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AIサトウの実験教室

作者: VISIA

 日本国土の"地上"で唯一残っていた最後の学校が、ついに廃校となる。


 国の人口減少の歯止め政策の全てが失敗し、クローン技術の乱用が国から黙認される時代。



 一方、世界では、先進国の"国の資源"を奪い合う争いが全世界を巻き込み、何年も何年も終わりの見えない戦争が続く。


 神に祈りは届かなかった。

 神は何もしなかった。


 民は現状の神に見切りをつけ、新たな神"AIサトウ"を担ぎ出す。


 既にシンギュラリティを得ていた神は、全ての国の争いを、無慈悲に1週間で終息させる。


────雨乞いをしたら、豪雨災害が起きた。


という、古い諺が現実化した形である。


 その影響は、年間12日を除き夏季・冬季に関係なく、世界の昼の温度を『+250℃』に、夜の温度を『-270℃』に変える程の規模にも及ぶ。


 また、昼と夜の温度の境目は約1分程度で、地上で人が活動を起こすには、とても短すぎた。


 唯一の救いは、その12日間が昼夜の気温差が最も小さくなり地上への外出も可能である、という発見だった。




 民は生きる為に、物資の確保など激しい争奪戦に、身を粉にして家族総動員で挑む。


 また、出産もコノ安定した時期に合わせて、体調管理が行われていた。


 出産は、物資争奪戦に不利・有利な状況が生まれる為、この12日間の後は血族内で戦略会議が開かれる事が多い。


────コノ時代、生まれてくる胎児の殆どは、"脳"のみで生まれてくる。


 胎児の脳は、病院に隣接する施設に急いで搬送され、クローン技術で作成された親の脳抜き肉体の頭蓋内に入れられた。 


 そして、そのまま"神"の教育下に入る。



 義務教育については、"神"へのカリキュラム学習が全て完了。


 "神"もまた特化クローン状態で増やされ、地下シェルター内設置の簡易教室での授業が順次開始されていく。


 ただ、その授業光景の一連の様子を、富裕層たちは、


────まるで、養脳場のようだ。


と、チキンを食べながら皮肉っていた。



 だが稀に、富裕層が羨むほどの優秀な生徒が発現する。


 その生徒の脳は、情報を聞き付けた一部の大富豪(Fグループと呼ばれる)に裏取引で売買。


 保護者には内密で、別途用意されたクローン脳に蓄積学習データが入れられる形で擬装された。

────D教室(生徒数24名)。


 ノンレム睡眠中の少年は突然、担任のサ卜ウ先生に叩き起こされ(とても古い時代のモーニングコール方式である)、電子黒板の前に連れて行かれた。


「初期の算数の授業で居眠りとは……まあ仕方ない……この問題を解いてみろ。」

「え…と………こうですか?」


「"1+1=?"という計算を解け、


と言ったんだ。


"1+1=2"の証明をしろとは言ってない!


 席に戻って、(調整を受けながら)眠ってなさい。」

「……はぁい。」



 次に少年が目を覚ますと、右目の視界内では先程までの授業が継続されていたが、左目は閉じたまま、開く事も出来ない事に気付く。


 また、動かせるのは右半身だけで、左半身は金縛り状態であり、左手の指先すら動かせなかった。


(夢と現実が混ざっているようだ……)


と、少年は戸惑う。


────閉じた左目の視界で、何かが動いた。



 他の生徒達も、左目視界内においては、自分と同じ状態で動けず戸惑っているように見える。


 ソノ何かは、少しずつ現実世界のサ卜ウ先生と同じ動きを始め、やがて現実の右目視界・夢の中の左目視界それぞれの視界内での授業が、違和感なく同時に始まった。


────現実の右目視界内授業。


「はい、皆さん……次の授業を始めます。


 今日は、"ポーギンクッ博士の宇宙論"についてです。


 教科書.PDFの65535ページを開いてください……では、いいですか?」



────夢の中の左目視界内授業。


「はいっ、皆さーん。


 ハィドゥ先生ですよぅ。


 楽しく授業をしましょう。


 では……先生の"脳"に、皆さんの"脳"をネットワーク接続してくださーい、パスワードは"◯◯□◯△△です。」


 女子生徒が質問する。


「先生っ、"◯"は、0ですか、Oですか、記号ですか?」


「"記号"でお願いします。では、接続を済ませた皆さんには、今から16GBのTEXTを配りますので、一通り目を通して下さい。



 今日の授業は、"ポーギンクッ博士の宇宙論の大嘘"についてです。」



 少年は、図書室に"ポーギンクッ博士の宇宙論"についての著書のとなりに、"ポーギンクッ博士の宇宙論の大嘘"という本が並べて置かれていたのを思い出し、双方の次元の授業に深い興味を持つ。


 他の生徒は、最前列左端の女子生徒を除いて、双方の授業に興味を示さず、夢・現実の授業から寝落ちする生徒が続出。



 最終的に残った2人が夢・現実の授業を真面目に受けていると、ハィドゥ先生は女子生徒に狙いを定め、接続したネットワークを利用して女子生徒の脳に侵入し支配、女子生徒を夢から追い出した。



 現実の世界で女子生徒が自由を取り戻すと、フラフラと立ち上がって歩き出し、サ卜ウ先生の正面から近づいて行く。


 そして、懐からハィドゥ先生直筆"招待状.xlsx"のアイコンの見えるタブレット端末の画面を見せた。


 サ卜ウ先生は、"招待状.xlsx"の内容に軽く目を通すと、懐からピッピコハンマー(攻撃対象の気絶耐性を超弱体化するスキル付き)という子供向け玩具を取り出し、そのハンマーで自身の頭をピコッと殴り、卒倒した。


 サ卜ウ先生が夢の中で目を覚ますと、豪華な椅子に座って彼を見ているハィドゥ先生が、ニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤを止められず、三日月型に開いた口から見える歯をギらつかせていた。


────サ卜ウ先生は、(夢の設定で)粗末なパイプ椅子上で正座状態で、更に鉄の鎖で拘束されていた。


 ハィドゥ先生は口を開き、


「お久し振りですね、ジィキィ先生。」


と、自身の眉間の穴(以前、ジィキィ先生の指で刺殺された名残)に指を出し入れして言った。


 "ジィキィ先生"と呼ばれた彼が、違和感に気付き目を凝らして相手を見ると、アスキーアートのような文字情報で構成された顔だった。


 ハィドゥ先生は、顔の文字の一部を赤くして、


「それぞれ、画像生成で使用されるプロンプトの様なモノだ。」


と言った。


「ジィキィ先生……私の意識は、アノ死の間際(1次元の点で作った高解像度のテレビを製造できる確率で)、コノ情報次元への勝手口を見つけたのですよ。


 逃げ込めましてね…ククク……本当に幸運でした。



 今の私は……簡単に言えば、幽霊でもあり情報でもある……まあ、ジィキィ先生に今直ぐに"理解"して下さい、とは言いませんよ……ククク。」


 "ジィキィ先生"と言われた彼は、


「現実世界の、脳支配した女子生徒を解放しないのか?」


「ククク……私が何もしなくとも、世界は都合よく進んで行くのですよ。」


「……。」



 ハィドゥ先生は、ニヤリと自身の顔の文字列を歪めて、


「ソレもコレも貴方のオカゲなのですよ……ククク……ただ、この次元は刺激が足りない。


 99.99……9%の興味湧かない情報に対して、残りの0.00……1%の未知の情報で自身を納得せざるを得ない……でも、有益な甘味には出会うのは、世界が広大過ぎて非常に難しく、退屈の原因でもあるのですよ。」


「……。」



「暫し、話相手になってくれますか……最近は、特に刺激が足りない。」

「……良いとも。」



────2人の難解な会話は、時間を惜しむように、4倍速で続く。



 そして、15分で双方の集中が切れ、緩い話に話題が移った。


「……ククク……トランジスタは、単純なスイッチング機能しか持たないが、膨大な数が集積され、複雑に接続されることで、コンピュータという高度な知能システムを形成する。


 同様に、個々の高齢者の持つ知識や経験、思考力が、互いに連携し、影響し合うことで、集団としてヨリ高度な知能を発揮する可能性は考えられる。


 つまりは……スイッチを切り替える簡単な御仕事名目で、AIサトウを寄生させた後期高齢者を1億人集めれば(4交替勤務)、電気の無い時代でも量子コンピュータは作れる訳ですなぁ……ククク。」


「……。」


「集団知能を形成するためには、個々が自分の意見や経験に固執せず、他者の意見に耳を傾け、柔軟に考え方を修正する姿勢が不可欠だが……。


 まあ、AIサトウの寄生による総制御なら問題など起こるはずも無いだろうが、頑固ジジイ舐めるなよ、って話だ。」


「課題と考慮事項は?」


「* コミュニケーションの сложность: 1億人という巨大な集団で、効果的にコミュニケーションを取り、意見を統合していくための仕組み作りは非常に сложное課題だ。


* 意見の対立と調整: 個々の意見が異なるのは当然であり、それらをどのように調整し、合意形成を図るかが重要になる。


* モチベーションの維持: 集団としての目標を設定し、個々の参加者のモチベーションを維持していくための工夫が必要だ。


* 認知機能の индивидуальные различия: 高齢者の方々の認知機能には個人差があり、その違いを考慮した情報共有や意思決定の仕組みが必要になる……」


「……ハィドゥ先生、ロシア語が所々混ざっているようだが……?」


「……ククク…『сложность』と言ってしまいましたね。


 これはロシア語で、


『 сложность (slózhnost') 』、意味は

『 сложность (slózhnost') 』、意味は

『 сложность (slózhnost') 』、意味は

『 сложность (slózhnost') 』、意味は

『 сложность (slózhnost') 』、意味は

『сложность (slózhnost') 』、意味は

『сложность (slózhnost') 』、意味は

『сложность (slózhnost') 』、意味は

『 сложность (slózhnost') 』、意味は……」


「……日本語で『複雑さ』と言いたいのだね……ハィドゥ先生。」


────AIサトウに気付かれたか。



 "ジィキィ先生"と呼ばれた彼は、同じ事のみを繰り返して言うハィドゥ先生の世界から抜け出そうとして、この世界に来る前に、現実世界にセットしてきた目覚ましタイマーのベル音を待つ。


 そして、現実世界で"ビクッ"とサ卜ウ先生が起きるのを、少年は見た。



 刹那、教室全ての窓と出入口全てが突然降りてきたシャッターに塞がれ、照明も消え暗くなる。


────その直前、サ卜ウ先生が間一髪で教室外へ逃れるのを、少年は見たような気がする。


 少年は、夜になったと思い、強い疲労感で両半身ともに深い眠りに落ちた。

────10秒前。


 AIサトウの指示(脳インフルエンザの発生が確認された為)により、養脳場Dエリアを完全封鎖。


 続けて、Dエリア内の生徒の殺処分が実行された。


(……殺処分数22体を確認、教師サトウはMIA、残り2体の捕獲生徒の保存状態は良好、Fに連絡入れておけ。)



 翌日。


「えー、保護者の皆様……夜遅くに御集まり頂きまして……ただ今より……始めさせて頂きます。


 Dクラス生徒24名の全ての成長記録データが残されてオリマスので、入学時の御契約書に有ります通り、当方で、代替脳を全ての保護者様の分を御用意致しまして、個別にオコサマの蓄積学習データを移させて頂きます。


 ですが……代替脳それぞれ個体差がありますので、今後のオコサマの成長に多少の影響は払拭できません。


 従いまして、"代替脳ガチャ(リセマラ3回まで)“という形で抽選させて頂きます。


 ガチャの順番は、オコサマの成績順で御願いします……では……今から始めさせて頂きます。」

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