第10章「鉄火と雷鳴の男」
「――面白くなってきたな、小田氏治」
黄金の障子を背に、信長は黒塗りの鉄火盆を回しながら笑っていた。
小田氏治が関東で上杉謙信を撃退し、新型バトルスーツ《白鳳》と空挺戦術によって大勝利を収めたとの報が届いたのだ。
「同盟を結んだ男が、あれほどの技術と兵力を隠していたとは」
傍らの明智光秀が、憂いの声で答える。
「むしろ、我らの目の前で“成長して”しまったと言うべきでしょう。理――あの男の名は、情報網のなかで明らかに“異物”です。思考、発想、全てが常軌を逸している」
信長は杯を傾けたあと、静かに口を開いた。
「理。あれはただの科学者じゃない。世界を作り変えようとしている“改革者”だ」
「では、なぜあのとき同盟を?」
「利用するためだ。だがな……」
信長は立ち上がり、障子を開け放った。眼下には、新たに配備された三千挺の火縄銃を抱える鉄火隊。鍛冶職人たちが連日鉄を叩き、三連式機関火縄銃《雷鳴》を鍛造している光景が広がっていた。
「理が“時代の先を行く者”ならば、俺は“時代そのもの”だ。未来を開く鍵を、奴には渡さぬ」
「つまり……同盟破棄を?」
「理を討て。奴が武田を喰った時点で、もう小田は“勢力”として脅威だ。いずれ、俺の覇業の障壁となる」
「……承知」
明智が頭を下げた時、すでに信長は命を下していた。
火と鉄による、徹底的な排除作戦が――始まろうとしていた。
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小田領・筑波山の山麓。研究棟に響く警報音。
「織田軍、三河を越え甲斐の旧道から進軍中! 火縄銃装備の大部隊と、騎馬鉄甲兵多数!」
由布の声が緊張に震える。
「信長、来やがったか……」
理はモニターに目を落とす。双方向情報板に映し出された敵の編成は、圧倒的だった。三連火縄銃《雷鳴》、新型騎馬甲冑部隊、さらには自律指揮班と情報遮断兵器の影。
「“科学”に対抗するための“戦術科学”……信長、ついに踏み込んできたな」
勘助が苦い顔をする。
「同盟だったはずじゃ……」
「違う。あれは最初から“共闘”に過ぎなかった。信長は俺を仲間だと思ってなどいない。“利用して、殺す”。それがあの男のやり方だ」
理の言葉に、由布と勘助が沈黙する。
だが理は、笑っていた。
「俺も同じさ。信長の力が必要だっただけ。目的を果たした今――お互い、“やる理由”は十分だ」
そして理は、後方の格納庫に足を向ける。
「“飛竜”を出す。これが俺たちの切り札だ」
⸻
山奥の岩盤が割れ、巨大な影が姿を現した。
全長十五メートルの可変型空中戦闘ユニット《飛竜》。
両翼には火薬式反重力エンジン、下部に二脚式着陸機構、内部には3名の同乗兵を搭載可能。
「人は空を飛ぶべきではない? いや、そう言ったのは“今までの人類”だ。俺たちは違う」
理はコックピットに乗り込む。
「織田信長、雷鳴の男よ。お前が“火と鉄の未来”を信じるなら――」
《飛竜》が咆哮とともに空へ舞い上がる。
「こっちは、“理と知の未来”でぶつけてやる!!」
戦国の空が再び燃え上がろうとしていた。




