ReverseGVブルネット
人類は、第三文明の遺跡からリバースグラビティを発見した。まだ一部しか解明されていないが、反物質理論、輪転力学エネルギー、質量原子。古代人の叡智は、人類を容易に地球と宇宙を移動できる技術を与えた。
物質の量子エネルギーをプラス、マイナスと蓄積し、交互に作用するリバースグラビティ理論。限りなき無限に使えるエネルギー、
重力を克服した人類は、神にも近くなった…
ReverseGVブルネット
「エーシー、エーシー」
「こちら、サウスブルー。あと30秒で有視界飛行に移動する」
「ジッ、こちらセントラルガーター、了解」
「くれぐれも、天使たちには気をつけてくれよ。彼らを怒らせると大変だからな」
「解っているよ、マンシー。彼らのおかげで、地球は守られているんだから」
「そうだ、この星は創成期の頃から彼らの力なくしては、ここまでの発展はすすまなかった」
「神は、素晴らしいな、彼らに感謝しよう」
「ハレルヤ、天使」
「ハレルヤ、神」
「ジッ、OK、サウスブルー。無事の帰還を望む」
ゴゴゴゴゴーー
青い閃光を放ちながら、ブルネットは大気圏に突入した。
摩擦による赤と、RGリバースグラビティによる青が交互に輝き、決して混ざることのない二つの光が螺旋に絡み合う。
それらが幾つかのイカズチを作り出し、はたかも流星の監獄に囚われた囚人のように、地球人の宿命を現していた。
「OK、リーア。RGMのバッテリーMAX完了」
AIブルが伝える。
ガッチャ、
ゆっくりとフェイスガードを開けるブルネット。
リーアは、ヘルメットのバイザーを上げた。青みががった緑色の瞳が見える。
「まだ青いじゃないか」
目の前には、限りなく褐色に近い地球が見えた。
「こんな事いつまでやるんだよ、くだらない…」
宇宙を見上げるリーア。
「この滑り落ちるような感覚だけが、不快だ…」
カッシュ、
リアの大気圏用ウイングが開いた。バランスをとる水平尾翼。
「高度一万メートルまであと少しです」
AIブルの声。
人類は、第三文明の遺跡からリバースグラビティを発見した。まだ一部しか解明されていないが、反物質理論、輪転力学エネルギー、質量原子。古代人の叡智は、人類を容易に地球と宇宙を移動できる技術を与えた。
物質の量子エネルギーをプラス、マイナスと蓄積し、交互に作用するリバースグラビティ理論。限りなき無限に使えるエネルギー。
重力を克服した人類は、神にも近くなった…
パパパパパパ、
ランプがオールグリーンになる。
「これで、一安心なはずだが…」
反転した画面が、リーアの表情を変えた。
ピピピピッ、ピピピピッ、
警告アラームが鳴る。
「所属不明のブルネットです、ロックされました」
AIブルの声。
「チッ、またかよ」
「ブル、磁気シールド全開、機体をシャトルの前面に移動する」
「OK」
俺たちガーターは、コイツらのおかげで休む暇もない。月からのレアメタル輸送は、海賊退治より困難だ。手を焼いた軍は、一般人アーミー(ガーター)を組織した。
鳴らす者を集めた愚連隊。隊長だけが、軍からの執行だ。
「いつも、この高度で襲って来るよな、アイツら」
国籍不明、所属不明、謎の武力組織ファム。この名称でさえ、お偉いさんが付けた名前で、意味はない。WHY machineの略らしいが単純だ。
「ブル、旋回、そして下降より惨烈弾発射」
「しかし、リーア」
「成層圏での炸裂弾は条約違反ですが?また、隊長に叱られますよ」
「うるせえょ、機械野郎」
「さっさと従えよ!」
「了解」
不満気のAIブルの声。
カチ、
ブルネットの背上部がゆっくりと開く。
「上下角度良好、右コンマ3度修正」
「発射」
「発射します」
バシュッ、バババババーーー
発射された惨烈弾が、尾を引きながら右舷下方に飛び進む。
ドカッ、ドカッ、
ドカッッッッーー
にぶい煙が上がった。
敵機が不意を突かれて揺らぐのが見える。
「思惑通り、」
「地上へのデブリなど、レアメタルに比べたら安いものだぜ」
笑みが溢れるリーア。
「高度一万メートル到達です」
風景が宇宙色から地球色に変わった、
「よし、正面に回りレーザーインパルス挿射」
「OK」
カチッ、
ブルネット前頭部から、鋭い突起が出て来る。
シュイーーーン、
集まる光、白い閃光が走った。
パパパパパーーー
「突き刺されーー」
白き細き針が数本、敵機に刺ささる。
ボッ、ゴゴゴッッッ
火を吹く敵のブルネット、操舵を失い真っ逆さまに降下する。
あれが自然の法則だ、
万有引力こそが、本来人間に与えられた宿命だ。我々は、進化してはいけない。
神に近づき過ぎては、
いけない…
カランカラン、
ジャーーー
シャワー室で、泡を落としているリーア。
鏡で顔を眺める。
「また、青くなって来たな」
RGモーターを使うたびに、瞳が青くなる。ベテランブルネットパイロットは、白色に近い色になっている者も多い。
「いつまで、この仕事を続けられるかな?」
再び、鏡を見つめる。
ガリ、
不安を断ち切るようにヒゲを剃るリーア……
街に出た。
緑の公園、噴水、見慣れた風景だ。
ただ、
このドームシティ以外は灼熱地獄だ。
今さらエネルギー省の方針に従って脱炭素を推進しても、二十世紀の環境にもどるには一千年以上はかかる。貧乏な国は食糧も不足している。
続く紛争⋯
無性に腹が立つ!
俺たちは先人の負の遺産を受け継ぎ、消えそうな未来に存えている。未来を考えただけでも、絶望して死にたくなる。
それでも祈る老人は、ボケているのか頭が狂っているのか?
毎晩うなされる悪夢に天使は現れない、神に祈るなど皆無に近い。
まぁ、それでもいいか、
絶望の世界には、余興も必要だ。
ビーッ、ビーッ、
また奴らが来た。
アイツらも、頭が狂っている……
「コースゲート、オープン」
発射台には、ソリッドリバイターが移動していた。ブルネットは装着ずみだ。
いくら自由が効くと言っても、リバースグラビティは下降にだけ寛容だ。
上昇には操舵が鈍い。やはりこれは、重力の影響としか考えられない。まだ、リバースグラビティは不明な点が多い。
したがって、交戦での上昇には炭素エンジンを使う。過去の産物に頼る人類は、未だ葛藤に苦しむのだよ。
ゴゴゴゴゴーーー
炎を上げ、上昇するソリッドリバイター。その後部に積み込まれたタンクに、俺たちガーターブルネットが待機する。
コクピットには、一癖も二癖もある強者たちが並んでいる。
ブルネットを、口の悪いヤツラは棺箱と呼ぶ。
過去、戦場で兵士たちが掘っていた塹壕よりはましだ。コクピットには冷暖房はあるし、座り心地も良い。決して快適ではないが、長時間戦える。
ただ、
弾が当たれば棺箱だがな…
ピピピピッ、
さて、出番だ。
ガシュッ、
大きく開いた後部ハッチから、順次飛び出すブルネット。
この滑り落ちるような感覚だけが、不快に感じる。
「各機、陽子プラズマはMAXだ」
「もうすぐ通常通信は出来なくなるぞ」
隊長が叫ぶ。
「シュミレーション通りだ、AIの戦術に従えよ」
「了解!」
「了解」
「了解ー」
「OK、ベイベー」
「ちゃんと返事しろよリーア」
「はい、はい」
俺たちは、フォーメーションΔで進んだ。
敵機は、左舷の雲から現れたファムのブルネット5機だ。不気味な宇宙迷彩の黒い機体に、青いRGMの光が見える。
「いったい、どこの国なんだよ」
必要に襲って来る奴らに、セントラルの勲章たちは苛立ちが止まらない。
バババーーー
突然の発砲。
「何だよ、ここで撃つのかよ」
今日のヤツラは血気が盛んだ。いつもの冷静さはなく、やたらめったらに物量攻撃してきた。
バシュッ、
素早く機体を逸らし、弾を避けるブルネットたち。
「遅れるなよ、マッキー」
チッーーーン、
新人のマッキーが、危うく被弾するところだった。
「世話がやけるぜ、御坊ちゃんはよー」
Δフォーメーションで敵機を囲み、上下の高低を使い火器の少ない腹部を狙う作戦だ。AIのシュミレーション通り。
ピカッ、光通信。
隊長からのΩフォーメーション変更の合図だ。
「そんなの守ってられるかい!」
光る太陽、
俺は、敵機の上方に駆け上がった。
ゴゴゴゴゴーー
「遅いーーー」
この瞬間が、何十秒にも感じる。
「もらった、」
リーアのブルネットは、RGMのリミットを解除した。
青く光るRGM!
「直上ミサイルだぜ」
バババババーーー
ありったけの惨烈弾を打撃ち込むリーアのブルネット。
ピピーーー、
慌てた敵機のレーザーが、陽子プラズマに弾かれる。
「計算通りだ、」
バクン、ンンンンンンンンン
黒い煙を上げながら、ファムのブルネットが大破する。
「また命令違反か、リーア」
隊長が、ブルネットの中から冷静に見つめている。
消えていく敵機。その煙線が空を刻む。
その時、
後光が差した、雲の隙間から天使が現れた。
天使はファムのブルネットを優しく包み込み、雲の彼方に消えて行く。
「またかよ」
「やはり、ファムと天使は何か関係があるな」
隊長は、メモリーに一部始終を記録している。
その光景を見つめるリーアのブルネット。
「いい加減にしろよ、アイツら悪者だぞ。天使は誰でも救うのかよ」
ぼやくリーアに、機体を揺らし帰還の合図をするマッキー。
「不毛な戦いだな…」
「アーメン、」
教会で、ひざまつくリーア。
数人の信者が、ミサに集っていた。
「何で俺が、こんな事しなくちゃならないんだよ〜」
イライラが止まらないリーア。
「まー、たまにはいいじゃないか」
今日は、エルム隊長が礼拝に誘ったのだ。
「心が洗われるだろう、野蛮人」
「そのニックネームは辞めて下さいよ、隊長ーー」
「気に入らないのか?」
「嫌いですよーー何か原始の人間みたいじゃないですかー」
「俺は、好きだけどな…」
公園のベンチ、
カチッ、コーヒーを手渡すエルム隊長。
「美味い!」
「お前は、コーヒーだけはご機嫌で飲むんだな」
「そうですか?」
「こんな合成コーヒーでも美味いのか」
「美味いっすよ」
「隊長は、天然コーヒーを飲んだことあるんですか?」
目を丸くするリーア。
「あるよ、あれは美味かったな〜」
「うらやましいー」
地団駄を踏むリーア。
「後で、やるよ」
「ええっ、」
「俺の部屋に、本部から貰った天然コーヒーがこっそり隠してあるのさ」
「ゴチになります!」
「やっぱり、お前は単純だな…」
ガガガガガーーーーーー
高度一万五千メートル。
爆風と光線が飛び交う雲海。
三度の交戦に、ガーターのブルネットは、ほとんどが大破していた。
「陽子プラズマがMAXです、隊長」
「マグネットストームも出現しました」
「仕方がない、格闘戦用意」
「OK 」
カッチャ、
ブルネットの側部からグローブが出て来た。
グローブと言っても剛質な金属製の腕だ。
陽子プラズマがMAX状態では、電磁武器は使用不可だ。物理的な武器か、肉弾戦しか方法がない。磁気嵐も伴ったこの場所では、原始的な戦いしかできないのだ。
ガッチャン、
敵のブルネットもグローブを出した。
「よし、久しぶり格闘戦だ」
ガシューン、
早速のカウンターパンチ。
キュルルルル⋯⋯
俺のブルネットは、滑るように弾かれた。
駒が弾けるように、リーアのブルネットは回転が止まらない。
「なんの」
バシューン、
飛び出すグローブが、意表を突く。
敵機のボディーにブロー!
「こんな事もできるんだよ」
グローブには、ワイヤーがつながっており再び舞い戻ってくる。
「やったね」
煙を出し、離脱する敵機。
「おおっ、逃げて行くぞ」
喜ぶガーターブルネットたち。
突如、雲間から現れる黒い影。
「何だ?」
ガガガガガ、ガン
その瞬間、アックス弾が降って来た。
雨のように、降り注ぐアックス弾。
敵の別動隊が上部から襲ってきたのだ。
マッキーのブルネットの前部が砕ける。
「ガーターが剥がれたーー」
コクピットのマッキーの顔が見えた。メットに血が浮き上がる。
「マッキー」
ガシュン、
リーアのブルネットにも、敵機のグローブがヒットした。
「このーー」
ガガガン、ガンガン
ランプが切れる。RG Mの回路が破壊されたのだ、
落ちる、
俺は真っ逆さまに堕ちていく、
マッキーのブルネットが、先に堕ちていく。
操舵が効かない、
RGMを失ったブルネットは重力に引かれて、地球に戻って行く。
「俺も地球の一部になるのか⋯」
「死ぬ間際には、AIが慰めの子守唄を歌うらしいが、俺にも聞こえるかな?」
AIブルは、何も言わない。
「兵士たちの噂は、嘘だったのかよ」
目をつぶる。いつの間にか、俺は手を組み合わせていた。
加速する機体が心を脅かす。
「この滑り落ちるような感覚だけが、不快だ…」
ピカッ、
その時、後光が差した。雲の隙間から天使が現れた。
天使は、ゆっくりとリーアのブルネットに近づき、優しく抱き抱える。
「またかよ」
「俺たちも助けてくれるのか、」
隊長が、メモリーに一部始終を記録している。
「いい加減にしろよ、俺は野蛮人だぞ。天使は誰でも救うのかよ」
ぼやくリーア。
微笑む天使。
「俺も、天国へ連れて行かれるのか。あれ、羽がない?」
彼らは、ただの機械だった。
「ただの機械が、地球を守っているのか」
「俺たちの地球を守っているのか、」
暖かい天使の手に抱えられ、俺は夢を見る。
「不毛だな…」