛竜》の機体から展開された防御フィールドが弾丸を逸らした。
「無駄撃ちだ、信長! 空は俺たちの戦場だ!」
氏治の号令と同時に、機体下部のハッチが開いた。
「由布、いけ!」
「了解!」
由布はワイヤーに繋がれ、真っ逆さまに空から降下した。地面直前で着地装置が作動し、砂煙を巻き上げる。
「空から女が……!?」
信長軍が動揺する中、続いて勘助も飛び降りた。背には火薬爆弾“雷槌”。
「ほらよッ! 戦国の夜空に、花火をひとつ!」
勘助の投擲が炸裂し、信長軍の弾薬庫が火を吹いた。
――ドゴォォン!!
爆風が吹き上がり、陣の一角が崩れる。
だが、信長は一歩も退かず、ゆっくりと右手を掲げた。
「《雷鳴》、発進」
後方から現れたのは、巨大な三連機関火縄銃部隊。《雷鳴》――火薬と鉄の塊が唸りを上げて回転を始める。
「貴様の空など、俺の雷で焼き払ってくれる!」
轟音とともに火線が放たれ、複数の弾が《飛竜》の左翼をかすめた。
「くっ……! あの砲、ただの火縄銃じゃない……!」
機体が激しく揺れ、左翼の制御が一時的に失われる。
「このままじゃ落ちる!」
「まだだ!」
氏治は非常用の反重力ブースターを点火、機体を強引に持ち直す。低空を滑るように飛行しながら、火線のど真ん中に突っ込んだ。
「未来は奪われない! 火薬の時代に、空の理を刻み込め!!」
《飛竜》が咆哮し、敵陣中央へ突撃。信長軍の《雷鳴》部隊を破壊しながら、火と煙の中を貫いた。
――ドガァァァン!!
火柱が夜空を焦がし、爆音が戦場全体を揺らす。
信長はその光景を、笑みを浮かべて見つめていた。
「見せてみろ、小田氏治。お前が“弱き者”だった時代を、いかに覆すのかを――」
戦国の空が、いま、変わろうとしていた。




