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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第三章
79/111

79.夢の世界(リナリア視点)

 今の悪夢が頭の中に張り付いていて、言われた言葉の意味をまだ理解できない。

 あの人の記憶って、言ったのかな。

 それは、誰のことだろう。

 

 あの人、あの人、あの人。


 呼ぶように繰り返し、掘り起こしながら今までの記憶を漁っていくと、一人思いある人に辿り着つく。


 ひょっとして、私に力を与えた神様のこと?


 そうなの?っと胸の内で尋ねながら、階段下で立っている男の子を見つめる。

 そもそも突然現れたけど、この子は誰?

 私と同じくらいの背丈なのは分かるけど、フードを深く被っていて顔がよく見えない。

 着ている服は目を細めてしまうくらい鮮やかなオレンジ色で、白い空間には尚のこと映えて見える。

 元々ゆったりとした服なんだろうけど、太ももまで覆う裾と、指先も見えない袖の長さ、顔を隠しているフードの大きさから、明らかにこの子の体に服のサイズが合ってない。

 そして気になるのが、前を閉め合わせている線状の金属の留め具。

 これを私は見たことがないし、ローブとも違うこの服をなんて呼ぶのかも分からない。

 よく目を凝らすと、上着の左の胸に何かの絵が描かれてる。

 何だろう?ここからじゃ、よく見えない。

 フードのせいで見えていないはずなのに、私を見上げるようにしている男の子が首をかしげる。


「まだ、混乱していますか?」

「あの、貴方は誰なの」

「そうですか。会ったばかりなのに、もう忘れてしまいましたか。貴方の心に僕は、残らないようですね」


 厚手の生地のフードの縁を摘み上げ、男の子は顔を見せる。

 見えた顔に、私の体が一瞬で凍りつき、息が止まる。


「……フォニ」


 恐怖よりも、うんざりとした重い気持ちに、思わず頭を抱えてしまう。

 なんで、さっきから……この夢はなんなの。どうして今度は悪魔が出てくるの。

 でも、なんだろう?

 フードを頭の半分に被せ、よく見えるようになったフォニの顔に違和感を覚える。

 

 本当にフォニなの?

 

 丁寧な口調の中には悪意が篭っていたけど、今はただ物腰が柔らかな感じで、張り付いたように常に浮かべていた不気味な笑みも、あどけない少年のように無垢に見える。

 あと一番の違いは、瞳の輝き。

 塗り潰したような真っ黒な角膜だったのが、夕暮れのような淡いオレンジ色の虹彩が見え、それに生気を感じ、全くの別人に見える。

 私の知らないフォニ。

 もうこんな夢、見たくない。


「なんで、さっきから変な夢ばっかり見るの……悪魔の夢なんて、見たくないのに」

「僕は夢でも幻想でもありませんよ。貴方に残るマリャに干渉し、接触しています。僕たちは、繋がっていますからね」

「へっ? なら、貴方は本物なの? 本当にここにいるの?」

「えぇ、そうですよ」


 これは、夢の中の現実。

 そう理解した瞬間、咄嗟に椅子から立ちあがろうとする私に向け、フォニが制止するように手をかざす。


「貴方は是非、そこへ座っていて下さい」

「……私を、殺しに来たの」

「いいえ。僕は貴方と話をしに来ました」

「私は貴方と話す事なんて何もないし、したくないっ」

「そう言わないで下さい。父さんは寡黙だと言われていましたが、本当は口下手なだけで、お喋りが好きなんですよ」

「だ、だからなんなのっ!」

「だから、僕もって事です」


 私の怒気を微塵も気にする様子もなくフォニは微笑むけど、それがあまりにも綺麗で、何かが欠落しているような作りモノに見えてしまうのは、やっぱりフォニだからなのかな。


「話をする為に来ましたが、それと他に気になる事がありまして」

「……なに、それ」

「この世界の結界ですよ。この世界は他の世界と比べ非常に繋がり辛く、天界の者は立ち入ることすらできない。それはマリャの拒絶のせいかと思ったのですが、果たしてマリャにそれほどの力があるのか、そして何故あの人は解く事ができないのか」


 なんだろ、急に頭がズキズキする。

 それがぐわんぐわんと、押し付けるような痛みに変わり、気持ちが悪くなってきた。

 体を横にして休みたい……でも、敵を前にしてそんなことできない。


「……あの人、悪魔を封印した神様のこと」

「手間を取りましたが、父さんはこの世界に繋がる事ができました。マリャがいくら拒絶しようとも……ですが、天界の者は今だ拒絶されたままです。貴方のことは如何なる犠牲を払おうと、神々にとって守らなくてはならない存在なのにですよ。ですからもっと強い何か特別な力がこの世界にあると、先日貴方と会った時に僕はそう感じたのです」

「神様を拒絶する別の力? それは、なんなの」

「マリャに干渉すれば分かるのかと思いましたが、こうして貴方に接触することも困難でしたので、僕にもまだそれが何か分かりません。ただ分かったのは、貴方の精神の状態にマリャの力は、大きく左右されるということですかね」

「私の? どういうこと」

「貴方の気持ちが揺らぐと、マリャの力も弱くなる。ですから、僕はこうして貴方の前に立つことができた。貴方が強くあろうとするのも、そういうことなのですかね」

「なに……それ。マリャがそうさせてるって、言いたいのっ」


 そんなはずないっ。

 みんなを守れるように、大切な人を守れるように、どんなに辛いことがあっても、いつだって強い自分でいようとしてきたのは、間違いなく私がそう思ってきた。

 だって、そうじゃなければ私は。


「いえ、すみません。貴方はもともとそういう人だ。まぁ、この話はこのくらいにしておきましょうか。僕は、貴方と別の話をしたかった」

「ミツカゲを傷つけた貴方と、話すことなて何もないっ! 早くここから出て行ってよっ! それに私は、早く目を覚ましたい」

「貴方を見上げていると、不思議な気持ちになります。僕にはない記憶なのに、懐かしさや喜び。そして、絶望を感じてしまう」

「なんの話……私の話を、聞いてるの」

「他人の記憶を見る。僕と貴方は似ていますね」

「やめてよ。私は、貴方と同じじゃない。もう話したくない」


 痛いっ、頭が割れそう。

 我慢できなくて、フォニを前に頭を押さえながら、下を向き塞ぎ込む。

 

 痛い、痛い、怖い。

 

 ただ痛いだけじゃなくて、頭の中を誰かに覗かれているような、おかしな感覚がする。

 これ以上は、嫌……聞きたくない。

 早く目を覚まして、ミツカゲとトワに会いたい。

 ジュンちゃんとダイヤに会いたい。

 ヴァンに会いたい。


 会いたいよ。


「無駄ですよ、マリャ。今の貴方に、僕を追い出すことはできないでしょう」


 頭を押さえながら顔を少し上げ、私ではなくマリャに語りかけたフォニを見下ろす。

 階段の下にいるフォニの体が、薄くなったり、濃くなったり、不安定な色を繰り返したあと、何事もなかったように元の色に戻る。

 マリャがここからフォニを、追い出そうとしたの?

 でも、それはフォニがいうように失敗してしまったみたい。


「しかしこれ以上貴方の状態が悪くなれば、話をするどころではなくなってしまいますね。少し気晴らしに、貴方の好きな話でもしましょうか」

「私の、好きな話? なんの話」

「どうでしょう。他の世界の話なんて」

「私は貴方にそんな事言ってない! 適当なこと言わないでっ!」

 

 本当はそうだけど。

 苦笑するフォニを睨んでいると、私から視線を外し何もない宙を見上げる。

 懐かしむような目で虚空を見つめ、ずっと作っている笑みをしたまま口を開く。

 

「貴方のいるこの世界は、不思議ですよね」

 

 何、突然。

 この世界が不思議?

 今までこの世界で生きてきたから、何がどう不思議なのか、言われても私には分からない。


「不思議?」

「えぇ。たくさんの世界を巡ってきましたが、加護の力、ですか。人ならざるもの(・・・・・・・)にしか、扱うことができない力を与えられている世界は、ここだけですよ。他の世界では、まるで本の中で描かれるような御伽の世界」


 フォニの話に頭の痛みと、気持ちの悪さが和らいだ。

 本当に?

 私にとって当たり前だけど、他の世界ではそうじゃないの?


 他の世界って、どんなとこなんだろう?


 そこに住む人達は、どんな生活を送っているのかな?

 食べ物や服装。言葉や価値観は、私の世界とどう違うの?

 考えてもその答えを、知ることはない。

 だって他の世界を見る事は、私には何をしたってできないのだから。


「他の世界は……どんなところなの?」


 抑えきれない好奇心が、口から溢れてしまう。

 フォニは私に視線を戻し嬉しそうに笑うから、負けた感じがしてなんか悔しい。


「そうですね。例えばこの世界での移動手段は、地上では徒歩か馬、馬車などですが、他の世界では車や電車という乗り物があるんですよ」

「くるまに、でんしゃ? なにそれ?」

「人が発明した機械の乗り物ですよ」

「機械の、乗り物」


 どんなものか、想像してみる。

 まず形は、乗り物なら馬車みたいな感じかな。

 機械って聞くと、機械式の時計を思い出す。

 馬車を動かすくらいだから、大きな歯車がたくさん付いてて、動かす時はぜんまいを一生懸命に巻いて、それで車輪が動いて……うん!動き出した!

 でも、なんだか遅いよ。

 歯車がうるさいな。

 あぁ、坂道を転がってく!止まらないっ!

 私の作ったくるまは、向きも変えれず木にぶつかって大破してしまった。

 無惨に転がる歯車……出来上がったのはなんだかいまいち。

 本物のくるまって、何で動くのかな。


「……くるまは、どうやって動かすの?」

「車は石油を精製したガソリンや軽油、電気ですよ。それらをエネルギーにして動かす。簡単に言えばそう言うことです。平地を走るのなら馬よりも断然に早く、長い距離を走行できます」

「へ、へぇ。そうなの……凄いんだね。方向を変える時は、どうするの?」

「方向ですか? ハンドルというもので、操縦できるのですよ。タイヤ……車輪と連動し傾けると、方向も変わるわけです」

「はんどる、なるほど」

「ふふ、細かいところが気になるのですね」

「――っ! あ、あとは、どんな乗り物があるのっ!?」

「飛行機という乗り物で、空も飛べるんですよ。それで他国へ、簡単に行き来できます」

「空が飛べるのっ!?」


 す、すごいっ!

 それこそ本当に、魔法みたいっ!

 空も飛べて、簡単に他の国に行けるなんていいな。

 空から地上を見るって、どんな風に見えるのかな?


「空だけではなく、人類は宇宙にだって到達しています」

「う、宇宙!? それって空よりももっと高い、星があるところだよね」

 

 胸のわくわくに、何も履いていない足が自然と動かされる。上下にゆらゆらと、小さく揺れる足先を見つめながら、私は他の世界に胸を馳せる。

 星までいけちゃうなんて、他の世界の文明は信じられないほど発展しているんだなぁ。

 それを思うと、この世界は飛躍的な進歩というものはないように思える。まるでずっと同じ時を生きているみたいに。


「あとは連絡手段でしょうか。手紙はありますがね、他にも電話やメールといわれるものがあるのですよ。それで離れている相手と話すこと、文章を送ることが出来ます。携帯電話という物でいつでも、すぐに」

「連絡って、精霊が力を貸さなくてもできるの?」

「そうですよ。精霊ではなく電波で」

「でんぱ?」

「音声や文字を電気信号に変え電波に乗せ、基地局や交換局を介して」


 説明してくれてるけど、推測もできないほどの知らない言葉、知らない仕組みで理解なんて到底無理だと諦めてしまう。

 そもそも、でんぱってなんだろう?

 全く想像がつかないなぁ。


「あと、テレビなんてものも」

「てれび?」

「それはですね」


 フォニは他の世界の話をたくさんしてくれた。

 私は自分の夢を乗せながら、作り話かと思ってしまうほど、想像と遥かに違っていた他の世界の話に耳を傾ける。

 ずっと胸が踊らされて、やっぱり世界って素敵だな。


「いいなぁ。映画って楽しそうだね。他には?」

「そうですね。戦う手段も違いますよ。この世界では剣や加護の力ですが、他の世界では銃です」


 銃?

 確か異物を元に、再現しようとしている道具の名前と同じ……まさか他の世界と、同じ呼び名だったなんて。

 鉄でできた筒の先端から、弾を発射する武器だったかな?

 私も何度か異物として見たことあるけど、瘴魔(しょうま)の体内から出てくるそれらは、ほとんどひしゃげたり潰れていたりしていて、どれも状態は悪かった。

 でも、完成させたい人は世界中にたくさんいて、加護のない人達は自分たちの解放のための武器だと言い、国の偉い人たちは他国を出し抜き、優位に立つためにこぞって銃の元本を欲しがっている。

 南の帝国も、銃の製作に着手したって噂を耳にしたな。

 状態の良い物は高値で取引されるから、それに目をつけたハンターと呼ばれる異物を売り捌く人たちの、素行の悪さも問題にもなった。特にこの辺りは瘴気の発生が多かったから……それは、私のせいだったけど。

 はぁ、トワが新しい武器は争いの火種になるから良くない言ってたけど、他の世界の人はその武器をどうして作ったのかな?

 誰に向けていたのかな……。

 悪魔の封印が解かれて、他の世界にも闇ビトが現れたのなら、闇ビトかな?


「他の世界の人は、銃で闇ビトと戦ってたの?」

「闇ビト……それはこの世界での、父さんの漏れ出た気の名称でしたかね。そだけではないと思いますが、僕たちにもその武器で向かってきましたよ。他にも爆発物を使用していました。僕自身に危険は感じませんでしたが、人間の恐ろしさを見た気がします。どちらが世界を破壊しているのか、分からないほどに」


 人の怖さという知りたくない現実に、胸を馳せていた世界の景色が、少し褪せてしまう。

 それでもその世界の人たちは何も悪くないのに、ただ普通に生活をしていただけだったのに、悪魔は自分勝手な思いのために、素敵な世界を壊してきた。


「全部……他の世界も、そこに住む人達も貴方達が壊してしまった。一番恐ろしいのは、やっぱり悪魔だよ」

「そうですね」

「気になってたんだけど、貴方が来ている服見たことない。もしかして、他の世界の服じゃないの?」

「……えぇ」

「殺した人の物を」


 殺した人たちの物を身につける精神は、尋常じゃない。どんなに繕った笑みをしても、フォニの本質は悪魔なんだ。

 私は間違ったことを言っていない。

 なのにフォニは、悲しみに堪えるような目をしながら無理に口角を上げ、作りものの笑みをまた作ろうとする。

 それがあまりにも痛々しく、私が悪い気さえしてしまう。

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