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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第三章
81/111

81.暴かれる真実(リナリア視点)

「……知りたくない」


 そう口走った自分に対し、反射的に体がビクッと跳ね、叩かれるように鼓動が跳ね出す。

 そして、そばに立つ問うてきた相手へ、ぎこちなく首を傾けてしまうのは、勝手に口が開いて、意思に関係なくそう言ってしまったから。

 私から確かに発せられたのに、耳に届いた感情のこもらない無機質な声は、私の中から誰が喋ったように異質なものに聞こえた。


 ……マリャ……なの。


 ずっとマリャが自分に干渉していることを否定し続けたけど、初めてそれを実感し、胸に襲い来る気持ちの悪い悍ましさに、跳ねる鼓動は力を弱める。

 だけど、膨らんだ恐怖は一瞬で爆ぜ、すぐに激しい怒りに変わる。

 勝手に私の意思を変えて、私を私じゃなくそうとしてくる。そんなの許されない、だって、私は私なんだから。

 拒否したのに、フォニは何も言わず、私を伺うようにしているのは、まだ答えを待っているよう。

 だから、()が答える。


「でもっ、知らないといけないって、私はそう思うの」


 私は知りたい。

 真実が何なのか、知ってしまったあと何が変わってしまうのか怖いけど、マリャに好き勝手されるのは嫌だし、強がることが得意な()は、ここで引き下がったりしない。

 フォニは目を細め、私を見定めるように見つめてくる。揺らがない意思から、その目を逸らさず真っ直ぐに見返すと、ふっと安堵したように瞳が和らいだ。

 

「分かりました。貴方に覚悟はあるようだ。ではまず、貴方は僕の話を聞いて、何か疑問に思った事はありますか」

「疑問? ミツカゲの隠し事以外で?」


 急にそう聞かれても。

 でも、そうだ。

 フォニの話を巡らした中で、一つの疑問を思い出す。


「どうして私なのかな。悪魔が封印された時に、神様が入り込んだ闇と一緒に、私に力を与えることはできないよね。だってそれは、ずっと昔の話なんだから、私は生きていないし」

「そうですね。時間が大きくずれている。なら辻褄を合わせられるようにするには、どうすればよいと思いますか」


 それを教えてくれるんじゃなかったのと、顔を(しか)める。

 早く教えてと言いたいけど、すぐに答えへ飛びつくのは負けた気がして嫌だから、出された問いを仕方ないから考えてみる。

 まず初めに思いつくのは、神様の世界とこの世界の時間の流れが違うこと。

 でも、封印が解かれたのは、この世界でも50年前と確定しているのだから、やっぱり合わない。

 そうなると、他に何があるのかな?

 他の可能性はと思考したけれど、どれもが納得できるようなものではなかったので、もうお手上げ。

 むぅ、悔しい。

 

「もう、分からない」

「何故ですか? 貴方がその時にいたと考えれば、自然と答えが出ます。貴方は貴方が思っているよりも、ずっと長い時を生きている」

「何、それ。揶揄ってるの?」


 飄々(ひょうひょう)とした顔をするフォニに、あんなに一生懸命考えた答えがこれかと落胆してしまう。

 簡単っていうけど、そんなの現実離れな話だし、そうしたら私、おばあちゃんだよ。

 当たり前だけど、私はそんな歳でも見た目でもない。

 不服だと、フォニに目で異議を立てると、血色の悪い唇を僅かに笑わせ、肩をすくめる。

 

「なら、彼の事はどう思いますか」

「彼、ミツカゲのこと? ミツカゲはミツカゲだよ。たまに怖いけど優しくて、たまに厳しいけど守ってくれる。ずっとそばにいてくれてる、私にとって親みたいな」

「それは、忠義からですよ」


 容赦ない言葉の刃が、私の心を抉り、悲観させる。

 ミツカゲとの間には常に壁を感じていたけど、忠義だけで私のそばにいてくれるなんて、そうじゃないって、そうであって欲しくないって、ずっと、違う答えを探していたのに。


「忠、義」

「それこそ疑問に、思わないのですか。何故貴方のことを、身を(てい)して守るのか。貴方を敬い、忠義を誓い、仮に彼が貴方のことを本当に家族と思うならば、ゆきすぎているとは思いませんか」

「それでも、私は」

「彼の見た目、変わりましたか」

「えっ?」


 見た目?

 何でそんなこと聞くの?

 ずっと一緒にいたんだから、そんなの、変わったに……あれ、どうだったかな。

 思い浮かべるミツカゲは、今のミツカゲのままで、その姿以外思い出せない。

 でも、ずっと一緒にいたから、意識してなかっただけで、そんなもんでしょっと、あしらおうとした。

 だけど、楽観視する言葉は、フードの中から私を見据える目によって、喉の奥へ消えてしまう。

 戯言は許さないと言った本気の色を見せる瞳は、私に何か来ると、身構えさせる。

 フォニは私に猶予を与えるような間を作り、口を開く。私は咄嗟に服の裾を握る。


「どうです、彼は変わりましたか」

「わ、分からないけど、でも、ちゃんと思い出せば」

「ないものを、どう思い出すのですか。天界の恩恵を受けられなくなった彼は、明らかに力が弱まっていましたが、それでも老いを見ることはないでしょう」

「なんの話を、しているの」

「貴方に気づかれないように、疑問を持たせないようにしているのは、貴方を壊してしまうものを、マリャが消しているからです」

「や、やめてよっ」


 ピシッ、と亀裂が入る音が、確かに頭の中で聞こえた。

 バクバクと大きく鳴る鼓動が、脳まで響き、今までと比ではない激しい痛みが、頭を襲う。

 そして痛みに触発されたように、私を作り上げてきた今までの思い出が、走馬灯のように流れ、それが、大きく歪み出し、脆く、色褪せ出す。


「平常な状態であれば本来貴方は、眠らなくても良いはずです。ですが貴方は、人のように正しく夜眠りにつこうとします」


 な、なに。やめてよ。


「貴方は食べなくとも、生きていける。ですが特に気に入ったものつくり、それを、美味しそうに食べています。さながらそれは、嗜好品と同じ」


 私を否定するフォニの声が、頭の痛みのせいで、水中にいるようにぼやけて聞こえる。

 視界が揺れ、意識が遠のき出す。

 それは、痛苦による拒絶。

 だけどいくら拒絶しようとも、一度入った亀裂は止まらず、脆くなった私自身を割いていく。

 

 思い出が……私が、壊される。

 

 止めようと、必死になって耳を塞ぐ。

 やめて、やめてよ。

 これ以上は、聞きたくない。

 なのに、フォニの冷たい手が私の手首を掴み、引っ張り、閉じた耳から引き剥がし、それを許さない。

 

「聞いて下さい」

「やめてっ、もう、聞きたくないよっ!」

「貴方は世界に夢を抱き、泣き笑い、怒るという感情を見せ、人のように成長をする」

「やめてって!」

「それらは全て、本来の貴方には不要なのですよ」


 やめてやめてやめてっ!

 

 フォニの手を振り払い、守るように私は、壊れそうな私を抱きしめる。

 触れる腕は、震えていているのに熱をもたず、その冷たさに、自身の生が乖離していくのを感じた。


「……貴方は、見るもの全てに胸馳せる。それは、側から見ればとても、輝いた素直な人に見えます。ですが、人ではないと知っている僕からは、人になろうと無理をし、繕おっているように見えて仕方ありません」


 人、ではない。


 刃のごとく鋭く、脳内に刺さった一言に、守ろうとした私が、粉々に砕け散った。

 バラバラになって、手からこぼれ落ちていく私を戻そうと、両手で顔を覆う。

 だけど、指の隙間から落ちるだけで、もう戻らない。

 

 何を言ってるの……やっぱり、騙そうとしてるの。

 だって、人じゃないっていうのなら、私は……。

 

「なら、私は……なんなの」

「貴方は神の長、ルゥレリア・アンシーバルの魂の片割れ。貴方こそが、神なのですよ」


 知らない人の名が、砕かれ破片となった私さえ奪っていく。

 力の入らない、フラフラとした足取りで下がり、つまづき、冷たい椅子の上に体がどさっ落ちる。

 顔を押さえる指の隙間から見える、足元。

 それはもう、私の体には見えない。


 私自身が……神、様。


 痛みによる支配が、潮が引くように体から消えていく。

 静けさが訪れ、空虚な頭の中で波紋を描いた言葉は、じんわりと広がろうとするけど、受け入れたくないと堰き止めてしまう。


「ルゥレリアは貴方に力を与えたわけではなく、闇に染まった自身を切り離した結果、貴方が産まれたのです」

「そんなはずない、だって、私は」

「信じられないのなら、目が覚めた後、彼に聞いてみては」


 冷え切った体に、風を吹き付けられたように、ゾクゾクとした。

 無意識に顔を上げながら、手を下ろす間に、胸の奥底から伸びた恐怖が、私の意識に到達し戦慄する。

 信じているミツカゲが、私を裏切っていたらという悪い想像に、その先を聞くのが、怖かった。


「……どういうこと、ミツカゲは知ってるの」

「彼は、ルゥレリアのそばで仕えていた天の使いです」

「ミツカゲが……」

「本当の名は、イラエノというのですよ。イラエノは貴方の闇、マリャを消す為にエリンと共に、この世界に降りたのです」


 エリン。

 その名を聞いて、知らない女の人が私の脳裏に現れる。

 柔らかなウエーブがかかった、小麦畑のようなブロンドの髪色をした女の人。

 伸びた前髪の毛先を肩の上で揺らしながら、澄んだ湖のような薄い青い丸い瞳で、微笑みかけてくる貴方が……。


「エリン」

「エリンの儀式は完成し、貴方の中のマリャはいつでも消せる状態です。それまでの間イラエノは、貴方をただ守っていただけなのですよ」


 じんわりと鼻の奥に痛みを感じだし、フォニの顔が、滲んでいく。

 なんて目をして、フォニは私を見ているのだろう。

 淡いオレンジ色の虹彩は、沈む夕暮れのように切ない瞳の色を見せる。

 

 そんな目で見るなら……こんなこと、言わないでよっ。

 

 湧いた不条理に歪めた瞳から、頬に、暖かさが流れる。

 それは冷えた体には、熱さを感じるほどで、指先で触れ、そこを見つめる。

 

 私今、泣いているんだ。

 

 悲しいって、やっと胸に痛みを感じた。

 涙と同じように落とした顔から、離れないようにと寄せ合う膝へと、雫が落ちていく。

 それは降り出した雨のように、止まらない。

 

 マリャを消せるってことができるって、そんなこと知らなかった。

 それを、探そうとしてたんじゃなかったっけ。

 それをずっと……起きたら、それを、考えようって。

 

 なのにっ、どうして……こうなっちゃったのかな……。


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