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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第四章
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97.不気味な路地裏

 周りに不審がられてはいけない。

 早まる気持ちを抑え、平常を装い城内を歩く。

 今日進まぬ足ばかりだったが、やっと軽くなった。

 早くカルディアの正体を知りたいと、一日中その思いだけに囚われていた。腕輪があればと何度思ったことか、これでやっとはっきりする。

 

 早くリナリアに会いたい。

 

 勿論腕輪を返してもらいたいのもあるが、彼女が今どうしているかも気がかりだ。

 両脇に見張りの兵が立つ扉を開け、外に出る。

 生暖かな風が頬を撫でた。

 揺れる前髪の隙間から空を見ると、薄明の空に星が薄く瞬いていた。

 鼻からゆっくり息を吐く。

 なんだろう、胸がぞわぞわとする。

 不穏を纏った嫌な空気が、この町を覆っている気がする。

 彼女への思いが、更に加速する。

 早く合流しよう。

 自然と足早になる。

 



 町に出ると先ほどの憂いは、杞憂だったと思ってしまうような賑わい。

 いつもと変わらないが、警備隊の姿が目立つ。

 昨日から起きている騒ぎのせいなのだろうが、気を張っているのは彼らだけで住人たちは然程気に留めている様子はない。

 現状を知る俺にとっては呑気と思えてしまうが、自分の身に起こらなければ関係ないと思うのが人なのだ。

 このまま人知れず悪魔を倒すことが一番理想なかたちになるが、世界を蹂躙してきた相手にそれは流石に難しいだろう。

 この町を争いに巻き込まないために、リナリアは何か考えがあるようだった。

 会ってそれも知りたい。

 どこに行けば会えるだろう?

 もしかしたら会いに来てくれるかと淡い期待もあったが、姿が見えないどころか連絡すらない。

 仕方ないか、俺は精霊なんて扱えないからな。

 とりあえず昨日の宿に行ってみよう。

 人の中を縫うように歩く。

 酒を飲んで肩を組みながら歌う中年の男。

 父、子、母と並び子は両手を繋いで楽しそうに歩く家族。

 仲睦まじげに寄り添い歩く恋人達。

 幸福がある、煌びやかな世界。

 カイトと会う約束をしたあの日、そんな人々を特に何も感じることなく通り過ぎたが今は、疑念の眼差しで見てしまう。

 そして、その中を歩く俺はやはりいないように。

 

 ……ん?なんだ、あいつは。

 

 前から白いローブを羽織った、背格好からして多分男がこちらへ向かってくる。

 深くフードを被り顔が見えない。

 怪しい奴だな……待て、あれは。

 だが、おかしいな。速度を緩めない。

 目前まで近づく。

 声をかけてくる様子もない。

 なんだこいつ、無視する気か?

 呼び止めよう、と足を止めようとした。


「ルーン地区にこい」


 すれ違いざまの一瞬に放たれた言葉。

 思った通り、この声はミツカゲだ。

 普通に接触してこないのは、周りを警戒してのことか?

 今振り返れば不自然。

 そばで目についたのは、宝石などの装飾品が売られている店。興味はないが、足を止めそれらを物色するフリ。

 視線だけ横に向ける。

 ミツカゲはちょうど角を曲がり姿が見えなくなる。

 慎重なのは、ミツカゲたちと組んで何かをしようとしているのを、カルディアに悟られないようにするためなのか。

 ルーン地区は住居しかないし、しかもここから距離があるな。

 そんなところに呼び出して、何かあるのか?

 とにかく今は言われた通りに行くしかない。

 少し時間を置き、人の流れに乗りルーン地区を目指す。

 しかし、ルーン地区。

 今日話題に出た気がする。

 何故そんな話をしていたんだっけか。

 誰が話しをして……そうだ、思い出した。

 今日カイリがその話題を出し、アルが答えたんだ。

 貴族の女が殺害され、普段から人が寄り付かない不気味な路地だと言っていた。

 瘴気が始まった後の事件のようだが、流石に悪魔に関係はないだろう。カミュンの言う通り、この事件に限らず物騒なことはこの町では度々起きる。

 

 

 人の気配が減っていく。

 代わりに闇が深くなる。

 民家が建ち並び、窓からは淡い光が漏れ、微かに夕食の匂いがする。

 ここがルーン地区か。

 特に異変はなさそうだが、警備隊はおろか人の姿があまりない。

 警備隊は人が多い場所、そして富裕層が集まりそうな場所を選んで配置しているからここに姿がないと推測できる。

 住人の姿があまり見えないのは、それを理解し防犯のためなのかもしれない。

 しかし、ミツカゲの姿も見えない。

 呼び出して、あいつはどこにいる。

 もちろん叫んで呼ぶのは、やめた方がいい。

 少し先を歩いてみるか。

 当てもなく歩く。

 本当に民家しかない。

 道を曲がり路地の中を進み、また曲がる。

 徐々に狭くなる路地裏。

 妙な静けさで、己の足音しか聞こえない。

 劣化が見られる壁。

 その前にに適当に積み上げられた木箱や、道にはゴミも多い。

 負の念の吹き溜まりのように、この辺りの空気は重い。

 特にここ。

 角を曲がる。


 ……いた。


「つけられてはいないようだな」


 曲がったすぐそばの壁に背を預けたままで、こちらを見ようともしない。

 腕を組み、相変わらず偉そうな態度だ。


「おい、ふざけるな。もう少し詳しい場所を言ってからいけ」

「貴様なら、ここに辿り着くと思っていた」

「どういう意味だ」

「ふん、やはり貴様は悪魔だということだ」


 こいつ……意味が分からない。


「リナリア様のことを周りの人間に話していないだろうな」

「話していない。聞かれたことには不自然にならないよう、答えられることだけ答えた」


 だから、キルに嘘までついたんだ。


「そうか。奴が誰になりすましているかは分からぬが、その中にいるのならリナリア様の動向を探ろうとしているのかもしれぬ。奴がどこまでこちらの行動を把握しているかは知らぬが、やはり慎重に動いた方が良さそうだな」

「それは構わないが、見張らせている精霊では分からないのか?」

「精霊は、全てを見通せるわけではない。人と同じで、視野もさほど広くはない。精霊の利点は人には見えず相手に伝わる速度が速い、それだけだ。速いと言っても、多少遅れも生じる。距離が離れるほどな」


 なるほど。

 俺を監視できるが、周りで起こっている異変は察知できない場合もあるということか。

 便利であることに間違いないが、少し過大評価をしていたようだ。

 それはいいとして、こいつ一人なのか?


「リナリアはいないのか?」

「リナリア様には、まだすべきことが残っている。終えたあとでもよかったのだが……私が先に状況を伝えにきた」

「それはいつ終わるんだ? そもそもリナリアは何をしようとしている」

「それを話すために貴様をここに呼んだのだ。ついてこい」


 ここにきた意味はあるということか。

 ミツカゲは更に奥へ進んで行く。

 一歩踏み込むと、背が撫でられるようにぞわりとした。

 視界が一瞬歪んだ感覚。

 どろどろと、まるで淀の中にいるような重苦しさ。

 関係ないとさっき思ったばかりなのに、多分そうなのだろう。

 この通りはカイリが話していた場所。確かに不気味で、人が寄り付かないのも納得できる。

 

「嫌な場所だな」

「ここには、精霊もあまり寄り付かぬ」

「精霊も気味が悪いと思うのか?」

「あちらの世界の境界が薄く、繋がりが濃い場所には邪気が溜まりやすい。光に虫が群がるようなものだ。精霊もそのような場所は嫌悪する」

「虫か」


 さっきこいつが言っていた意味はそういうことか。

 つまり、俺は虫扱い。

 ……今、あちらの世界と言ったか?


「それ故に何が起こるか分からぬ。長居は避けるぞ。これを見ろ」


 ミツカゲは積み立てられていた木箱を退け床を指差す。

 あちらの世界というものが気になるが、今はミツカゲの話に集中するか。

 床に何か描いてある。

 これはなんだ?

 解読できない文字が連なり、それらが円を作っている。

 円の中に、一回り小さな円。

 見たことのない記号も描かれている。

 それよりも驚くのは、この魔法陣らしきものが淡く光を放っていること。

 何で描かれているかは知らないが、見ていると不思議な気持ちになる。

 神秘的?荘厳?

 とにかく目が離せない。

 

「これは」 

「リナリア様が施した印だ」

「印?」

「エリン様の腕輪の力を借り、あちらの世界への入り口を無理矢理開こうとしている」

「さっきもそう言っていたな。それはなんだ」

「貴様はこの世界が特別だと、私が言ったのを覚えているか」


 そんな話、どうだったか?

 いや、いつだったかそんな言葉を耳にした気がする。

 あれはそう、ミツカゲとエリンがこの世界に降りた理由を話していた時に、こいつがそう言っていたんだ。


「そういえば、そんなことを言っていたな」

「どの世界も死した魂は、天に昇るか地に堕ちる。そして、魂はまた巡っていく。しかし主がこの世界を創造した理由は、優れた兵士を作り上げるためだ」

「どういう意味だ? 兵を作るって何を企んでいる」

「魔王に対抗するために、より優れた兵が必要なのだ。他の世界にはない、この世界だけに加護の力が存在する理由は、そういうことだ」

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