四季の亡霊
2学期が始まって。俺のコンタクトがバグった。
色だけが#ced1d3に固定され、初期化も上書きもできない。
他の機能は正常だしまあいいかとバイトに行くと。
「おや。はくろ君、目の色変えた?」
速攻で店長に気付かれた。
「いや、なんか色がバグっちゃって」
「そうなんだ。なんか鶺鴒みたいで良い色――ああ。だからか」
なんか一人で納得してコーヒー豆の瓶を手に取った。
「え。原因分かったんですか?」
「この国にはね、1年を24、または72に分割した名称があるんだ」
「?」
突然何の話かと思ったけど、店長のことだ。地球歴制定以前の話だろう。
「昔の人、そういうの好きですよね」
「移ろう季節と歴史を愛する人達だからね。それで、今の時期をそれぞれ白露、鶺鴒鳴と言うんだ」
「白露……」
俺の名前だ。店長は頷くように目を伏せ、ガリガリと豆を挽く。
人工香料じゃない、本物の香りが漂う。
「つまり、君の名前に共鳴した何かが引き起こしたバグ――そうだな。僕達が忘れかけてる景色を思い出して欲しいっていう、四季の亡霊の仕業」
「亡霊……」
当たり前のように出た非科学的な単語を呟くと、店長は楽しそうに笑った。
「どう。非科学的で良いでしょう?」
数日経ったら直った。