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咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第三章
77/111

77.お守り(リナリア視点)

 ※今回51話の後、リナリア視点になります。






 気づけば自室のベットの上で、頭から布団を被り丸まっていた。

 どうやって帰ってきたのか分からないくらい私は取り乱しているのに、先程の出来事が頭の中で鮮明に蘇り続ける。

 

 ごめんなさい、っとヴァンに謝ったのは、自分の弱さを露呈させてしまったから。

 悪魔という未知なる脅威に狙われた彼を、守れる存在でありたかった。

 友人を亡くし、自分の母が悪魔だと知って辛いであろう彼に、頼ってもらいたくて強い自分を演じてきたけど、悪魔を目の前にした私は、何か壊されてしまいそうな恐怖を感じ戦うことができなかった。

 そんな弱い私を、悪魔はずっと笑ってくる。


『せっかく得られた機会を無駄にして。いつまでこうしているつもりですか』


 嘲笑する言葉が頭の中で木霊し、いつまでも消えない。

 分かっていたはずなのに。

 ヴァンのお母さん、マリャが悪魔を拒絶してでできた貴重な時間を私は、自身の闇を消す方法を探すべきだった。

 目玉さんも色々教えてくれたのに……あれから前進したことが何かあったかな。

 

 悔しいっ、情けないっ……悲しいよ。

 

 自分を追いやる言葉が胸から溢れ、それが涙に変わり、とめどもなく頬へ流れる。情けない姿を誰にも見られたくなくて布団の中に隠れても、嗚咽する声は漏れ出てしまう。


「リナリア様」

「大丈夫ですか」


 ミツカゲが心配そうに名を呼ぶ声と、トワの優しい声が降ったのと同時に、薄い布団の上から丸めた背に手が置かれる。

 いつからいてくれたのかは分からないけど、その温かさが胸に染み渡り、抑えている感情が決壊してしまう。


「トワっ」


 布団から飛び出し顔も見ずにトワに抱きつくと、声を上げて泣いてしまう。

 いい年して子供みたいだけど、今の私にはそれを恥じるほど余裕がない。

 ベットと本棚しかない寂しい部屋に、泣き叫ぶ声だけが響く。

 今はただ甘えて、泣いていたかった。


 どれくらい泣き続けたのか涙も枯れ果て、気持ちがようやく落ち着きだす。こうしていることが恥ずかしいと思いトワから離れるけど、顔は見ることができない。

 トワは何も聞いてこないけど、もうミツカゲが話したのかな。


「リナリア様、これをお返ししますね」


 俯く私の視界に入ったのは、月明かりに朧げに照らされた小花柄のカバーを被せた文庫本。

 カバーの下の表紙には、可愛らしタッチで男の子が描かれているけど、それも色褪せ傷みが見える古いこの本が、私の大切なお守り。

 アデルダへ行くのと引き換えに、トワに預けたこのお守りと離れたのも初めてだった。

 それほどいつも肌身離さず持ち歩いている物なのに、いつから持ってるのか、どうして持ってるのかは、忘れてしまったのはなんでだろう。

 何故か思い出せないけど、間違いなく心の拠り所にしていて、傷心している私は今どうしようもなくあの言葉が読みたくなった。

 栞を挟んだページを開くと、白と淡いピンクの花色をした押し花が、私を迎えてくれる。

 これも覚えていないけど、以前聞いた時にトワが加護の力を付与して作ってくれたって言ってた。だから、いつまでも綺麗なんだって。

 その栞をずっと変えずに挟んでいるのは、このページにある一文が好きで、いつでも見れるようにしたいから。


――君にとって希望になる人が、必ず現れる――


 この言葉に私は、希望を感じる。

 今まで辛い事や悲しい事が沢山あったけど、生きていればいいことがきっとあるって、未来を信じることができた。

 そして、私も誰かのそんな人になれたらいいなって、そう思って戦ってきたのに結局私は、何になれたんだろう。

 誰の希望になれたのかな。

 私のせいで瘴気が起きて、たくさんの人が傷ついてしまったのに、私は彼を守ることを優先してしまった。

 それはキルとの約束だったからなのか、フォニが言ったように私の中にあるマリャのせいなのか。

 ううん、違うよ。

 私自身が、彼を守りたいって思っていると信じている。

 

 ……だから、会いに行ったことを後悔していない。


 結局そう思ってしまう自分は、なんて愚かなんだろう。

 自分よりも他人に尽くす。

 それが私の指標であったのに、全く反面の自分本位さに汚い自分を見てしまったようで、自己嫌悪してしまう。


「これから……どうしたらいいのかな」


 自分を見失ってしまい漏れ出た弱音に、ミツカゲもトワも複雑そうな顔を見合わすだけで何も言わない。だから私も同じような顔をしてしまう。

 悪魔の囁きが、頭の中で蘇る。


『忠犬は貴方に、隠し事をしている』


 それを知りたいですか、っとフォニが耳元で囁いた言葉を思い出しながら、闇に溶けてしまいそうなくらい静かに佇むミツカゲを見つめる。

 聞くのが怖い。

 ミツカゲが私に、隠し事をしているなんて考えたこともなかった。それほど信じているのに。

 何を隠しているの。

 それをどうして、教えてくれないの。

 言えないこと?

 どうして言えないの?

 悪魔と、関係があるのかな。

 そういえばフォニは、ミツカゲのことを前から知っているような口ぶりだった気がする。

 どうしよう。

 隠し事があるのかと聞いたら、ミツカゲよりもフォニを信じてしまったみたいで躊躇してしまう。

 

 もうこれ以上、落胆されたくない。

 

 だけど、私は聞いてしまう。


「あのね、ミツカゲは私にその……何か隠してる事があるの?」


 私の問いにミツカゲは、更に眉間の皺を深くするので、怖れから顔を逸らしてしまう。


「何故、そのような」

「……フォニがそう言ったの」

「それは悪魔の戯言です。信じるに値しません」


 きっぱりとそう言われたら、それまで。

 私には隠し事が何か追及する材料もないし、突き詰める勇気もない。

 悪魔は嘘をつくと本人が言ったのだから、やっぱり嘘だったのかな。でも、なんで?動揺させるのが狙い?

 分からない。

 だけど、ずっとどうしようもなく不安で怖い。


「私、神様に力を返したらどうなるのかな」

「……」

「普通の人になるのかな」 


 私の持っている力は神様のものだから、闇が消えれば返すってことなんだよね。

 それが私の本当の役目。

 力がなくなった私は普通の人……普通、というか忌子になってしまうのかな。

 力がなくなることは、恐ろしい。

 この力のおかげで私は、守りたい人を守ってこれたのに、それももうできなくなる。

 だけど闇ビトは悪魔に吸収され消えたのだから、悪魔さえいなくなれば、私が戦う相手はもういない。力も必要ない。

 ずっと戦いに身を置いてきたのは、みんなとは違う特別な力を持った意味が、これしか見つからなかったから。

 役目だと、自分に課してきたものがなくなる。

 自由になる。

 本当にやりたかったことが、できるかもしれない。 

 頭の中で一番初めに浮かぶのは、貴方。

 

 やっぱり、ヴァンに会いたいな。


 でも、彼はもう私に会いたくないかもしれない。

 お互いの中にあるマリャのせいで、彼は自分が持つべきではない感情を持っていると、フォニが言っているのを朧げながら聞いていた。

 私はそうじゃないと思ってるけど、ヴァンは分からない。

 それでも願ってしまう。

 しばらく会えないだろうけど、次いつ会えるか分からないけど、それまで私のこと忘れないでいてほしい。

 指切りをした約束、覚えていてくれるかな。

 あの時の事を思い出すとヴァンの困った顔が浮かぶ。今思えばかなり強引だったけど、ジュンちゃんに言われた事を思い出し、自分なりに勇気を出して頑張ったことだった。

 私にとって指切りは特別で"必ず守る"と、強い思いを持たせてする。だから、叶えたいけど……どうかな。

 次にしたい事はやっぱり、世界を見て見たい。

 私がずっと思い描いていた夢だけど、最近少し変わって実はヴァンと一緒に見たいと思ってる。いいねって言ってくれたし一緒に行ってくれないかな?

 でも、連れてっちゃったらキルが寂しがるよね。ならキルも一緒に……って王様だから無理か。

 ジュンちゃんとダイヤも、家族のことを考えると難しいかなぁ。

 あ、もちろんミツカゲとトワは一緒に。


 きっと楽しいだろうな。


 大切なお守りへと微笑む。

 頑張ればきっと、楽しい未来が見える。

 それが私の今の希望。希望があれば前へ進める。

 大好きな言葉と押し花の栞を、横並びにしてじっと見つめる。

 ふと、誰かの言葉が頭の中に蘇る。


――どうか、守ってあげてほしい――


 なんだろう。

 誰がそう言ったのかな。

 男の人だったかな?

 誰を守ってほしいって、頼んできたっけ。

 遠い記憶。でも記憶にはない。

 

 でも、その人が本をくれて、だから私は指切りを……んん。

 

 そうだ、この花も誰かがくれた。

 私の好きな言葉と一緒に。

 だから私は、生きていたいと思えたような、そんな……。


 すごく大切なことだった気がするのに、モヤがかかって思い出せないな。

 それに……ふぁあ、すごく眠い。

 疲れたのかな。

 うん、きっと疲れたんだ。

 目を擦るとトワが優しく頭を撫でてくれて、それに胸が安ら、ぎ更に睡魔が襲ってくる。


「少し、お休みになって下さい」

「うん」


 少しだけ寝よ。

 起きたらこれからのこと、考えない……と。

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