表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
咲く君のそばで、もう一度  作者: 詩門
第三章
74/111

74.気持ちの答え合わせ②

 ふと、辺りが明るくなっている気がした。

 気持ちが落ち着き出したリナリアの頭を撫でながら空を見上げると、先ほどまで雨を溜め込んでいた厚い雲が薄くなり、日の光が透けている。

 今日の空はまるで、誰かの感情を写しているように不安定だ。


「でも、私のせいでっ関係ないみんなを巻き込んじゃう。うぅっ、みんなを傷つけてしまう。貴方と生きたい。でも、こんなことやっぱり許されない。私は、自分が許せないっ」

「リナリア、生きるのに誰かの許しを乞う必要なんてない」

「でもっ」

「リナ」


 囁くような声で彼女を呼ぶ人は、見なくても誰か分かった。リナリアの事をリナ、っと愛称で呼ぶ人物を、俺は一人しか知らない。

 白い花の群生の上、ジュンと赤毛が立っていた。

 いつからいたんだ。


「ジュンちゃん、ダイヤ」

「誰がなんて言おうと、私はずっとリナの友達で味方だよ。だからね、お願い……諦めないで。私ができることならなんでもする。一緒に頑張ろう」


 ジュンは悲しそうに微笑みながら、静かに涙を流す。隣に立っている赤毛は魂が抜けたように呆けた顔で、静かに下を向く。


「……あぁ、友達、だもんな。俺もお前のためなら、何でもしてやる」


 そう言いながら赤毛は開いた目で地を見つめ、引き攣った笑みをする。

 なんだか見ていて恐ろしく、そして……痛々しい。

 こいつは、リナリアの事を結局どう思っていたのだろう。

 

「リナリア様」

「トワ」

「覚えていらっしゃいますか? 私たちに名をつけてくれたあの日」 


 トワが俺たちのそばに立ち、リナリアを温かな眼差しで見つめ、優しく微笑む。


「真名を言えなかった私たちに、貴方は名を与えてくれました。ずっと一緒にいる、そんな意味を込められた名のままに、私はこれからもおそばにいたいと思っております。そうでしょう、ミツカゲ」


 話を振られ、皆の視線がミツカゲに集まるが、薄い口元は結ばれたまま。

 どうやらトワの声は聞こえていないようで、合わない視線でただこちらを見ているだけ。なんなんだ。

 ミツカゲっ、と再度強めの口調でトワが呼ぶ。

 はっと目を開いたので、今度は耳に届いたようだ。

 

 それはまるで、あなたの番と天に命されたように、雲の切れ間から降りた光がミツカゲを差す。

 その光を受けるよるに、ミツカゲの瞳に強い意志が宿ったように見えた。

 

「私は全てを捨ててでも、貴方をお守りします」

「ミツカゲ」

「それ以上に大切なものはございません。それは忠義でなく、ただ貴方が大切なのです。罪は、私が背負います」


 どうか届いて欲しい。

 みんなリナリアのことを想ってる。

 生きて欲しいと、願っている。

 

「リナリアは誰かを守る為に戦うと言っただろ。俺もそうだ。ずっとキルとカイトを、守りたいと思って戦ってきた。そして今はリナリアの事も守りたい。俺だけじゃない。ミツカゲもトワも、ジュンもダイヤもみんな君を守りたいと、失いたくないと思ってる。その為に俺たちは戦える」

「……ヴァン、ありがとう。ジュンちゃんもダイヤもありがとう。ミツカゲ、トワ……ありがとう」


 一人一人顔を向け礼を言った後、リナリアはまたポロポロ涙を流し、俺から離れ今度はトワへ抱きつく。

 ふふっ、と声を漏らし、トワは子供を慰める母親のように、柔らかな金色の髪を優しく撫で始めた。

 空から光が差し出したこの場に、愛に包まれるような温かな空気が流れる。

 ミツカゲもトワもジュンも優しげに微笑みながら彼女を見守っている中、赤毛だけが下を向き眉間に皺を寄せ険しい表情を見せているのが気になる。

 それでも俺も、リナリアが生きる道を選んでくれたとようやく確信できたので、些細なことを気にするよりも胸を撫で下ろす。

 しばし愛でるようにリナリアを慰めていたトワが急に眉を顰め、難しい顔になる。

 

「我々がこれからすべきことを、話し合わねばなりませんね」


 そうだな、いつまでもこうしてはいられない。

 俺は頷く。


「やはり先ほどヴァンさんが言われた通り、異世界とこの世界が再び繋がる前に、悪魔の心臓を討つことでしょうか」


 悪魔の心臓さえ殺すことができれば本体も死に、この世界に母が張った結界もきっと消える。

 そうしたらこの世に囚われているカイトも、救うことがでかきるはず……だが。


「でも、仮に悪魔を倒せてもマリャが、ヴァンのお母さんが張った世界の結界もきっと消える。そうしたら、神様はきっと私を迎えに来る」

「リナリアの中にあるその……闇も消えてしまうのか?」


 トワから離れ、複雑な思いを抱えたような顔で俺を見るリナリアの代わりに、ミツカゲが答える。


「封印が解かれたことが原因で、マリャがリナリア様から出たと考えれば、マリャは自我があろうと、個ではない。繋がっているのだ。悪魔が死ねば、リナリア様の中の闇も恐らく消え、結界は解かれるだろう」

「ならば、先にリナリアの中にある闇を払うことは、問題ないということか? 消せさえすればリナリアも力を取り戻し、当初の目的であった心臓を見つけることができる」

「世界中の人間に今から一人ずつ、会いに行けというのか」

「だが、もともと」


 そうするしか、っと言おうとしたが、それはやめた。それしか方法が見つからなかったから、そうしようとしただけで、現実的でないことくらいは子供だって分かる。やれないことを、いつまでも議論をする意味はない。

 

「そして浄化の儀を行うことは、やめておいたほうが良いだろう。マリャの結界は、事あるごとにリナリア様に変化をもたらしていた……それを考えると、マリャとリナリア様も深く繋がっている。闇を祓うと恐らく、結界の力が弱まる。そうなれば、あの方なら破る事が可能であるし、同時に悪魔もこの世界に入りやすくなる」

「神を退けるのにも、悪魔を退けるにもマリャの結界が我々には必要ですが、悪魔はこうしていてもいずれこの世界に襲来するでしょう」

「その差はなんだ。何故神は母の結界を破ることができずにいるのに、悪魔は破ることができる」

「うん、そうだね」


 リナリアも疑問を抱いているようで、考え込んでいる。そんなリナリアの様子をチラリとミツカゲは見た後、俺をどこか苛立った目で見て、分からぬっ、ときっぱり言う。


「いずれにしろ、我々が悪魔を討つことができたとしても、今度は神を相手にしなければなりません。そして、もしマリャの闇を今から消したとすれば最悪神と悪魔、両方を相手にせねばなりませんね」


 分かりやすくまとめてくれたが、トワの発言には頭を痛くされる。

 つまり心臓を討つのと、神と対峙するかのどちらが早いかというだけ。しかし、悪魔はともかく神ならば懇願すれば慈悲を与えてもらえないだろうか。

 

「神に願っても無理だろうか」

「神様の敵はね、他にもいるの」

「他? それは」

「魔王」

「……魔王」


 神も悪魔も天使も霊もいるのだから魔王も……って、この台詞はいい飽きた。

 頭の中は解決策を模索してばかりでごちゃごちゃしていて、あまりピンとこない魔王に対し真剣に考えたくない。

 世界には、なんでもいる。もう、それでいい。


「魔界の王。そもそも時の神様が闇に堕ちたのは、魔王の罠だったって、フォニが言ってた」

「またあいつが。リナリアはフォニと何を話したんだ」

「それはまた、話すよ。とにかく、神様には力が必要なの。お願いしても、無理だと思う」


 唯一の思いつきは、希望も抱けずに消えてしまった。

 ならばやはり、悪魔を倒したら今度はリナリアを奪いにくる神と戦わなければいけない。

 それは、悪魔と戦うよりも恐ろしく感じのは、俺が悪魔だからなのか……。

 

 俺は神に、勝てるのだろうか。

 

 その脆弱な思いを、無理やり頭から消す。

 やれるかではなく、やるんだ。

 リナリアとそう約束をしたのだから、弱気になってどうする。

 しかし、結局希望に向えるような結論はでなくて、要はことの成り行きに争うしかない。

 誰もこれ以上の答えを出せず沈黙したままで、ミツカゲは目を細め空を眺めている。イラっとする。

 こいつ、ちゃんと考えているのか。

 俺が心の中で文句を垂れていると、不意にこちらを見てくるので少し胸が跳ねる。


「リナリア様。この件は私にお任せください」

「ミツカゲ?」

「何か策があるのか?」


 俺のことは無視。

 ミツカゲはリナリアの手を取り膝をつく。


「あの方に迎え入れられる事を、私が必ず退けます」

「ミツカゲ、なにをするの」

「リナリア様が不安に思うことはいたしません。私のことを、信じていただけますか」

「……うん」


 リナリアの返事を受け、ミツカゲは柔らかく微笑む。信じろと脅迫に近い言葉に、リナリアは答えを選べなかったように俺には思え、自然と眉間に皺がよる。一瞬だが、トワも同じように眉を動かしたように見えた。

 

「ならばそれはミツカゲに任せ後は、心臓をどう見つけるかですね」


 ミツカゲが何を考えているかは分からないし、俺は信用できないが、とにかく心臓を見つけないと先へは進めない。

 この世界の誰かの魂を喰らい、その人間に成り代わり人として生きている心臓を、どうやって見つけたらいい。

 リナリアは無理であるし、エリンもきっと頼ることはできない。

 こればかりは、なんの思いつきすら浮かばない。

 

「フォニといろいろ話したようだが、心臓については何か言ってなかったのか」


 小さな背に問いかけると、顔を落とすだけで答えない。それは分からない、ということなのだろうか。舐めた奴だが流石に、自身の首を締めるようなことは言わないか。


「リナ、もう話してもいいんじゃない。私たちみんな戦うって決めたんだから」

 

 離れた場所で立ったまま、ジュンはリナリアへと促す言葉を投げかける。

 それにミツカゲとトワが驚きを露わにする。どうやら二人も知らないことを、ジュンは知っているようだ。


「リナリア様、他に何か?」

「……」

「リナリア」


 俺が名を呼ぶと、リナリアは小さく息を漏らし、顔を上げ俺に向き合う。

 俺を見る彼女の瞳からは、憂えが見えた。


「心臓カルディアは、ヴァンを見てる。それがどう言う意味なのかは分からないけど、ずっと貴方を見てるって、フォニがそう言ってたの」

「……俺を」

「ごめんなさい。ヴァンには伝えるべきか、分からなかった。不安な思いをすると思ったし、それに……見つけてもフォニは、私たちにはなにもできないって」

 

 リナリアの言葉を受け、各々考え込み、辺りは静まり返る。

 その静けさに、鳴り出した鼓動が聞こえてしまいそう。平静を装うが胸の中は騒然とし、かなり驚いている。

 まさか自分の近くにいたなんて、予想もしていなかった。暗い霧の中から、急に手を掴まれたような恐ろしさに体が粟立つ。

 

 ……ずっと見ている。

 

 それは、俺のそばで潜んでいることを示唆しているのか。それともフォニが監視していたように、心臓も遠目から俺の動向を探っているという意味なのか。

 どちらにしろ、重要な手がかりだ。

 カルディアと呼ばれる心臓、そいつは少なくとも近くにいる。なら、アデルダなのだろうか。どう炙り出すかはまだ分からないが、とにかくここにいてもなにも変わりはしない。


「俺はアデルダへ帰る。必ず心臓を見つけて、悪魔を倒す。だからリナリアは、ここで待っていてくれ」

「えっ、どうして」

「もし、本当に俺の近くに心臓がいるなら危険すぎる」

「ま、待ってっ!!」


 リナリアが慌てて俺の服の裾を掴み、不安気な瞳で見つめてくる。瞳の奥に見えたのは願い。彼女が何を言いたいのかは分かったが、俺はそれを承諾できない。


「必ず、君を守るよ」

「ヴァン。でも、私は」


 振り払うことができない手を握り、大丈夫、っとリナリアへ言った。彼女が次の言葉を継ぐ前に俺は手を離し、背を向け前へ進む。あまり長くしてしまうと、行きづらくなる。だが、せっかく思いが通じ合えたのに、次会えるのは心臓を倒した時だなんて切ない。後ろ髪を引かれるし、胸の息全てを吐き出したいくらい盛大な溜め息をしたいが、これも彼女を守るためだ。

 俺を見ているジュンに近づき、尋ねる。


「馬は」

「あ、あの、先預かった場所に」

「そうか」

「……ヴァンさん。ありがとう」


 ジュンはそれだけ言って、リナリアの方へ駆け出していく。ジュンはなんとなくだが、こうなることを分かっていた気がする。だから、俺をリナリアに会わせたんだ。

 すれすれ違いざまに、赤毛と目が合う。


「……ふざけんな」


 背後から聞こえた赤毛の捨て台詞に、俺は足を止めないし、何も答えない。

 その代わり少し顔を横に向け、肩越しに見る。

 リナリアの方へ歩み寄る赤毛の背は、火が消えたように覇気がなく、なんとも小さく見える。

 彼女が生きる道を選んでくれたのに、ジュンとは対照的に全く喜ぶ素振りが見えない赤毛は、この選択を否だと思っているのか……それとも。

 まぁ、俺がいくら考えたところで赤毛の本心なんて分からないし、そんな些細な事を考えている余裕は今の俺にはない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ