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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第四章
94/111

93.イブツ

 瞼を開けば、天井に一直線に伸びる光の線が見えた。

 部屋の中が明るい。

 いつの間にか眠っていたのか。

 体を起こし、窓際に立つ。

 淡く光が漏れる布をめくれば、眩い光に目を細めてしまう。

 すぐに鮮明に見え出す色。

 ここからの景色は良いものではない。

 目の前には同じような形のアパートの壁しか見えないが、朝日を浴びる建物に心内が騒がしくなる。

 今日が始まる。

 きっと何か起こる。

 

 服を着替え、支度を始める。

 まだ早いがじっとしていられない。

 ソードフォルダーに剣を差し家を出る。

 まばらに人が歩く大通りから城の方へと足を進める。

 必ず悪魔を倒して見せる。

 その為には腕輪が必要だが、リナリアはいつ返してくれるだろう。

 もうミツカゲとの話はもう終わったか?

 来ないということはまだなのか。

 向こうはこっちの行動を把握しているが、俺は何をしているか分からないのがもどかしい。

 だが、リナリアは嘘をつきたくないと言っていた……だから、今は彼女を信じて待つしかない。









 影が落ちる。

 思案をしていたら、いつの間にかここまで。

 目の前に立ちはだかる城壁を眺め、拳を握る。

 俺が今できることをしないと……っと、いってもカイリを見張るしかできない。それはトワもしているが、いざその時がこれば真っ先に俺が。

 それに、まだカイリと決まったわけじゃない。他の奴の可能性だって等しくある。

 

 ここにいるんだ、ここに、俺のそばにいるのだから。

 

 いつも通り門番に挨拶をする。

 人影はちらほらと見える。

 いつも変わらない城内、会う人に挨拶をされれば返し、されなければしない。

 見慣れた景色、見知った人間も今はどこか遠く未視感のような感覚。

 とりあえず頼まれた異物を保管してある倉庫の鍵をもらいに行くか。

 

 鍵が保管してある部屋に行くと、無愛想な男が一人。眉間に皺を寄せ、機嫌が悪いと顔にかいてある。

 男は俺の顔を見るなり何も言わず、ほかるように鍵を投げてきた。

 さっさと行けといった圧。

 何度か会ったことあったが、こんな奴だっただろうか?何かした覚えは全くないが……。聞くまでもないから、大人しく部屋を出るか。

 


 倉庫は敷地内の外れ。

 城を出て石造の寂れた倉庫の前に立てば、ぞわぞわと背を撫でられるような嫌な感じ。

 元々不要なものを置く倉庫であったが、今は異物の保管に使われている。異物は高値で取引される物もあるが、見張りもいない、ひっそりとしたこの場所にある物はきっと価値がない物だろう。

 錆びついた鍵穴に、鍵を刺す。

 ガチャリと音を当て、傷んだ木の扉が隙間を開ける。更に押して中の様子を伺うと、埃っぽい匂いに僅かに血生臭さが混じる。

 高い位置に、四角にくり抜かれた窓が二つ。そこから差し込む光が、浮遊する塵を映し大きく揺れ出す。

 なかなか広さのある部屋で、所狭しとガラクタの山を作っている。

 一つの山から何か転がり落ち、カランカランと冷たい音を立てる。

 異様な雰囲気。

 静寂した空気は淀を孕み、死臭の満ちるこの場はまるで別の世界……いや、死の世界。


 ……何を考えてるんだ。

 

 リナリアから腕輪を返してもらえるまで、俺のやるべきことを。カルディアに警戒されないように、普段通り。とにかく指示通り物を分けていくか。さて、どこから手を付けるか……。

 手袋をはめ、ガラガラと一人騒音を上げているとバンッ、と勢い良く扉が開く音。


「隊長っ!」


 けたたましい音と共にアルの叫び声。

 思ったより来るのが早い。

 グレミオとマリー、そしてカミュンまで。

 皆が慌てた様子でそばに集まってくる。

 気を緩めるな。


「早いな。カミュンまで、どうした」

「いやぁ~気になって眠れなかったんで」

「気になる? 何が」


 アルがカミュンの脛を思い切り蹴り上げる。


「いってぇっ! なにすんだっ!」

「馬鹿っ! 隊長こいつのいうことは、気にしないでください。それよりも随分と早いですね。僕らの方が早く着くつもりだったのですが、すみません」

「いや、気にしないでくれ」

「そ、そうっすか?」


 アルとカミュン、グレミオはそれぞれ顔を見合わせ、どこか気まずい雰囲気。

 別におかしな事は言っていないのに、相手の一挙が気になってしょうがない。

 それより、カイリがいない。

 

「カイリは?」

「カイリ? そういえばいないですね」

「俺より遅いなんて珍しいっすね!」

「カミュンさん、自分で言ったら世話ないですよ」


 ドクドクと自分の脈打つのが分かる。


 もしかして、逃げられたのか?


 探しに行ったほうがいいのか?

 いや、トワが精霊をつけているのだから何かあれば分かるはず。

 連絡がないということは、まだ。

 

「お、おはよ」

「あ、カイリちゃん!」

「遅刻だよ」

「アルさん遅刻ではありませんよ。私たちが早いだけですから」

 

 そろそろと気まずそうに、皆の輪に入るカイリと一瞬目が合う。


「カイリ」


 カイリは顔を下げ目も合わさない、何も言ってこない。昨日の行動の意図を聞きたいが、この場では相応しくないか。

 とにかく逃げられていなくてよかった。今は目の届く範囲にさえいてくれればいい。リナリアの計画が済むまでは、行動を起こさせない。牽制も俺の役目だ。


「はぁあ、それよりここ臭~い」

「そうですね。嫌な感じです」

「いいからさっさと片付けるぞ」

「あ、はいっ!」


 飛び出すように駆け出すアルを筆頭にそれぞれ散り、手袋をはめる。


「初めて見たけど、なんかよく分からないね」

「ガラクタの山じゃねぇか。なんで俺らが」

「雑用ぉ係だからねぇ」

「僕は宝の山みたいでワクワクする」

「そうですか? なんだか、墓場みたいです」

「これどうしたらいいんっすか?」

「似たような物同士、分けて欲しいそうだ」

「似た物? 最初っからそうすればいいじゃないっすかね!」


 カミュンにしては珍しく理にかなった事を言う。


「汚いから触りたくないんでしょぉ~私もぉ触りたくなぁい」

「ここにある物は価値がない物だから、扱いも雑なんだ」

「俺たちみたいだな」

「まぁまぁ」


 仕分ける物の場所を決め、それぞれ手分けして作業を始める。が、手よりも皆口の方がよく動く。


「この前のハンターが持ってた異物もそうだけど、私達には何に使うものか分からないね」

「そうですね。それに結局我々には、何故瘴魔が持っていたのかも分かりませんでした」

「あっ! これ」


 アルが嬉々として、ガラクタの中から何かを拾い上げる。


「凄い! これが、今噂の銃のモデルかな!?」


 筒の根本からへし折れた物を興味津々に見回している。

 赤紫の血は渇いてはいるがべったりとついているのに、アルは気にならないようだ。


「あんまりペタペタ触らない方がいいですよ」

「そんなんで喜んじゃって~子供ねぇ」

「うるさいな」


 アルは構え、まだついている引き金に指を添える。なんだかそれが様になって見えた。


「おっ! これもそうじゃないか? 確かにかっこいいなっ!」


 多分そうなのだろうが、アルが持っているものと違う形。ずいぶんと小型な物。ひしゃげたそれは、とてもじゃないが使えそうもない。銃にも様々な形があるんだな。


「先端を僕に向けるなっ!」

「色が素敵いっ! 見てこれ!」


 カイリの弾む声に胸が跳ねる。

 どうやらガラクタから興味そそられる物をを見つけたようだ。両手で持ち上げ掲げた物は、片翼になってしまった天使の置物。

 薄汚れて所々かけているが、淡い色の装飾が見えることから、そこそこ状態がよさそう。

 それにしても嬉しそう。その姿はいつものカイリだ。


「ガラクタばっかりねぇ~。きったないしぃ、やりたくなぁい」


 文句をぼやきながら、マリーは錆び付いた小さなハサミのような物をチョキチョキとしている。

 静かだったこの場は賑やかになる。

 アルとカミュンは今だに銃の話で盛り上がり、カイリは他にも無いのかと探し出し、マリーは座ってぶつぶつ文句を垂れているだけだ。黙々と作業をしてくれるのはグレミオだけ。

 みんな好き放題。明らかに人選ミス。

 なんだか、馬鹿馬鹿しくなってくる。

 カルディアがいるのかもしれないのに、俺は何故こんなことをしているのだろう。意味あるのだろうか。辟易する。

 早くカルディアの尻尾を掴みたい。


「遊んでると終わらないぞ」

「あっ、すみません!」


 アルは慌てて銃を放り投げる。


「違うだろ! そっちだ! しかも雑だな」

「カミュンのくせにうるさいなぁ」


 指定された場所に銃を置こうとすると、アルはグレミオの手元に目をやり問いかける。


「それなに」

「クワの先……ですかね」

「クワ?」

「ピカピカに磨いてあげれば使えそうなんですがね、勿体無いです。瘴魔はこれで農作業でもしてらしたんでしょうか」

「なにそれ、くだらない」

「でも、いいですね」

「いい? ああ、グレミオは農夫になりたいんだっけ」

「そうですね。そう言う生活も憧れた時もありました」

「なら早く退役してよ」

「ふふ、まだまだ譲りませんよ」

「ちぇっ」


 そう返事をして、アルは作業に戻る。


「やりたいならぁ、今からでもしてみたらいいじゃないのぉ~」

「そうですね。平和な世界になって、我々が必要なくなればしてみたいですね」

「それも近いんじゃね? このまま瘴気がなくなって瘴魔もいなくなったら俺らは、もう戦わなくてもいいからな」


 どことなく残念そうに言うカミュンの言葉は、まさに俺の願い。

 

「それでいいだろ」

「そうですね。闇ビトも瘴気も異形のモノもない、争いのない世界になれば誰も死ぬ事は無くなるでしょうから」

「どうかな、人間がいる限り争いはなくならない」


 和やかな空気をアルがぴしゃりと遮る。皆動かしていた手を止め、静まり返る空気にカミュンの怒声が響き渡る。


「余計な事言うな!」

「余計? それが現実だ。結局人間の敵は、同じ人間なんだ。お前だって分かってるだろ」


 苦虫を噛み潰した顔をしてカミュンは黙り込み、誰もそれ以上に反論をしない。それは俺も異論ないから。

 皆は知らない。

 俺が悪魔だって。

 人間に紛れ人間のフリして生きてきた……なんだ、それって俺もカルディアみたいだ。

 

 ここにいるせいか、後ろ向きな考えしか浮かばない。

 今は余計なことは考えるな。

 カルディアを見つけ悪魔を倒し、リナリアを救う。それだけ……それだけだ。









 アルの一言から皆真面目に取り組み出す。

 黙々と作業をしてくれたおかげで、部屋の中は見違えるほど綺麗になってきた。

 一時はどうなるかと思ったが、これなら早く終わりそうだ。


「なんか体もだけど、妙に気疲れするね」

「体が重い気がしますねぇ」

「はは、呪われたんじゃねぇか」

「馬鹿だな。呪いなんてない」


 僅かに浮ついた声色を聞きながら、足元に転がる折れた剣を拾い上げるとアルがそばにくる。


「あと少しですね。頑張りましょう」

「あぁ」

「しかし酷い状態の物ばかりで、ここに置いて何の役に立つんですかね。そんな折れた汚い剣、正直ゴミですよ。全く無駄な仕事を隊長にさせて……」


 ゴミと言われた剣をアルは俺の手からぶんどり、剣の墓場に無慈悲に投げ捨てる。

 カシャンッと鉄がぶつかる音は、不快だが泣いているように切なくも聞こえた。

 カミュンがうるさいと怒鳴り言い合いが始まる。

 それをグレミオが宥め、マリーは二人を貶す言葉を投げている。

 いつもの光景。

 それはこれからも続いていくものなのか……。

 普段と変わらない仲間を、カイリは複雑そうに見て笑っている。


 ……カイリ。


 ふと足元に転がる物に視線が移る。

 ぼろぼろの人形。

 目にしてある黒いボタンは片方ない。

 青い服を着た腹は破れ、中の綿がはみ出し赤紫に染まっている。

 他の世界は悪魔のせいで崩壊してしまったが、それでも片手に握った剣とまだ笑みを浮かべる人形に、最後まで勇敢に戦ったんだと心を馳せてしまう。

 守りたい人のために、俺も。

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